40話 異世界side 「はじめまして」
翌日。
「ルリララ昨日ぶりー!」
「……おはよう」
妙に肌がツヤツヤしている莉子と、妙にカサカサしているルリララが挨拶を交わす。
昨日の彼女ら2人の一部始終。何が行われていたかは、詳しく表現できない。
ただ対岸から眺めていた優汰が、絶対に浮気しないようにと固く誓っていたことだけ記しておく。
女同士のあれこれは語らぬが華なのだ。
「そんなことよりユーたん」
「そんなことって、まあそんなことだがな……」
よほど疲れているのだろう。ルリララのツッコミにいつものキレがない。
「挨拶だけでお別れって、寂しいねぇ」
ヴァイスはしみじみと呟いた。
今日、優汰はアルバイトをするため鍛錬を丸々一日休むことにしている。
働くのは建設会社の手伝いに決定した。
力さえあれば未経験でも歓迎とのことで、怪力に自信がある優汰にはうってつけだ。
私的な理由でサボるのは問題かもと危惧していたが、とくに王国などから文句を言われることが無かったため、内心はホッとしている。
「じゃあいくね」
「ばいばーい」
それから数分ほど軽い雑談をした4人は別れの挨拶をし、優汰と莉子はクリスタルに触れ、元の世界に戻ろうとする。
「なあ優汰、莉子」
「どうしたの?」
ルリララが2人を呼び止めた。
やや気まずそうに喋り始める。
「会わせたい娘がいるんだが」
「そうか、ルリたん結婚するんだ」
「お前はアタシの両親かよ!」
ルリララが怒鳴る。
ようやく普段の調子が戻ってきた様子だ。そして彼女の影がビクッと震えた。
「ん?」
おやおやと莉子が覗きこむ。
小さな女の子がルリララの背中にしがみついて、こちらの様子を窺っていた。
今まで気配を消していたせいで気付かなかったようだ。
「……ぁ」
幼い少女はか細い声を上げた。
小柄なルリララより、彼女はさらに一回りくらい小さい。
身長的には小学校に入ったくらいか。ボサボサの髪の毛はルリララと同じく腰まで伸びていて、それを無造作に後ろで縛っている。
服装はルリララと同じような動きやすい格好だ。
顔立ちもややルリララに似ていて、まるで姉妹のようにも見える。
だがビクビクと怯えて、今にも泣き出しそうな表情は、いつも鋭い目つきで威圧しているルリララと似ても似つかない。
「はじめまして、あの……」
途中まで喋って、恥ずかしくなったのかルリララの後ろに隠れてしまう。
ルリララの背中から、伏し目がちに周囲をうかがっている。
「こいつはアタシとおんなじ、牙猫族の集落に住んでる子だ」
少女はルリララの背中から離れない。
まるで親猫に助けてもらいたい仔猫のようだ。
「ちょいと人見知りでな。ほら、ちゃんと挨拶しなって」
ルリララは少女の背中をぽんと押す。
ビクッとするが、意を決したのかおずおずと前に出る
「あの、……はじめまして、ミミナナ、です」
声はルリララに少し似ている。
牙猫族。ワーキャットであることを証明するように、少女の頭にはちょこんとネコミミが付いている。
ただもう1つの特徴である尻尾は、小さく縮こまってしまっている。
「あう……」
視線が集中するのに耐えられなくて、またルリララの後ろに隠れてしまう。
ルリララとはまるで正反対の性格だ。
「へぇ。ミミナナちゃんっていうんだ」
「は、い」
共通語に慣れていないのだろうか、言葉がたどたどしい。
里から出たのは初めて、そんな雰囲気がありありと伝わってくる。
そんな彼女に莉子は。
「宜しくー!」
「ひゃうっ!」
可愛いものが大好きな莉子は、まるでヴァイスのような明るい声で抱きついた。
ミミナナと名乗る小さな少女は、莉子の豊満な胸に包まれ今日一番の大きな声でびっくりした。




