20 突入
食事、睡眠、持ち物もしっかりと確認しそれぞれの役割や行動も話し合い、時間内にできる準備は可能な限り行いました。
「では突入します」
「はいよー」
「うむ」
「了解……」
私は動きやすいように制服は着ず、バイオスーツの上から適当に作ったホルスターだけを身に着けて右手にライトを取り付けたインパクトハンドガンを持ち、左手には新しく取得した装備チャージシールドを持ちます。
盾を持つ私が先頭に立ち、近接戦闘が主体のカタリナさんが私の後ろに控え、さらにその後ろに支援火力と荷物持ちのグレースさん。
そして案内役のウルリカさんは内部に入るまでは最後尾。
洞窟内がどうなっているのか分かりませんが、グレースさん曰く進めば広くなるかもしれないということなので少し早く歩いて前進します。
「あれー?以外と明るくない?」
洞窟に入ると道が下り坂になっており、日光がすぐに遮られ手に持つ灯りを頼りに進んでいましたが、進むにつれてライトで照らしていない場所でもよく見えるというのが分かりました。
「巨大な神の屍は死してなおもその力を残している……この黒い金属は屍の中でのみ暗所を明るくする……」
言われて初めて洞窟の地面や壁が金属になっている事に気がつきました。
この黒い金属には見覚えがあります。
「そして屍の中に長時間放置された生物の亡骸は金属へと変化し動き出す……」
「それが黒金屍骸というわけですね」
私が神屍の棄児を追いかけている最中に遭遇した人型のモンスターは人間の死体が変化したもののようです。
神屍の棄児は生きながらにして変化した存在であり、黒金屍骸を従える力を持っている強力な個体なので倒そうと思ったら重症は覚悟するべきとのこと。
もっとも現在の目的は攫われた冬子さんと鹿野という子の救出なので棄児とはなるべく戦わないようにします。
洞窟に入ってからしばらく坂を下ると大きく開けた場所に出ました。
「います」
遠くの方にざっと数えて四体の黒金屍骸が徘徊していますが、ライトの光を当てているにも関わらず私達には気づいていません。
「どうしますか?」
「倒す……逃げる時に邪魔になる……」
「わかりました、ウルリカさん」
「はいよー」
私はしゃがんで盾の右下を地面に突き立て、そこに銃を持った右腕を乗せて安定させます。
ウルリカさんは後方から矢を弓につがえて引き絞ります。
そしてグレースさんは魔力を温存するために待機。
「さん、にー、いち、いま」
ウルリカさんの職業[レンジャー]のスキルで放たれた矢は黒金屍骸の体を貫通して後方の金属の壁に衝突すると地面に落ち、矢が転がる音と共に黒金屍骸が膝から崩れ落ちました。
それを皮切りに他三体の黒金屍骸がこちらに走ってきます。
弓を逸脱した威力、金属を貫通してもなお形を留めている矢。
インパクトハンドガンは標準的なバトルライフルに近い貫通力を持っていましたが、あの矢はそれ以上の威力を持っています。
つくづくスキルというものはすさまじいと思いますが、それを用いないと倒す事のできないモンスターという存在もまた強力なのでしょう。
「あと十秒」
「了解しました」
ウルリカさんの使用したスキル[アンチアーマーアロー]は鎧を身に着けている敵にのみ効果が働くもののようですが、はたしてどこまでが敵でどこまでが鎧なのか。
少なくとも黒金屍骸にはかなりの効果があるようです。
私はインパクトハンドガンをエネルギー切れになるまで連射。
「リロード」
先頭に立つ一体のみに装填されているバッテリーを全て撃ち切り、それによって残り二体となりました。
チャージシールドを持って立ち上がり、インパクトハンドガンのグリップをチャージシールドの右下近づけると予備のバッテリーが一つ付いた充電器がスライドして出てきます。
そして充電器の空いた箇所にグリップ内のバッテリーが磁石のようにくっ付き、充電器に収まっていた予備のバッテリーをインパクトハンドガンに装填。
「手前のを抑えます、カタリナさん」
「うむ、奥のは任せろ!」
インパクトハンドガンをワイドモードに切り替えて射撃。
手前の黒金屍骸を転倒させ、盾を構えつつ少し接近して起き上がらないように射撃を続けます。
「射るよー」
「はい」
ウルリカさんの合図で転倒させた黒金屍骸から距離をとるのと同時に矢が黒金屍骸に突き刺さり、その頃にはカタリナさんが残った黒金屍骸を倒していました。
「連携は良好……」
現在の私達はいかにグレースさんが魔力を温存できるかという戦い方をしています。
時間稼ぎに向いた装備の私が前方で構え、攻撃力の高いウルリカさんが後方から支援射撃、最も戦闘能力が高いカタリナさんが確実に敵を減らす。
というのが当初話し合っていた作戦ですが、敵の数によっては何も考えずに戦った方がいい気もします。
「さてと、あっちみたいだねー」
矢を回収したウルリカさんはポケットから血の付着したガラスを取り出してスキルを使用、追跡を開始しました。
「なーんかここ地味だねー」
「そうですね、どこを見ても金属ばかりで」
「ここは巨大な屍……骨は骨でしかない……」
「洞窟の任務を嫌がる者の気持ちがよくわかる」
巨大だから洞窟のように感じているだけで、実際は朽ち果てて残った亡骸の内部を徘徊しているだけ。
黒い金属以外には誰かが持ち込んだであろう革袋や布などがたまに見つかるくらいで、特に代わり映えのしない道が続くため冒険感が薄くて少々残念ですね。
「んんー?」
二つに分かれた道を発見したところで追跡を行っていたウルリカさんが立ち止まり、視線を左右に動かしています。
「どうかしたか?」
「スキルが切れたのですか?」
「いや、トラッキングマスターのスキルは僕にしか見えない線みたいなもので対象まで導いてくれるんだけどさー、線が二本あるんだよねー」
「追跡対象が常に一つなのであれば一度進んで引き返したのではないでしょうか?」
「ああーなるほど、じゃあさっきまで見えてなかった方を追えば短縮できるねー」
二回ほどウルリカさんのクールタイムがあった後、再び開けた場所に出ました。
しかし突然ウルリカさんが足を止め、手で私達にも止まるように促します。
「しーっ……」
人差し指を口にあてて静かにするようにと合図してから手招きしてきたので、全員近づいて小声で話します。
「アレ聞える?」
耳を澄ましてみると、僅かにすすり泣くような声が聞えてきました。
「人の声だな」
「ということはつまり」
「黒金屍骸がいる……」
神屍の棄児は連れ去った生物が逃げ出さないように黒金屍骸の見張りをつけ、ある程度洞窟を歩き回るのは許されるようですが、外に逃げようとすると連れ戻されるようです。
「では当初の作戦の通りにやりましょう」
「承知した……」
「んじゃ行こー」
「うむ」
まずウルリカさんとカタリナさんの二人が要救助者の所まで行きます。
その間グレースさんが魔法を使用しておき、私は待機。
グレースさんは体が数秒間黒い発光を起こした後、その発光が杖に移り、その杖を地面に突き立てると黒い光が地面に落ちて水のように広がりました。
続いてグレースさんが取り出したのは洞窟に入る前に持ったケミカルライト。
「これ……つかない……」
「もっと力を入れて、枝を折る感覚です」
「壊れない……?」
「大丈夫ですよ」
パキッという音と共にケミカルライトが発光を始めました。
「少し振ってください」
「わかった……」
しっかり光ったところでケミカルライトを魔法をかけた地面の所に置きます。
「準備完了……」
二人の合図を待つこと数分。
カタリナさんの合図である大声が聞えてきました。
「うおおおおおおおお!」
「品がない……」
グレースさんは姉に対して少し辛辣なところがありますね。
すぐにカタリナさんとウルリカさんのライトが見え、その姿もしっかりと視認できる距離になります。
「えっ!?なにっ!?なになに!?」
カタリナさんに抱えられている女の子は一人だけ、それも冬子さんではなく鹿野というもう一人の子みたいです。
「気をつけて!そこですからね!」
走ってきたカタリナさんとウルリカさんはケミカルライトを飛び越えて女の子を降ろして剣を構え、ウルリカさんも弓を構えるとすぐにもの凄い速度で接近して来る黒金屍骸が見えます。
「来た……」
「あれは騎士でしょうか?」
左手に盾、右手に剣、全身を覆っている金属は他の黒金屍骸と違い形が西洋の甲冑に酷似しています。
しかしそんな事を気にしている暇はなく、黒金の騎士がケミカルライトの辺りに足を踏み入ります。
その瞬間黒金の騎士は足をつかまれたかのように身動きが取れなくなっていました。
「あんなの明らかに罠なのに簡単にかかったねー」
「射撃開始します」
ステータスを一切上昇させていない者であれば人間二人を抱えても余裕で走れる筋力のカタリナさんが要救助者を強引に連れ去り、ウルリカさんがそれを支援。
グレースさんが張った行動を阻害する魔法に誘導というとても単純な作戦。
動かない的であれば私もウルリカさんも命中させるのは難しくないので一方的な攻撃が可能ですが、攻撃は全て盾で防がれてしまいウルリカさんの[アンチアーマーアロー]でも盾に刺さるのみに留まります。
追いかけて来る以上はここで倒しておきたいので、騎士に接近して盾を引き剥がしてから撃とうかと思ったその時。
「あぶな――」
バァン!
カタリナさんの声は全て聞き取れませんでしたが、何を言いたいかは分かりました。
あの黒金の騎士は超高速で移動し、グレースさんを攻撃しました。
私がなんとか防ぎましたが、私の持つチャージシールドに剣が衝突した音と共に私の体に強い衝撃が伝わります。
「[ダッシュストライク]で罠を抜けた!?」
すぐには気がつけませんでしたが、騎士の剣はチャージシールドを貫通して先端が僅かに私の左肩に刺さっていました。
騎士はそのまま剣を押し込もうとして来たのでチャージシールドを手放して距離をとると、騎士は剣を後方に振るってチャージシールドを回収できない距離まで投げました。
「気をつけて……そいつ知性がある……!」
あのわかりやすい罠にかかったのは私達を油断させるため。
攻撃に成功すればグレースさんにダメージを与え、私に防がれても盾を奪えるということですか。
「これは厄介ですね」




