14 赤いポリバケツ
「うわー見てよこれー」
「ウルリカさん、ながら歩きは危険ですよ」
「はーい……あっ、切れた」
「そうですか、ではそこの公園で休憩しましょう」
私とウルリカさんは学園の外に出ています。
目的はグレースさんの姉を捜索すること。
グレースさんの姉の髪の毛を頼りにウルリカさんが追跡しつつ道中見つけたモンスターを倒してレベリング。
ウルリカさんのトラッキングマスターのスキルは一定時間対象へ到る道しるべが視界に現れるというものらしいですが、スキルが切れるとクールタイムが発生するようです。
現在のスキルでは追跡可能な範囲が半径十キロ以内とのことなので近くにいるとは思いますが、移動の手段は徒歩以外信頼できないので学園へ帰るのに多くの時間がかかるようであれば追跡は諦めます。
「それで何を見せていただけるのですか?」
「ん?あーこれ、ライブカメラ」
ウルリカさんは連絡が取れるようにと先生から借りたスマートフォンで渋谷スクランブル交差点のライブカメラを見せてくれました。
そこには既に人の姿はなく、頭の存在しないゴムのような肌をした巨人がチュパカブラを手から食べていました。
秋葉原のライブカメラでは人もモンスターも映っています。
「東京は近づかない方が良いかもしれませんね」
「どこが危険でどこが安全かもわからないやー」
「怪物が転移して来る位置がランダムな以上は安全な場所などないのでは?強いて言えば強い人がいる場所でしょうか」
「そうかもしんないけどさー、この辺りはまだ普通じゃない?」
ここに来るまで異世界の怪物であろうものに遭遇し倒しもしました。
しかしそれ以上に普通に生活している人を見かけます。
今までの常識では理解できない現象と不確かな情報ばかりなせいで事実を報道しても受け入れられないか、気にされていません。
「まだ二つの世界は完全に一つになっていないと言っていましたから、怪物も異世界人も自分の目で確かめた人が少ないのでしょう」
「なんて言うか気持ち悪いっていうか嫌だよねー、自分の知ってる場所で何かが起こっているのに実感湧かないのってさ」
「私はむしろ嬉しいです、明確な超常現象が確認できた今、大いなる者達の存在がより確信に近づきました」
「マイヤーズお姉様は信心深いなー、っとクールタイム終わった」
ウルリカさんが再び追跡を始めたので共に歩きます。
「グレース姉がいるのは北西だね、もっとスキルポイントがあれば距離もわかるんだけどなー」
「では稼ぎましょう、丁度あそこにいますよ」
『ガウゥゥゥゥゥ』
「わーお、でっかいワンちゃんだなぁ」
どう見ても真っ黒なオオカミだと思いますが、ウルリカさんなりの冗談なのでしょうか。
しかしオオカミにしてもサイズが明らかに大きいというか、動物園で見たゾウくらいある気がします。
「っていうか強そうじゃない?僕達で勝てるのー?」
「それはわかりませんが、既にこちらに気づいていますし敵対するようなら反撃して勝てなさそうならあそこのブロック塀の間に逃げます」
あの巨体なら狭い道へ逃げれば追いかけては来れないでしょう。
しかしあのオオカミは私達二人を見つめたまま唸り声をあけていますが、敵意があるようにも見えません。
「なんだろうねー、今までみたモンスターとはどこか違うような――」
『人の子達よ、私に良く似た姿の獣を見なかったか?』
「し、しゃべったー……」
ゾウくらいの大きさのオオカミが喋るというのはこれまた面白い事象ですね。
「似た生物は存じておりますが、あなたほど大きくはありませんし会話もできませんね」
『そうか、我はセヴェンヌ、もし我が同胞に出会ったらセヴェンヌが探していると伝えてくれ』
「わかりました」
オオカミはもの凄い跳躍をしてすぐに視界から消えてしまいました。
「えーっと……敵じゃあなかったねー」
「ああいうオオカミってゲームでは敵である事が多いですから勘違いしてしまいました」
「お姉様ってゲームとかやるんだ、意外かもー」
「物語であれば媒体は気にしませんよ」
「へぇー、どんなのが好き?」
「サイレントヒル2です」
――――――――――――
山村 志摩
ステータスポイント:1
LV:1
体力:1→
魔力:1→
筋力:1→
技量:1→
称号:生まれるべきではなかった
職業:持たざるもの
スキルポイント:2
スキルツリー:持たざるもの
ランダムスキルツリー:未取得
・通知
割り振っていないステータスポイントがあります。
割り振っていないスキルポイントがあります。
ランダムスキルツリーの取得が可能です。
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マネキンぶっ壊してステータスポイント獲得できたのか。
「とりあえずは体力か筋力に割り振ると良いぞ」
「その二つ上げるとどうなるのさ?」
「体力は生命力が上がり打たれ強くもなる、筋力は身体能力が向上するから勝てない相手と対峙した時逃げやすくなる」
「ほー……」
それなら筋力に割り振っとこう。
元々運動が苦手だし、いくら打たれ強くなっても私より強くて足が早い敵がいたらそこで終わりだろうから逃げることを考えないと。
「で、どうすれば魔法使いに転職できるの?」
「道具、あるいは魔法の用途に応じて使用することで職業として選択可能になる、つまり剣であれば他者を傷つけ、攻撃魔法なら攻撃に、回復なら回復に使用する必要がある」
つまりこのスクロールをちゃんと使わないといけないのか。
ってこのスクロールは何の魔法なの。
「これ読めないんだけどなんて書いてあるの?」
「すまない、私にも読めないんだ」
「えっ、ドラゴン語がどうとかって言ってたじゃん……」
「竜言の刻印は文字を読めるようにはならないんだ、だがそのスクロールを一度アイテムボックスに入れてから詳細を見ればわかるぞ」
言われた通りスクロールをアイテムボックスに入れて、教わったようにアイテムの詳細を見る。
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スクロール(ランク1)
[ヒーリング]を一回のみ使用可能になる。
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え、説明これだけですか。
「ヒーリングだってさ……」
「おお!凄いじゃあないか!回復職になれるぞ!」
「ええー……ヒーラーって好きじゃないんだよねぇ……」
パーティを組むの前提みたいな感じでソロではプレイしにくいイメージがある。
それに回復魔法は自己防衛の手段にはならないだろうし。
「召喚魔法や回復魔法には他者に使用させる魔法がないからスクロールを使うことでしか回復職になることはできないんだ、滅多になれるものではないぞ!」
火を飛ばしたり電気出したりしたいんだけどなぁ。
「とりあえず使わないでおくよ」
「そうか、私が怪我をした時は頼むぞ」
ヒーラーになるつもりはないし、このスクロールは取引とかで役に立つかもしれないから取っておこう。
引き続きカタリナの妹を見つけるか、攻撃魔法のスクロールを見つけるかしよう。
アイテムがドロップするならもっと役に立つものが手に入るかもしれないし。
「早く出口みつけよ……」
「そうだな、出口を探しながらモンスターを倒し、見つけたら他の客や店員の非難誘導もしなければ」
わざわざ他人を助けるのには気が進まないけど、マネキンくらいなら簡単に倒せるしレベルアップできるなら別にいいか。
しかしステータスって最高だな。
自分の成長を数値で感じられて、必ず努力が実るなんて素晴らしい。
「嬉しそうだな!他者を助ける事に喜びを見出せるのは竜剣士隊の素質があるぞ!」
「え?ああ……まあ……」
別に人助けで喜んでるわけじゃないんだけど。
というか竜剣士隊ってのはみんなそうなのか、アンパンマンかよ。
「とりあえずその懐中電灯とやらがもう一つ欲しいな」
「じゃあとりあえずトイレ出よ、ここはなんにもないし……」
トイレにはダンジョンの外に繋がる扉はなかった。
というかカタリナ曰くトイレのように足元や天井が開いてるのは出口にはならないらしい。
だからトイレの扉は出口になるかもしんないけど個室は駄目っぽい。
「他に扉といえば……エレベーターとか――」
「にげろ!逃げろ!あんたらも早く!」
トイレを出たら駐車場の方から店員らしきおじさんが走って来たと思ったら一階に逃げて行った。
マネキンでも見ちゃったかな?
「ヤマムラシマ殿、あちらを照らしてくれ」
「う、うん?いいけど……ヒッ!」
駐車場に続く道の先にいたのはマネキンじゃなかった。
体格は普通の人間と変らないけど、服装がこの場所には似つかわしくない漁師みたいなゴム手袋や長靴や胸付ズボンを身に着け、手には大きな舵輪を持って引き摺り音をたてている。
しかし一番異様なのはその頭部。
血まみれで内側から触手のようなものが飛び出てる大きなポリバケツを被っていた。
「ここは静岡じゃないんだけどなぁ……」




