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向日葵の見上げる頃②

登場人物

月渡つきわた 咲弥さくや 主人公

桜木さくらぎ まい 現生徒会長

水上みなかみ 蓮乃はすの 咲夜のルームメイト

日向菊ひなぎく あおい 生徒会書記 舞の親友

彩木さいき かえで 演劇部副部長 椛と双子

彩木さいき もみじ 演劇部部長 楓と双子

巻多まきた 永華えいか 生徒会副会長

鷲黒わしぐろ 朱音あかね 元生徒会長

月渡つきわた 照海てるみ 咲弥の姉

金木かねき 根子ねこ 生徒会会計

次の日の練習の時、椛先輩に写真のことを問い詰めたら、てへっ、ごめんね、ととても可愛らしい顔で謝られてそれ以上何も言えなかった。


美人ってズルい……。


とりあえず、お礼しようと思ってたのにその気持ちはどこかに歩き去ってしまった。


今度は発声する時だけ口角を上げることを意識して、昨日の失態を繰り返さないようにする。


今日は発声練習から始まって、他の教室で練習してた人たちも交えて台詞の掛け合いも少しやった。


けど、台詞めっちゃ噛む。


甘噛みを誤魔化しながらやったけど、楓先輩は笑うかと思ったけど、真面目な顔のまま、上級生同士で話し合っていた。


改めて、先輩は演劇部員だなー。


マイは台本で隠れてクスクスしてたけど。


その後、噛まないようにするアドバイスを他の上級生からも教えてもらえた。


朗読劇、声を出して読む、ではあるけど、こんなに難しいんだな、小学生の頃の音読とはやっぱり全く違う。


「それじゃ、朗読劇の練習は今日はここまでで」


「ありがとうございました」


「会長さん、ちょっとだけ良いかしら」


「あ、はーい。葵ちゃんも一緒に良い?」


「えぇ、もちろん」


「ということで」


「分かったわ」


葵先輩はどうせ、こうなると見越してマイが呼び止められた時に一緒に立ち止まっていた。


なんだろう。


教室の片付けなど手伝いをしつつ耳を傾ける。




「その、いつも背景の絵を美術部にお願いしてたのはご存知ですよね?」


「はい、去年も参加して、見ているので。とても素晴らしい絵でしたね」


うんうん、とマイも頷いている。


「えぇ。ですが、今年はどうも絵画コンクール用の作品の筆が乗らず、どうしてもこちらには割けそうにないと断られてしまって……」


「そうですか、それは……」


「もちろん、うちの部の大道具係もいるのだが、この催しは美術部に頼っていたので、別の公演の準備にかかりきりになっていてね」


「あらら……」


しゅんとする演劇部の先輩たちと顎に手を当てて思案する生徒会メンバー。


つまり、絵を描ける人がいない、と。


流石にボクに手伝えることじゃないな。


大変そうだな、と思いつつ、片付けが終わったので教室を出ようとする。


その時、葵先輩が何か思いついたような、声を上げた。


「うん、私にちょっと考えがあります」


「本当!?」


椛先輩がパッと輝くような瞳で顔を上げる。


「はい、明日またご報告します」


「ありがとう、助かるよ!」


「は、はい……」


楓先輩が葵先輩の手をガシッと掴んでブンブンと振る。



グラハスへ帰る途中、何故か後ろから視線を感じる。


「ん?」


チラッと後ろを向いても、誰もこちらを気にしてる素振りはない。


一体なんなんだろう。


何か頭に付いてるかな?


シャカシャカと後ろ髪を払ってみる。


なんだか気持ち悪いけど、暑い中外にいる方が辛いのでグラハスの部屋へ戻ることを優先する。


さすがに部屋にまでは入ってこないでしょう。


「はー……涼しい……」


グラハスに入ると冷気が全身を包んでくれる。


早く着替えてご飯食べよ。


蓮乃もいくかな?


「ただいまー」


部屋のドアを開けると、作業していた蓮乃が振り返った。


「おかえり……とお客さん?」


蓮乃がボクの後ろに視線を向けてる。


「お客さん……?」


そんな人は居ないはずだけど。


振り返ると、そこには。


「ちょっと一緒にランチでもどうかしら?お嬢さん達」


「マ……生徒会長……!?」


楓先輩を意識してるのか、決めポーズをしてるマイとーー


「それと、葵ちゃん先輩だね」


「会長、そうじゃないでしょ。蓮乃、ちょっと良いかしら。お昼でも食べながらちょっと話したいことがあるのだけど」


「良いよ……です」


タメ口で会話しようとしてたら葵ちゃん先輩に睨まれて、です、を付け加えた。


「あ、咲弥さんも一緒にどう?朗読劇に関係あることだし」


マイがウインクを飛ばしてくるが、ボクには何が何だか分からないのだが。


「え、あ、は、はい」


「それじゃ、咲弥さんは着替えたいだろうし、私達も着替えるから後で食堂でね」


「はーい」


「はい……」


ヒラヒラと手を振ってマイ達は去っていった。


蓮乃に用があるなら普通に一緒に部屋行けば良いのになんでコソコソ付いてこようと思ったのさ!


絶対、マイの思いつきで特に意味はないとは思うけど!


強いて言うなら、


「サクサク、鳩が豆鉄砲?くらった顔してた」


そんな顔が見たかったんでしょうね!


「だって、会長たちがいるとは思わなかったんだもん……!」


マイの思惑通りの行動をしてしまって悔しい。


反面、嬉しい気持ちもあったりなかったり。


別に弄られたい訳では決してないけど。




ザワザワ……。


なんかデジャブな周りの囁き具合。


また、あの会長が1年生と食べてるわよ、的な声が聞こえる。


なにかした訳では無いけど居心地が悪い。


蓮乃と食堂にやってきて、注文をして、コッチよ、と葵先輩に呼ばれるままに、並んで座ってる葵先輩とマイの前に座る。


「ごめんなさいね、お昼時に」


葵先輩は申し訳なさそうに断りをいれる。


マイは目の前のレタスチャーハン定食を早く食べたそうにウズウズしてる。


結構ガッツリ食べるよね、マイ。


それであの体型とか羨ましい。


「いえ、大丈夫です」


「私は葵ちゃん先輩と食べられて嬉しい……です」


どストレート!


蓮乃ってそんなだったの!?


「そ、そう……」


葵先輩もあまりにも真っ直ぐな言葉に顔を赤らめる。


「あら、良かったわね、葵ちゃん」


周りの目もあるので、お上品モードのマイが葵先輩をからかう。



「コホン、はしたないけど、私たちはあまり時間も無いので、食べながら話させて頂戴」


「はい、大丈夫です」


コクコクと蓮乃も頷く。


いただきます、と4人で声を合わせてとりあえず昼食を食べ始める。


「それで、話なんだけど、蓮乃に絵を描いて欲しいの」


食べながら口許を隠しながら葵先輩が話し始める。


「良いけど……ですけど、なんの……ですか?」


日本語が余計おかしくなってるよ……蓮乃。


「朗読劇用の背景用のイラスト。B0サイズ」


あー、なるほど。アテがあるって蓮乃の事だったのか。


幼なじみなら、蓮乃が絵を描いてる事も知ってるよね。


「大きいね……です。どんな絵……ですか?」


「私が下絵は描くから後を一緒にやってもらっても良いかしら?」


「ふーん、良いけど……です。葵ちゃん先輩……本当に良いの?」


ん?どういう意味だろう?


「えぇ、良いわよ」


「そう……?」


「……大丈夫よ、もう大丈夫なの」


それは蓮乃に言うと言うより、自分に言い聞かせてるように聞こえた。


マイも不思議そうに葵先輩を横目に見る。


その後描く絵について簡単な共有をして、マイ達は食べ終えると慌ただしく食堂を後にした。


生徒会って大変だなー。


ボクと蓮乃はそれぞれのペースで食べ続けた。




「葵ちゃんと絵が描ける……!」


部屋に戻ってホワホワした空気を出しながらまたパソコンに向かってる蓮乃が可愛い。


「蓮乃はデジタルじゃなくても描けるの?」


「モチのロン。デジタルは最近。絵の具とか買わなくて良いからラク」


「なるほどー」


確かに絵の具とか買い足すのも大変だよね。


「美術部には入らないの?」


「うーん、部活だと先輩とかに気を遣わなきゃいけないから……」


「あー……蓮乃、そういうの苦手そうだもんね」


葵先輩にも敬語使えてないし。


「先輩に葵ちゃんがいたら良かったのに」


「生徒会だもんね」


「うん。……ま、美術部には入ってないだろうな、とは思ってた」


「なんで?」


「私のせいで葵ちゃんは描くのを辞めちゃったから」


「え?」


蓮乃のせいで、てどういう意味だろう。


「あ、でもまた描くって言ってたから、辞めてた、か」


「なんで辞めてたの?」


「うーん……………………ナイショ」


「そっか……」


言い難い事なのかな。


しばらくお互いに無言の時間があり、ボクが夏休みの課題図書をタブレットで読むのに一息ついて、欠伸が出そうな時に蓮乃がポツリと語り出した。


「葵ちゃんのお父さんとお母さんって服の会社の社長さんとデザイナーさんなの」


「ふぇ、あ、う、うん」


突然語り出さないでほしい。


何の話しかと思った。


欠伸の途中だから変な声出ちゃったし。


「私はよく親戚の葵ちゃん家に行ってお世話になってた。小学校も同じところに通わせてもらった」


「そうだったんだ」


「それで、地区で絵画コンクールがあって葵ちゃんより私が良い賞を貰っちゃったの。それから、葵ちゃんに無視された」


「え?」


無視?


絵画コンクールで蓮乃が良い賞を取ったから?


あの葵先輩がそんな器が小さいとは思えないけど……。


「後で葵ちゃんのお母さんに、教えてもらったんだけど、葵ちゃん、絵には凄いプライドと自信持ってたんだって。お母さんみたいになるんだ、て」


「あー……」


お母さんがデザイナーさんなのか……え、日向菊……ってまさか……。


「待って、もしかして、葵先輩の実家のブランドって……」


「ん?サニーフラワーだよ」


「えーーーーー!?」


「サクサクうるさい」


「だってサニーフラワーだよ!ボクでも知ってるよ!」


「ふーん」


ふーん、て。


そういえば、蓮乃の普段着てるのってサニーフラワーか……。


ボクが着るには可愛い系だけど、色彩が鮮やかで海外でも人気のあるブランドだ。


まさか、葵先輩のところだったとは。


蓮乃もその一族なのか。


「あれ、でもそうすると、絵を辞めて生徒会に今入ってるのって……」


「うん、私も初めて知った時はやっぱりもうお母さんの跡じゃなくて、お父さんの跡を継ぐつもりなのかと思った……思ってた」


「じゃあ、また絵を描くっていうのは嬉しいね」


「そうなの!」


振り向いて飛び切りの笑顔を向けてくる蓮乃は向日葵のように輝いて見えた。


前見かけた時に葵先輩に無視されてたようには感じなかったけど、そんな過去があったんだね。


あの後、ご機嫌になってたのも納得。


無視されてたのに同じ学校に入ったり、


「蓮乃って、葵先輩のことが大好きだね」


「うん!」


蓮乃は迷いも照れもなく言う。


素直に羨ましい。


自分に正直で真っ直ぐで。


私は言えるのかな、マイを追いかけてきたなんて。


きっと言えない、適当な言い訳を探しちゃう。


それに、せっかく会えたのに、マイにどこか距離を感じるのは何でなんだろう。


生徒会長っていう立場だからなのかな。


前に部屋に行った時だってなんか変な空気だったし。


マイが何か困ってるなら力になりたい。


しずさんとの約束でもあるし。


あの日、公園で泣いていたマイに結局何も出来なかったし……。

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