44話 地球side ロールキャベツ
「体力あんだな坊主!」
おっさんが、一人のバイトに話しかけた。
おっさんは大体40歳くらい、バイトは高校生くらいだ。
「はあ、どうも」
「なんだシケてんな!」
ノリの悪いバイトに構わず、おっさんは機嫌良さげにガハハと笑う。
とある建設会社が受注したビル建設現場、彼はここの現場責任者だ。
台風などが続いたせいで行程が遅れ、納期がヤバくなった。
そこで臨時にバイトを雇い入れることになった。それが数日前だ。
だが求人の手続きを、会社に丸投げしたのが失敗だった。
文句は山ほどあるが特に『笑いの絶えないアットホームな現場です!』なんて謳い文句がひどすぎる。
ただでさえ3kの代表格みたいなこの業界で、こんなどうみてもブラック企業っぽさ丸出しの求人に、まともな奴が来るわけない。
案の定、来たのはろくでもない奴らばかりだ。
人数が足りないので仕方なく全員雇ったが、だらけてばかりでちっとも仕事を覚えようとしない。
むしろそいつらのせいで仕事が遅れてしまう始末だった。
だがそんな中で1人、見どころのある奴がいた。
見た目はひょろっとしたもやし少年。
真面目そうな感じはするものの、力仕事なんか到底向いていなさそう。
何でこんな奴が土木のアルバイトするんだ?
最初はそんな印象だったがいざ仕事が始まってみれば、怪力だしガッツはあるし。
なんだかんだで、集まったバイトの中で一番の働きをしていた。
「はぁ、どうもッス」
「おいおい照れんなって!」
肩をおもいっきりドンと叩く。
結構な力だったのに、このもやし少年はビクともしない。いや、もやしなんて失礼だ。見た目以上におっそろしく筋肉がある。
流行りのロールキャベツ系男子ってやつか? 娘がTV見ながら喋っていたことを思い出す。
「高校卒業したら、うちの会社来ねえか? 歓迎するぜ!」
「そっスか」
一方の少年側は。
どうせ社交辞令だろうと軽く聞き流していた。
この少年、他人の熱意に対してひどく鈍感な所があるようだ。
現場監督が述べるように、彼はとても怪力だ。
30kg以上あるブロック塊を軽々と運んでしまう。何度も。
ひ弱そうだからと他のバイトが苛めようとしたが、その光景を見て一瞬でおとなしくなってしまった。
もっとも彼はバーサークの特性上、力強さが外見で推し量ることが出来ない。
現場監督は知る由もないが、彼がその気になれば、鉄筋コンクリートなど一殴りで粉砕してしまえるほどだ。
彼にはスタミナが低いという難点があり、解決すべき課題となっている。
とはいえ残り3人は、ワーキャットに女バス頂点に魔法剣士という規格外なメンツゆえ。比較することが間違いなのかもしれない。
「どうだ坊主、終わったら一緒に美味いモン食わねえか?」
「坊主ってか、笹山なんすけど」
さりげなく本名を名乗った少年だが、現場監督は聞いていないようだ。
奢るぜ、と白い歯をキラリと輝かせる。
現場監督は少年の肩に腕を回した。その口ぶりから、少年のことをかなり気に入っているようだ。
「すんません、彼女が待ってるんで」
少年にやんわりと誘いを断わられ、現場監督は露骨に残念がっている。
実は娘を紹介してやろうかと腹の中で画策していたのだ。
「しゃあねえ。仕事終わったら真っすぐ彼女んトコいけよ。遅れるなよ!」
現場監督は檄を飛ばした。もうそろそろ終業時間だ。
今日の晩御飯はなんだろうと思いを巡らしながら、少年は愛する恋人の顔を思い浮かべていた。
「優汰以外の人とスーパー行くとか新鮮だなー」
のんびり歩きながら、莉子はそう呟く。
ルリララとミミナナを連れて彼女は今、足りない食材を買うためスーパーに向かっている。
「帽子脱ぐんじゃねえぞ。日本じゃ亜人は異端なんだ」
ルリララはしっかり帽子をかぶりながら、ミミナナに何度も注意する。
ネコミミや尻尾は、見られたら不味いものだ。
莉子曰く迫害されることは無いそうだが、好奇の目で見られるのは避けられないそうだ。
もっとも莉子は、別にバレても構わないと思っている。
ネコミミを見られても、だからどうした貴方には関係ないでしょで通すつもりのようだ。
ただミミナナは子供。
だいたい小学生3年生くらいの背丈。
幼くてとても可愛らして、細くて華奢な一見ひ弱そうな彼女のことだ。
いかがわしい趣味の大人に、誘拐されやしないかと心配するのは、当然のことかもしれない。
尻尾もズボンの中に収納していて、少し膨らんでいる。ごわごわした感触に、ミミナナもむず痒そうにしていた。
「まーまー、ちょっとの間だけだから。ほらスーパー見えてきた!」




