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38話 異世界side 凱旋

 悪魔将が襲ってくることは無く、帰路は順調そのものだった。

 あっという間にエリシア城に戻ってきた彼らを待ち受けていたのは、煌びやかなドレスに身を包んだ莉子の姿だった。


「おかえり優汰! 遅かったから心配したの。怪我とかないよね、ねっ」

「平気だよ。皆が護ってくれたから。それより莉子は?」

「ずっとお城に居たから。ねえ優汰、ギュっとして」


 良い意味でも悪い意味でも恋愛にオープンな優汰と莉子は。

 帰って来るやいなやイチャイチャして、人目もはばからず抱き合っている。


 ……2日で帰ってくると言ってたし、別に遅れてはいないんだが。

 などと考えたが、わざわざ水を差す必要もないとルリララは口を噤んだ。


 まあ、そんなことより。ルリララは目前の催しを眺める。

 勇者の凱旋と云うのは、それはそれはめでたい事らしい。

 たしかにヴォイテーヌ鉱山の奪還は素晴らしい所業だ。向こうが勝手に退いたとはいえ、悪魔将に勝利してしまったのだから尚更だ。


 とはいえパレードを開く程かと、聡明なルリララは悩んでしまう。

 まあ美味い物が食べられるのなら、どうでもいいかと思考停止した。

 だが。


「おいルリララ」


 苛立ち交じりの声で名前を呼ばれたルリララは、心の中で溜め息を吐いた。

 こんな華やかなムードに溶け込めない者もいるようだ。


「話がある。ついて来い」


 そう言い放って彼は、ルリララの了承も得ずに勝手に歩きだす。

 放置する訳にもいかず、仕方なく歩くこと数分。

 途中スラム街のような場所を通ったが、彼の眼光がごろつき全員を追い払っていた。

 そして辿りついたのは誰もいない場所。ここは資材置き場になっていて、滅多に人が立ち寄らない場所だ。


「で何の用だ、エンレゥ」


 しびれを切らし質問するルリララだが、振り返る彼の目に息を詰まらせる。

 なぜ獲物を狙うような眼差しなのか、ルリララには解からないでいた。


「黒騎士と殺りあった時、大怪我負ったんだってな」


 苛ついている理由はそれかと、ルリララは舌打ちする。


「誰から聞いた。ヴァイスか」

「……いいから黙れよ」


 彼はルリララの服を鷲掴みにし、力任せに引き破る。

 あらゆる抵抗は封殺された。彼女はワーキャットだが、それは彼も同じなのだから。

 腹部と、うっすら盛り上がる乳房が露出した。

 そこに刻まれている、斬られた傷跡はだいぶ小さくなっていた。エンレゥは傷口をねっとりと舐める。


「何で俺に言わなかった」

「必要ねえだろ。つーか戦闘機動に支障は」

「んなこと聞いてんじゃねえ」


 静かに低い声でエンレゥは、彼女の手首を捕まえる。そして壁に叩きつけた。


「ルリララ、お前の全ては俺のものだ」

「エンレゥ……」

「俺の子を孕め」


 彼も自らの上着を脱ぎ捨てた。

 ルリララは全く動けない。

 なにより体格に差がありすぎるのだ。童女ほどしかないルリララでは、彼を振り解くなどできやしない。


「今ここで孕ませてやる」


 こんなにも彼の顔を、間近で凝視したのはいつ以来か。

 子供の頃に、彼の頬にキスをしたことがある。じゃれあいの延長で。

 それとは訳が違う。

 彼は、SEXしようとしている。今ここで。


 ルリララは覚悟を決めた。

 彼女が出した結論は。


 ドス。


「ぐお……」

「発情すんなアホ」


 彼は腹を抱えてうずくまる。

 拘束されていない自由な足で、ルリララは渾身の力で脇腹をぶち抜いたからだ。


「心配しなくても、そう簡単に死んでやらねえよ」


 薄手のコートを羽織って露わになった肌を隠す。

 背負い袋に手を突っ込み、余っていた瓶詰薬草を投げ渡した。


「城で宴会があるんだ。早く行かねえと料理が無くなってちまうぞ」

「ちょ、ちょっと待てルリララ」

「来いよ。レウたん」


 ルリララはにやりと笑い、そのまま颯爽と歩き去っていった。

 もうちょいだったのに、と不満たらたらに呟きながら立ち上がろうとする。が、何故かいるヴァイスが裾をひっぱる。


「レウたんレウたん」


 その表情は遠征で散々見せられた、彼が悪戯を思いついた時のそれだ。


「テメエ、いつから見てやがった」

「おいルリララ、辺りかな?」

「最初からじゃねーか!」

「ところで」


 突然ヴァイスは真剣な面持ちになった。


「俺の子を孕め」

「てめっ」

「ナイス告白!」


 サムズアップ。


「ててて、てーーめーー??!!!!」

「僕もいつかあんな告白してみたいなー。ねえ練習台になってくんない?」

「テメェっもう許さねえブッ倒す!」


 エンレゥの堪忍袋の緒が切れた。まあ元から切れているようなものだったが。

 そして夜通しの鬼ごっこが始まる。魔法と怒声のせいで周辺住民がその夜、一睡も出来なかったのはまあ当然か。






 後方の騒ぎを聞き流しながら、ルリララは颯爽と歩く。

 きっと優汰と莉子が呆れながら待っているだろう、エリシア城へまっすぐ。

 首から上を、朱色に染めながら。


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