向日葵の見上げる頃③
登場人物
月渡 咲夜 主人公
桜木 舞 現生徒会長
水上 蓮乃 咲夜のルームメイト
日向菊 葵 生徒会書記 舞の親友
彩木 楓 演劇部副部長 椛と双子
彩木 椛 演劇部部長 楓と双子
巻多 永華 生徒会副会長
鷲黒 朱音 元生徒会長
月渡 照海 咲弥の姉
金木 根子 生徒会会計
「さて、と」
自分の仕事が一段落して横を見る。
そこにはいつものように苦悶の顔をして書類と睨み合ってる生徒会長の姿があった。
いつでも何でも真剣に向き合って手を抜くことをしない。
特別なにかできる訳では無いけど、真摯に向かい合う。
それで、失敗することもあるけど、それは周りがフォローするし、例え誰かが迷惑を被っても許してもらえる。
そんな不思議な魅力を持っている。
私には無いもの。
桜木舞にはあって、生徒会長として相応しいもの。
「……不思議よね」
「何が?」
小さく呟いたつもりだけど、聞こえてたらしい。
資料と睨めっこしながら舞が答えた。
「私が蓮乃とまた絵を描くとは思ってなかったから」
「絵?それって、演劇部から依頼があったものだったかしら」
向かいの席で優雅にティータイムをしていた副会長の巻多先輩が会話に入る。
もちろん、自分のタスクは終わらせている。
適当でもないけど、思いついた言葉だったから巻多先輩が話を拾ってくれて助かった。
「はい。今年は美術部からどうしても手伝えそうにない、と言われてしまったみたいでして」
「そう。それで、日向菊さんが代わりに?」
「はい。助っ人も頼めるので可能かと」
「日向菊さんならきっと素敵なものが描けるでしょう。期待してるわ」
「頑張ります」
皮肉とかではなく、本当にただそう思っているだけの言葉。
素っ気なく聞こえるけど、何かあれば相談も手助けもしてくれる先輩なのを知っているから、理解できる。
昔の私なら皮肉と受け取ってたと思う。
他人を知ろうとせず、線を引いていたから。
「ヒナヒーの美術の作品いつも素敵だもんね〜。黄金比を意識してるって言うか、芸術は分からないけど数学的にパないっ」
「それは褒められてるのですよね……?」
もちろん、と言ってニャハハと笑う会計の金木根子先輩。
ヒナヒーは金木先輩が私を呼ぶ時に使う呼称。
生徒会会計の3年生で、数学はもちろん、プログラミングも得意で学校サイトを運営してる教員のフォローなどもしてるみたい。
そして、私は描く時には黄金比は別に意識してないわね……。
美術を数学的観点で見る人もいることを初めて知ったわ。
感性は本当に人それぞれ、ということかしら。
「それじゃ、私はまとめ終わったので失礼します」
お疲れ様、という各人の言葉を背に受けて生徒会室を後にした。
さて、私は本当に過去を乗り越えられてるのかしら。
このドキドキは緊張か興奮か、それとも……恐怖か。
胸に手を当てて深呼吸する。
「よしっ」
蓮乃と絵とちゃんと向き合う。
親ともちゃんと向き合う。
自分の決意を再確認した。
蓮乃を突き放して絵を描くのを辞めていた時、私は自分に何も無いのを痛感した。
正確には絵しか自分を、自分の感情を表現出来るものがなかった。
何も無いなら、何も無いけど、何者かにならなくてはならない。
父と同じく人の上に立つ人になろうと、学級委員やらを率先してやった。
上手くいくこともあれば、もちろん失敗することもあった。
自分はなんでも上手くできるような人間ではない。
そう実感すると余計にもがきだした。
何者にもなれないんじゃないか。
両親は結局私を見てくれなくなるのではないか。
たまにしか帰ってこないのに、何も話せることがない。
上手くできたことを話さないと、というプレッシャーが常に付きまとう。
上手くできるように色々工夫することだけは上手くなった。
所詮は上っ面だ。
「また先生のご機嫌取りかよ」
評価のためだから。
「あなたどっちの味方なのよ」
どちらでもないしどうでも良い。
作り笑いや愛想笑いを浮かべてばかりで笑い方も忘れてしまった。
機械的な毎日だった。
色もなくただ淡々と過ぎ行く日々だった。
評価が上がったから中学からは全寮制のこの学園に進めた。
親の目を気にしたりすることも、しなくて良くなるから。
私は親からも逃げることにした。
改めて考えると、ただ逃げ回る弱虫なだけよね。
そして、今、過去と向き合う時。
だと思ってたけど、月日は残酷だと思った。




