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16 まぎれもなくヤツさ

「で、ですから二階の防火――」

「だからなんで外に出るのにそんな所に行く必要があるのよ!?」


やっぱりやめとけばよかった。

モンスターの発生と平日というのも合わさって人は少なかったけどそれでも人は多い。

カタリナがバケツ頭を駐車場のあたりで鬼ごっこをして時間を稼いでるけど、それでも一人ずつ案内する余裕はないからとにかく防火戸へ行くように説得していた。

状況がよくわからずに携帯みたりしている人はとりあえず従ってくれたりしたけど、モンスターを見てしまった人は私を怪物じゃないかと疑ったり、どうせ説明しても理解できないのに説明を求めてきたりする。


「えーっと……他の方々はもう二階に行って出て行っちゃいましたよ……?」

「は?だからな――」

「ごめんなさい暇じゃないんで……」


こういう場合は他の人もそうしたと言うのが効果的な気がするからそれだけ言って立ち去る。

聞く耳持たないヒステリックな人は後回しにして別の人を説得しよう。


「二階の防火戸の所から出られますので……」

「そうかい、ありがとうねぇ」


モンスターがいる真っ暗な場所で携帯電話の灯りを頼りにしている状況なのに落ち着いてるおじいちゃんすげえ。

しかし今日は久しぶりに凄く喋ったせいで喉が痛いし呼吸も安定しなくなった。

知らない人とこんなに会話ができるなんて私って実はコミュ力高いんだな、コンビニの店員ですらまともに話せなかったけどカタリナが練習になったのか。


「あのっ!あの!このくらいの子!見ませんでした!?」

「ぬぉっ!?」


突然横からすごい形相の女性に話しかけられて変な声が出た。


「お、落ち着いてくだ――」

「二階の防火戸の事を聞いて店内図を見ていたらスマホの充電が切れて――」


なんだか色々説明しようしてるけど早口でよくわからないし汗と涙で化粧が崩れて怖いし。

なんとなくお子さんが迷子なのは想像できるけど全部聞いてたら時間かかりそうだし、なにより面倒くさいからもう無視しよう。


「い、急いでるんで」

「待ってください!」

「いやマジで急いでるんで……」

「私の子供が……どうして!?なんで助けてくれないの!?」


なんで助けてくれると思ったの。


「駐車場の方で見かけたら保護しておきますから」

「っ~!死ねッ!」


テメーが死ねババア。

と、口で直接言う勇気がない私は変ってないな。


「ふぅ……」


見当たる人には大体言う事言ったからそろそろカタリナの所に行くか。

言っても聞かない人はモンスターに襲われて逃げた末に防火戸まで行くか、そのまま死ぬかするだろうし。

カタリナにはバケツ頭を駐車場で引き付けて、定期的に非常階段に繋がる道を確認するように言ってある。

避難誘導が終わったら私が非常階段に繋がる道に隠れておいて、カタリナが確認しに来た時に合図して一緒に逃げるという作戦。


キュッ……キキ……


おっ、マネキンだ。


「どっせい」


軽く前蹴りを入れただけで壊れる貧弱なモンスターってダンジョンにいる意味あるの?ただの経験値稼ぎ用としか思えない。


「私なんかに倒されるなんて気の毒になぁ……ん?」


倒れたマネキンを見て違和感を感じ、懐中電灯を向けて観察するとマネキンの上半身に大きな傷があるのがわかった。

マネキンをまじまじと見た事がないから知らないだけで、こういう痕があるのが普通だったりするのかな。

なんてどうでもいいこと考えずにさっさとカタリナを迎えに行こう。


(ここで合ってる……合ってるな)


少し歩いてから待ち合わせの場所を確認してカタリナが来るのを待つ。

私の懐中電灯の光を発見し次第全力で出口までダッシュ。

良い稼ぎ場を離れるのは名残惜しいけどマネキンはそこそこ倒したから多少はステータスポイントとスキルポイントが溜まっているはず。

カタリナを待っている間にステータスを確認しておこう。


――――――――――――

山村 志摩


ステータスポイント:1

LV:2

体力:1→

魔力:1→

筋力:2→

技量:1→


称号:生まれるべきではなかった

職業:持たざるもの


スキルポイント:5

スキルツリー:持たざるもの

ランダムスキルツリー:未取得


・通知

割り振っていないステータスポイントがあります。

割り振っていないスキルポイントがあります。

ランダムスキルツリーの取得が可能です。

――――――――――――


あれ?ほとんど増えてなくね?十体は倒したはずなのに。

マネキンってそこまで経験値マズいモンスターなの?確かに最初は紫灰人の分も入っていたかもしれないけどここまでとは思えない。

などと考えている間に誰かの足音と何かを引き摺る音が聞えてきた。

程なくして松明の灯りと早歩きのカタリナが視界に入ったので懐中電灯を振ってこちらに気づかせる。


「避難誘導は終わったのか!?」

「終わった!」


ヒステリックな方々はまだだろうけど、本当の事を言ったら面倒だから嘘をつく。

私にはどれだけの客がいたのかを確認する術はないから気づかなかったと言えば誤魔化せるしね。


「よし!早く出口へ行くぞ!」

「はいよー」


赤いバケツ頭は重そうな舵輪を引き摺っているせいか動きはかなり遅い。

走れば余裕で逃げ切れる速度なので急いで来た道を戻ると、なぜかそこにはマネキンが沢山集まって来ていた。


「な、なんだあれは!?」

「あっ!あれ……」


そのマネキン達の中に、胴体に傷のあるものを見つけた思い出した。

あの傷はカタリナがダッシュストライクで切断した個体だ。

さっき私が蹴り倒したのにまた蘇ってる。


「突破する!ヤマムラシマ殿は私の後ろからついて来てくれ!」


カタリナが松明をマネキン達の向こう側に投げて、剣の刀身を肩にあてて腰を落とすと、なにやら妙な姿勢になった。

強く前に進もうと踏ん張っているのにもかかわらず、まるで見えない壁がそこにあるかのように決して進まず倒れもしない。

その状態が三秒ほど続いた後、見えない壁が取り払われたのか、ダムが決壊したかの如く勢いをつけてカタリナが前方にぶっ飛んだ。


「すっげぇ……」


マネキンの群れに一本道が出来上がったのですぐに通り抜けようと思ったら、倒れたりバラバラになったマネキンがすぐに元に戻った。

これではっきりと分かった。

マネキンはめちゃくちゃ弱いけど再生するモンスターらしい。

おそらく経験値も最初に倒した一回しかカウントされてないんだろうな。


「後ろだ!」

「え?うおっ!」


いくら遅いとはいえ移動しているので当然もたもたしていたらバケツ頭に追いつかれる。

でも前にはマネキンが沢山いるしどうしよう。

カタリナは必死にマネキンを蹴散らして私の方に来ようとするけど手間取ってる。

バケツ頭が五メートルくらいの距離まで来たら、バケツ頭は突然動きが早くなって舵輪を引き摺りながら打ち上げるように攻撃してきた。


「やばっ!」


咄嗟に避けようとしたら転んじゃったけどそれが幸いして舵輪には当たらなかった。


「ま、まじか……」


私を狙った舵輪は硬いコンクリートの天井に突き刺さっていた。

あんなのが当たったら私の体はどうなってたんだ。

想像しただけで漏らしそう。


「逃げ――」


カタリナが逃げろと言い掛け、バケツ頭が天井に刺さった舵輪を引き抜く勢いで私を攻撃しようとしたその時だった。


ドゥン!


すごく低く鈍い音が鳴り響いたと同時にバケツ頭の舵輪を持つ腕が出血した。


「よく見えませんね、命中しましたか?」

「当たったよー」


知らない声がマネキン達の向こう側から聞えて振り返ると、そこには拳銃のようなものを持った女と光る矢を持った女が立っていた。


「そこにいると危ないですよ」

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