19 二つの姉妹
「ただいま戻りました」
「ただいまー」
私とウルリカさんは山村さん宅で休憩させてもらったので辺りは暗くなり始めています。
「おかえりなさい」
門の近くに移動させた木蔦教諭の自動車で私達を待っていた燐葉寮長が出迎えてくれました。
「そちらのかたは?」
「帝国騎士団竜剣士隊の見習い四年生、ガストンの子カタリナ、グレースの姉だ」
「あら、もう見つかったのね」
「グレースさんは今どこに?」
「図書館よ、他の生徒達も図書館にいるわ、乗って」
いつどこからモンスターが湧くかわからない現状、いつでも逃げられるように出入り口が多く暇つぶしも可能な図書館に立て篭もっているということでしょう。
「車で入っていいんですかー?」
「今はそんな場合じゃないわ、それにこの学園無駄に広いんだもの」
「これが自動車か!馬車と違って揺れが少ないな!」
「そりゃあちゃんと舗装された道だしねー」
本来なら学園の敷地内は自動車で入るのは禁止であり、駐車場からは徒歩で移動する必要がありますが今は自動車で図書館へ向かいます。
徒歩だと時間がかかりますが自動車だとすぐに到着できます。
図書館に近づくにつれて、時間帯を考えると暗いはずなのに外が明るくなっているのがわかりました。
燐葉寮長が自動車を止めたので外へ出ると、図書館の一階をドーム型の光が覆っているのがわかります。
「あの光は?」
「グレースさんがみんなを守るために魔法を使ったそうよ、どんな効果があるのかはわからないけれど」
「あれは低位の外敵の侵入を防ぐ魔法だ、グレース自身は使用できない魔法だからスクロールを使ったのだろう」
図書館内に入ると生徒達が本を読んだりお喋りをしてました。
「まあお姉様!おかえりなさいませ!」
「ウルリカさんもおかえり」
一年の子たちが数人出迎えてくれました。
他の方々も私達に気がつきましたが、邪魔をしないようにと配慮してなのか軽く頭を下げるだけに留まります。
「ただいまー、霞ちゃんどこいるか知っているー?」
「天王寺さんはあっちだよ」
「ありがと、ちょっと友達と話してくるから後でねー」
ウルリカさんは一年の子と共に奥の方へ行きました。
「グレースさんは二階ですわ」
「ありがとうございます」
階段を上がって二階へ行きますが、そこには机に本を山積みにした机の横でグレースさんと木蔦教諭のみが座っていました。
どうやら木蔦教諭がグレースさんにこの世界の本を読み聞かせているようです。
「この世界における騎士は……私の世界の帝国における騎士とは異なると――」
「グレース!」
グレースさんが視界に入った途端カタリナさんは駆け寄って座っているグレースさんを抱き上げました。
「暑苦しい……」
呆れたような表情をしつつも嬉しそうですね。
カタリナさんは満足するまで振り回してからグレースさんをおろして私や燐葉寮長、木蔦教諭に対して礼を言いました。
「ここまで早く妹と再会できるとは思わなかった、ありがとう!」
一番の功労者はウルリカさんですけれどね。
「それでは見返りとして学友の救助に同行していただけますか?」
「ああもちろんだとも、最初からそういう約束であったからな、早く助け出さねば」
「待って……まずは全員の能力を把握してから準備をしないと……」
「そうだな、少し気が早かったようだ、攫われた者達を助けたら山村殿の所に戻りたい」
マイヤーズもソレフマイネンもカタリナもいなくなると急に脱力感に襲われた。
自分では気づかなかっただけで知らない人と一緒にいることに緊張してたんだなぁ。
「はぁ……」
自分一人しかいない部屋最高。
マイヤーズとソレフマイネンは助けたい人がいるらしくて、カタリナは一緒に行って助けないかと言ってたけど私は断った。
人を助けたいとは思わないし、なにより私には人助けなんてできる力がない。
マネキンを倒して調子に乗っちゃってたけど、バケツ頭と遭遇して目が覚めた。
ステータスのおかげで努力が必ず実るとしても、結局は危険を伴う努力をしないと強くはなれない。
(お腹すいた……ご飯……いや、その前に汗かいたしシャワーだな)
改めて気づかされた。
私は実ると限らないから努力が嫌いなのではなく、努力する苦労そのものが嫌いなんだ。
良い結果が待ってるとしても必ずその過程で挫折するのが私の性。
今までの人生でも挑戦してみたことはそれなりにあったけど、やり遂げたことは一度だってなかった。
なんで世界が変った程度で自分が変るなんて勘違いしちゃってたんだかなぁ。
「ふぅ~さっぱりした」
ネットで色々見てみると世界中大惨事だな。
インフラはまだ生きている程度の被害みたいだけど、今後世界はどうなるのかな。
秩序が崩壊したキバヤシ大勝利のマッドマックス化した世界、あるいはなんやかんや上手くいって将来ステータスもモンスターも常識になった世界。
私としては前者がいいな。
アニメや漫画やゲームが無くなるのは嫌だけど、人類が滅んでくれるならそれもアリ。
「うっわぁ……」
SNSとか掲示板とか動画サイトにアップされてる画像や映像には出会ったら絶対勝てないような怪物が沢山いた。
頭のない巨人、ブヨブヨした巨大な何か、コウモリの翼が生えた黒い芋虫、飛行するポリプ状の塊。
異世界人はあんなのと戦えるのかよ。
私のランダムスキルツリーがチート級に強いもんだったらよかったのに。
ハズレを引いた気はしないけど絶対アタリではない微妙なスキルツリーだよねあれ。
なんて考えていると電話が鳴っているのに気づいた。
受話器を手に取ると何か騒音が聞えてきた。
「もしもし?」
しばらく騒音が続いた後に返事が来た。
『よう志摩、久しぶり』
「姉ちゃん?」
滅多に電話なんてして来ない姉の声だった。
『そっちは大丈夫か?』
「あー、まあ……大丈夫」
部屋に幽霊が出たりしたこと以外はね。
『兄貴も亥玖代も連絡取れなくてさ、心配だから直接兄貴の家まで行ってみるつもりなんだけど』
「ええっ!?」
世界がこんな状況で千葉県まで行くつもりか。
『途中そっち寄るかもしんないから』
「いいけど……大丈夫なの?外危ないよ?」
『へーきへーき、あたし結構強いからさ』
「え?それって――」
『ガガガガガガァッ!』
『あっごめんもう切るわ』
なんか最後に怪物の唸り声が聞えたんだけど本当に大丈夫なのかな?
「姉ちゃんは相変わらずだな……はぁ~……」
とりあえずスレでも立てるか。
(こんな時にもスレ立てなんて私も相変わらずだ)




