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51話 地球side 「孕ませてくれる……?」

 日が沈む。紅い空。

 御神木の陰で、グズグズと泣いている彼女を発見した。


「めーっけ」


 声変わりし始めてまだ間もない少年が、空から顔を覗かせる。


「エンレゥ……」

「ほら泣くなって」


 2人だけの秘密の場所。なにか嫌なことがあったら、自分はいつもここでメソメソしていた。

 差し出してくれる布切れ。

 受け取ったそれで、涙と鼻水を拭く。


 武具の練習は大嫌いだった。

 剣。バランスを崩してしまう。

 槍。間合いが全然わからない。

 弓。見当違いの方向に飛んでいってしまう。


 なぜ出来ないこんな簡単なのにまじめにやれ。毎日のように大人から叱責された。

 牙猫族でありながら、戦闘はからっきし駄目な少女。

 大人達からは一族の面汚しの烙印を押されている。

 泣き虫で引っ込み思案な彼女は、子供達からも影で罵られている。


「またなんか言われたのか」

「……ぅん」


 熱くて涙が止まらない目頭を押さえながら。

 エンレゥは、たどたどしい自分の喋りを真摯に聞いてくれた。


「誰だ」

「ロログィと、ブダプタ……」

「あいつ等シメる」


 関節をバキボキ鳴らす。

 彼女の陰口を叩く子供は全員、エンレゥの制裁を受けていた。

 そうやっていつも彼は、気弱で一族の面汚しな彼女を、いじめっ子の手から護ってくれた。


「お前も言い返せよ」

「だって」


 気弱で一族の面汚しな彼女は、いじめっ子に言い返すという行動に移れない。


「強くなれ」

「……」

「強さは正義だ。あのバカ連中より強くなって、ぶん殴ってやればいい」


 彼はいつもそう言う。邪魔する奴らは全部、力でねじ伏せてやれ。

 だけれどそれはエンレゥだから通用するのであって。


 最初から強い貴方だから、そんな言葉が素直に出てくるんじゃ。

 私は最初、弱かったんだよ?


「じゃあ、つよくなったらルリララのこと、孕ませてくれる……?」


 覚えたての言葉。私は当時『孕む』がどんな意味なのか理解していなかった。愛の結晶としか認識していなかった。

 ドキッとした表情。そうだろう、ずっと妹のように可愛がっていた子に突然、貴方の子供が欲しいって言われたのだから。


「――――、」


 エンレゥがどう返答したのか、聞き取れなかった。

 別の誰かの声が、重なってしまったから。


 不意に、景色が暗転する。


 ――――。






「(夢、か)」


 ルリララは目を醒ます。


 どうしてか、彼女はあの頃の夢をよく見る。

 エンレゥも自分もまだ幼かった、いつも彼の陰に隠れていたあの当時の夢をだ。

 そういえばエンレゥは、あのとき何と返事していただろうか?

 幼かったせいもあり当時のことを、ルリララははっきり記憶していなかった。


 さっきから誰かが身体を揺すっている。

 きっとそれで夢から醒めたのだろう。

 小さな声でおねえちゃんと呼んでいる。この声はミミナナだ。


「んー、どした」

「……おしっこ」


 莉子に貸してもらった、花柄パジャマの股間を抑えてモジモジとしている。

 寝る前に牛乳を飲んだのが原因だろう。

 このままでは、おねしょをしてしまうかもしれない。


「しゃあねえな、一緒に行ってやるよ」

「うん……」


 とても弱弱しく返事している。まるで大声を出したらお化けに気付かれてしまうと怯えているよう。

 いくら莉子が優しいからといっても、ここはミミナナにとって未知の土地。怖くて当然だろう。


「(……アタシも子供の頃はこんなだったなぁ)」


 昔の自分は、今のミミナナより怖がりだったかもしれない。

 そんなことを考えつつ、しがみついてくる体温を感じながら彼女は扉を開ける。


 ミミナナが怖がるのも無理はない。

 廊下に広がる暗闇は、夜戦に慣れているルリララでも胆が縮こまる光景だ。

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