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37話 異世界side 「まだまだ原石だし。」

 エンレゥは己自身が許せない。

 地獄姫レズニーニャは、ありとあらゆる魔法を使いこなす悪魔将だという。

 だが彼女は戦いのさなか、魔法を一切使わなかった。

 つまりは様子見。小手調べをされたのだ。


「くそっ……!」


 歯噛みする。

 自他共に認める牙猫族最強の戦士。それがこのザマだ。

 悪魔将ごときに!


 まあ、それはどうでもいい。また鍛えればいいだけの話だ。

 問題は勇者だ。

 というより、奴と話している時のルリララだ!


 あんな穏やかな顔、俺ですら何年も見ていない。

 なんで出会って1カ月やそこらの奴に見せてるんだ!


 なんでだ、おかしいだろ。

 ルリララは俺の女だってのに。

 俺が弱いからか。

 俺が悪魔将に手も足も出なかったからか。

 弱い奴にルリララを娶る権利は無いってことか。

 認めねえ。

 俺は牙猫族最強、俺こそルリララに相応しい。

 ルリララは俺の物だ。誰にも渡さねえ、絶対にだ!


「おかえりー」


 苛つきながら馬車に戻ったエンレゥを、ヴァイスは座って迎えた。

 ボタンの前をはだけ、細身ながら筋肉質の肌を惜しげもなく晒している。


「暢気だな」

「魔法剣士たるもの、スメルにも気を使わないとね。魔法剣士の嗜みって奴だよ。君もどう?」

「ウゼえ黙れ」


 濡らした布で身体を拭き、左手で香水の小瓶を弄んでいる。

 仕事は終わったと言わんばかりに、ヴァイスはすっかりリラックスモードだ。

 そんな雰囲気にエンレゥは苛立つ。


「ヘラヘラすんな糞野郎。ブッ飛ばすぞ」


 気に入らなかった。

 目の前の魔法剣士も、ルリララによくちょっかいを出している。


「まーまーそれより、強かったでしょ? 悪魔将」


 そしてさらりと、エンレゥが今一番触れてほしくない話題にシフトした。


「なんかあっさり終わったねえ。もっと大戦争っぽくなると予想してたけど。流石バーサーク化、流石ユーたんみたいな?」

「あんな連中、俺一人で」

「君じゃあ無理だと思うよ」


 エンレゥの眉間の皺が深くなる。


「んだとテメェ」

「少なくとも<煉獄姫>はさ、レウたんじゃ相性最悪だと思うよ」

「素直に認めようよ。悪魔将は強いんだから」


 ヴァイスはこともなげに言い放つ。


「今回は、向こうさんが手加減してくれたみたいだからよかったけどさ」


 そして次の言葉はエンレゥの耳をつんざくものだった。


「正直ユーたんいなかったら、僕らは皆殺しだったと思うよ」


 エンレゥは押し黙った。

 彼の指摘が正しいからだ。


「ユーたんの才能は、まだまだ原石だし。磨けばもっと輝くかな」

「……」

「開花したら、僕は用済みになっちゃうかな? まあ僕は魔法使えるから需要あるけどね」

「ルリたんも参謀として優秀だし。でもレウたんは難しいかも」

「……っ!」


 肩がビクリと震えた。その挙動をヴァイスは見逃さない。


「……ゆ、勇者よりも俺のほうが強」

「だーかーら、将来の話をしてるんだってば」

「……」


 エンレゥは何も喋れなくなってしまった。

 彼はヴァイスの話した内容を頭の中で反芻する。

 ルリララが寝取られてしまう、そんな未来図がよぎった。


「と・こ・ろ・で! ねーねーレウたん。ちょっとした事情聴取とかしてもいい?」

「ハァ? なんだ」

「ルリたんとはどこまで済ませたの」


 先程の、馬車の外での会話だ。ヴァイスが絡んでこない訳がない。


「済ませたって、何をだよ」

「ちゅーとかした?」

「なっ、ななななっ、馬鹿じゃねえの変態!」

「あれ、もしかしてレウたんって奥手だったりする?」


 途端にエンレゥの顔が真っ赤になる。

 彼の頬をプニプニとつつく。わあ熱いとヴァイスは驚いて見せた


「ん、んな破廉恥なことを!」

「じゃあここからは簡単なアンケートに移っていくねー。今から行う質問には、はいかYESかで答えてね。ではまず~~」

「なんなんだテメー!」


 彼らは朝まで騒いでいた。ウザいヴァイスに乗せられるエンレゥ、抑止力はいない。

 寝転がりながら2人の会話を聞いていたルリララは一言、アホ共がと呟きそのまま入眠した。


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