10 再び
「本当にこんな上質なコートを貰っても良いのか?」
外で革鎧は目立つんで自称騎士見習いには上から大きめのコートを着させる。
剣はアイテムボックスに入れるとすぐに取り出せないからと渋ったけど、紫灰人が持っていた剣を私のアイテムボックスに入れて非常時には二人とも取り出せるようにして、こいつが剣を取り出せない状況なら私が剣を出すということで納得してもらった。
「いいよ……どうせ着ないし……」
「なぜだ?もったいない」
「体格に合わないの……」
元々兄貴のだから袖から手が出ないくらい大きいし、そもそも今の時期はジャージで十分。
「そうなのか、ところで私達はどこへ向かっているのだろうか?」
「イオ……スーパーマーケット……かな?」
私のマンションからであればコンビニよりも近いところにある。
まあ人が多いしレジに並ぶのが面倒だからほとんど行かないけど。
「すーぱー?なんだそれは?」
「いろんな店をを一つの建物に詰め込んだ感じのところ……」
「ほぉ、そんなものがあるのか、楽しみだ」
なぜコートは通じるのにスーパーマーケットが伝わらない?コートはこいつの居た世界でも存在したから通じたのか?というか日本語以外を交えても会話が成立するのはなんなんだ。
「ね、ねえ……なんで日本語喋れるの……?」
「うむ?にほんごというのはこの土地の言語のことか?喋れないぞ」
「え?じゃあなんで今も会話が成立してるの……?」
「私が喋っているのはドラゴン語だ」
ドラゴンボーンかこいつ、日常会話だけで大惨事になりそうだぜ。
「詳しくは知らないが、ドラゴンの言語はありとあらゆる言語を持つ生物と対話が可能らしい、私は竜言の刻印を身に刻んでいるから喋れる」
なにその超うらやましい刻印、それだけで職には困らないじゃないの。
日本語未対応のゲームやる時に有志やグーグル先生に頼らなくてもすむな。
「その刻印ってどうやったら刻めるの……?」
「私は親から受け継がれたが」
「遺伝かよ……」
「私の先祖は赤子の頃に肺とどこかの骨と喉に刻まれたらしいが、誰がどうやったのかなんて気にしたこともない、グレースなら知ってるかもなぁ」
「竜言の刻印は饒舌のイークエーサーというドラゴンが創造した……」
「どうぞ、お砂糖は入れますか?」
「いれる……」
現在残っている生徒たちは全員寮の自室で過ごさせて、私や冬子さんのように外から通う子は適当な部屋に割り当てています。
しかし私とグレースさんとウルリカさんだけはロビーで待機していました。
「ウルリカさんは?」
「紅茶には砂糖入れない派なんだー」
グレースさんから元いた世界の話を聞きながら休憩します。
聞けば聞くほど物語の世界のように感じられてとても楽しいです。
「それにしてもドラゴンですか、本や映画や漫画では恐ろしい怪物である事が多いですが、今の話だと怖くなさそうですね」
「ドラゴンも生物……個体によってあらゆる差が存在する……力や体質だけでなく性格も個体によって異なる……」
友好的なドラゴンもいれば敵対的なドラゴンもいるわけですね。
現状では会いたくない存在かもしれません。
「なるほどねー、しっかしドラゴンがいるなんて不思議な世界もあったもんだ、まあ他に世界が存在すること自体が不思議だけど」
「私からすればこちらが不思議……」
「グレースさんはこちらの世界のことをどれほど知っていたのですか?」
状況に対する対応の早さや地震が再び発生するという予想もしていましたからある程度は知っているはず。
「こちらの世界に来る六日前に複数の予言者が同じ夢を見たという発表があった……二つの世界が一つになるという……しかし私の知る限り私のいた世界にはこちらの世界の知恵は存在しない……」
「ではなぜ再び地震が起こるとわかったのですか?」
「私は姉と過ごしていた時地震に遭遇し、こちらの世界に来た……再び地震が起こった時にグール、あるいはチュパカブラが現れた……しかし現在は世界が完全に一つになったとは思えない……」
確かにステータスが出せるようになった事とモンスターが現れたこと以外は何も起こっていません。
その数もあまり多い気はしませんし、二つの世界が一つになったというには発生している現象が小規模に思えます。
「もし完全に一つになったらどうなるのー?」
「わからない……しかし転移して来るモンスターはいると思う……」
「そっか、そんじゃあ今のうちにレベル上げといたほうかいいかもねー」
「そうですね、そういえばどうしてウルリカさんはステータスを出せるのですか?」
加えてなぜ交信堂で弓矢を持っていたのかも聞きそびれていました。
「一昨日の放課後にウサギの世話してたんだ、それで畑のほうに行ったらウサギの餌を食い荒らしてるでっかい虫がいてね、それを叩き潰したら出せるようになったんだー」
私と同じように偶然遭遇して殺生を行った結果というわけですね。
「それではなぜ交信堂に?」
「観測台は人が滅多に来ないし電気ポットとかあるから一人で過ごすにはベストなんだよねー、先生には言わないでよー?」
「言いませんよ、しかし弓はいったいどこから手に入れたのですか?」
「地震が起きた後いつのまにか骸骨と宝箱みたいなのが置いてあってさー、開けたら弓が入ってたんだ、アームガードなんかも一式揃ってたよー」
「生物だけでなく物も転移してい――」
その時、グレースさんが言っていた通り再び地震が起こりました。
今回もそこまで大きなものではなく、建物は揺れていますが一年に一回は遭遇する程度の大きさです。
やはり一分もせずに揺れは治まりました。
「周囲には変化は?」
「中庭方面は特に変わりないねー」
紅茶を溢してしまった事以外は特に変化は感じられません。
「油断はできない……見回りに行こう……」
「そうですね、では私は――」
「いやあああああああ!」
同じ階の廊下の先にある部屋から悲鳴が聞えました。
それは冬子さんがいる部屋。
「え?あっちょっと!」
テーブルに置いておいたインパクトハンドガンを手に取り全力で廊下を走ります。
地震が発生した時のために部屋の扉は開けられていたため、瞬時に部屋に入れました。
そこには全身が黒い金属のようなもので覆われた長身の何かが立っており、冬子さんと同じ部屋にいたであろう子を両脇に抱えていました。
「冬子さんたちを放していただけますか?」
「ギギギギャャャ!」
話しかけてみましたが長身の何かは奇声を発しており、とても会話が可能な生物には見えません。
「お姉様早いってー」
「いったい何が……なっ!?」
遅れて来たウルリカさんはいつもの調子ですが、グレースさんは非常に驚いた様子でした。
「神屍の棄児……!」




