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35話 異世界side  「優汰の本気だ。」

 先行するエンレゥに追いつこうと、ルリララは早足で金鉱奥へと進んでいく。


「ルリたん、こっちの道で合ってるの?」

「多分あってる」


 ヴァイスはぼやく。多少ぬかるんだ地面なのに足跡が全く残ってないからか。

 僅かに残るエンレゥの匂いを頼りに進んでいるが、それを感知できるのはルリララだけだ。


「ユーたん、僕とやった精神修行を思い出して」

「んなアホなモン思い出してどうすんだ」


 後ろで馬鹿な会話をしている。

 ルリララは心配していた。

 ヴァイスはいつも通りだからいい。チャラい発言ばかりだが、やる時はやってくれる奴だ。心配はいらない。


 問題は優汰だ。果たして彼は危機感を持っているのだろうか。

 なんとかなるだろと、楽観的に構えているようだったら?

 殴ってでも優汰をエリシア城に強制送還すべきかもしれない


 いずれ訪れるかもしれない、遠い将来のことをルリララは思う。

 自分やヴァイス、莉子が生命の危機に晒されたとき。

 そのとき彼は決断することが出来るだろうか。






 ほどなくしてエンレゥに追いつく。

 当然彼は激怒したが、ルリララは一歩も引かず反論した。


「ルリララはあんたのことが心配なんだって」

「あぁ?」


 最終的には優汰のその一言が決め手になったようだ

 エンレゥは彼に対抗意識があるようだが、それが今回良い方向に作用したようだ。(少なくともルリララにはそう見えた)


 坑道は途中までは地図通りだったが、途中から様子が変わっている。

 床には綺麗な絨毯が敷かれ、壁にはタペストリィが飾られていた。


「(こいつは……)」


 魔物の仕業だろうな、とルリララは察した。

 鉱員はこんな悪趣味な真似しないだろう。


「あらあらぁ」


 予想通り金鉱最奥のほうから、妙に間延びした女性の声。


「あの子達、全然ダメダメねぇ。ルガヴィ系対策はしてたんだけど、機能しなかったのかしらぁ?」


 コツコツと、軍靴が岩を叩く音が近づいてくる。

 ルリララは嘆く。

 だから優汰を連れてきたくなかったんだよ、やっぱり悪魔将じゃねえか!


 松明に照らされて、全貌が明らかになる。

 赤髪の少女で、背丈は莉子よりやや低め。

 どう見てもこんな場所には似合わない鮮血のドレスを纏い。ジャラジャラと身に付けたアクセサリ類は、ヴァイスと違って極めて下品。


 肌全体がうっすらと紫がかっており、いかにも毒々しい。

 実際には感じないが、腐臭が鼻を劈いてきそうな気がする。


「はじめましてぇ。私は<煉獄姫レズニーニャ>。黒騎士ちゃんのお友達よぉ」


 薄紫少女はニヤリと気色悪く笑う。


「だから帰ろうって言ったのにな。アホエンレゥめ」

「んだぁ?」


 エンレゥは口を尖らせるがルリララは無視。

 目の前に現れやがった薄紫悪魔将をじっくり観察する。


 レズニーニャとは元々、樹木と共存する邪妖精であり。

 ありとあらゆる魔法を使いこなす、悪魔将の中でも随一の大魔術師。

 事前に仕入れていた情報は大体そんな感じだ。もし戦うとしたらヴァイス次第かと、ルリララは考えていた。


「ねぇ、痴話喧嘩とか止めてくれない?」

「うっせぇ黙れ悪魔将」

「ひどぉい」


 ドレスをビリビリと破りながら薄紫少女は口を尖らせる。女性器が剥き出しになってもお構いなしだ。

 そしてようやく優汰を視界に捉え、真っ赤な唇を悪趣味に歪める。


「へぇ。たしかぁ笹山優汰くんだっけ? 女の子は一緒じゃないのかしら」

「俺を無視するたぁいい度胸だな、魔物が」

「あらr「死ね」


 エンレゥは飛びかかる。

 厭そうに薄紫少女は目を細めた。


「……――――おいで。スぺクター」


 掌から、煙のような魔物が飛び出してきた。


「なっ!?」

「うふふ」


 <悪霊魔>。ガス状の魔物であり、魔法でしか倒すことが出来ない。

 ルリララやエンレゥなど牙猫族にとって唯一の天敵でもある。


 対応策としては退魔成分を含んだ毒草を火にくべるなど。しかしそんな猶予など無い。

 一斉にまとわりついて高熱や冷気、はたまた瘴気そのものをぶつけてくる。

たまらずルリララは叫ぶ。


「ヴァイス!」

「まかせて」


 <悪霊魔>を倒すもっとも簡単な方法は<悪霊魔>を超えるマナで、吹き飛ばせばいい。

 すかさずパーティ唯一の魔法要員であるヴァイスが詠唱を始める。しかし。


「させる訳ないじゃなぁい」


 唇から鋭い牙を覗かせ、にぃっと煉獄姫は笑う。


 鬼と猪を合わせて巨大化させたような魔物が、壁を破って襲い掛かってきた。


 <悪怪力魔>。巨大、鬼。分厚い皮膚、筋肉。

 背丈はゆうに4mを超え、眼下のヴァイスを睨みつける。


「げ、ヤッバ」


 ヴァイスは動揺の声を上げた。

 炎や冷気などといった魔法はもちろん、幻影魔法など下手な小細工は一切通用しない。

 ヴァイスにとって最悪に近い相性。


 それでもタイマンなら倒せる相手だったが、9匹いっぺんに取り囲まれてしまった。

 援護に向かおうとするルリララにも<悪霊魔>が纏いかかる。


「死を覚悟して下さいねえ」


 楽しそうに、まるで魔法剣士が悪戯を成功させたときのように薄紫少女は笑う。

 確実に殺しに来ているのだろうとルリララは感じた。

 形成は極めて不利。

 少なくとも、ヴァイス、ルリララ、エンレゥの3人だけであれば、全滅は必至だったろう。


 ただし薄紫少女は、約一名を忘却していたようだった。

 瞬間。


「……!」


 激震が走った。

 猛烈なエネルギーの奔流に、エンレゥそして煉獄姫ですら目を見開く。


 まず大胸筋がボコリと盛り上がる。

 続いて肩と両腕両足、腰、首。さながら空気人形を際限なく膨らませるかのようだ。


「ウウウゥゥゥ……」


 地獄の底から唸り声。

 優汰がバーサーク化したのだ。


 走り出す。

 <悪怪力魔>は殴るだけで爆散する。

 近付くだけ。

 <悪霊魔>はたったそれだけで霧散する。


 いつの間にか薄紫少女は退散していた。

 悪魔将ですら戦略的撤退を選ぶほほど、バーサーク化した優汰は強かった。

 いや規格外というべきか。


 目を見開いていたエンレゥは、己が怯えているのを信じられない様子だった。


「見たかエンレゥ」


 <悪霊魔>をなんとか蹴散らしたルリララは、彼にそっと呟いた。


「優汰の本気だ。お前が2日間、寝食を共にした優汰の、真の凄さだ」

「あ、ああ……」

「言葉も出ないだろう」


 アタシがそうだったようにな、そう彼女は締め括った。


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