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34話 異世界side 肉の密度

 ヒトは亜人に劣る種族、いずれ駆逐され絶滅する種族。

 それが彼の常識でありゆるぎない事実と信じて生きてきた。

 だが目の前の惨状はどうだ?


 魔物の死体を処理しながらエンレゥは目を細める。

 戦いが終わって10分以上経ってるのに、まだゼエゼエと呼吸を乱している。

 怪力だがスタミナが低いのが弱点。それが彼の弱点だと、ルリララは言っていた。


 どうしても気になることがあった。

 優汰のほうへ歩いていく。


「おいお前」


 低い声、だが苛立ちの色は薄れ、やや冷静になっている自分をエンレゥは自覚していた。

 優汰は近付いてくるのに気付いて顔を上げた。

 エンレゥはいきなり抱きつく。


「!?」


 優汰の動揺をよそにエンレゥは、抱き寄せる力を強めさらに肌を密着させていく。


「(肉の密度が半端ねえ)」


 ヒトは見かけによらない、とはよく言ったものだ。

 この勇者は代表例だ。華奢な外見に反して恐ろしく筋肉が詰まっている。


 首筋に鼻を近づけ、更にクンクンと匂いを嗅ぐ。

 エンレゥの奇行に優汰は混乱した。


「強者の匂いがしねえ」


 優汰を軽んじて見ていた理由。

 ヒトであれ亜人であれ、強い奴には何かしら匂いがある。

 ワーキャットであるエンレゥはそれを感じ取る能力に長けていた。


 弱い奴にも、弱い奴なりに匂いはある。だが優汰は、匂いそのものが皆無だった。

 きっと弱過ぎて匂いすらしない、だから勇者は雑魚だ。昨日会った時はそう結論付けていた。


 だが奴はチェインスピアとやらを軽々とブン回していた。

 さきほどエンレゥ自ら扱ったが、あの挙動を真似るのは非常に骨が折れた。


 あれだけの所業をしでかしたのだ、弱者であろうはずがない。

 今再び確かめたが、やはり匂いは無かった。

 こんなことは、エンレゥにとって初体験だ。


「(只のヒトと侮るなってことか)」


 エンレゥは離れ、立ち上がる。

 優汰は何考えてんだコイツもしかしてホモ野郎かといった表情で後ずさりした。


「魔物に向かっていった根性は認めてやる」

「っ、何だって」

「暫く休んでろ、優汰」


 一方的に言うだけ言って、エンレゥは去っていった。


「……あいつ、名前」


 ルリララは一部始終を訝しげに眺めていた。

 名前で呼ぶのは牙猫族にとって親愛の証である。


「(さっきの活躍見て、優汰を認めたのか?)」


 エンレゥの心境は知れない。

 一方の優汰は、男に抱かれたおぞましさで鳥肌が立っていた。






「エリシアに戻るか」


 ルリララの出した結論は、いたってシンプルだった。報告と違っていたから帰る、それで十分だと。

 だが案の定、エンレゥは納得しない。


「ならお前らだけ帰れ。俺は行く」

「なぁ、お前なら状況わかるだろ」


 牙猫族で最も強いお前なら、ここで仕掛けるのは無謀なのは解かるだろう。

そうルリララは目で訴える。


「中で悪魔将が待ち受けてるかもしれない、危険すぎるだろーが。一旦帰還して」

「五月蠅え!」


 エンレゥは吠える。激昂する彼をルリララは宥めようとするが。


「五月蠅えんだよ泣き虫女! テメーは黙って俺の言うことだけ聞いてりゃいいんだ!」


 ちょっと待てとルリララは制止させようとする。だがエンレゥは強引に振りきって、洞窟へと歩いていった。


「あのアホが……」


 ルリララは苛立たしげに呟く。

 ひとしきり逡巡して、彼女は顔を上げた。


「ヴァイス。優汰と兵士らを連れて帰還してくれ」


 そう言って彼女は金鉱を見やる。


「追いかけるの、ルリたん?」

「ああ」

「ルリたんにレウたん、死ぬよ?」

「まあその辺は、妥協する」


 ルリララは無表情に応えた。

 けして死を望んでなどいない。自らの命を加味して、損得勘定をしただけだ。元来彼女はドライな価値観を持っている。


「つーわけで、ヴァイス。帰還の指示は任せる」

「まーかされた」

「短い付き合いだったな優汰。莉子にも宜しく言っといてくれ」

「じゃあ行こうユーたん」


 短く会話してヴァイスはUターンする。そしてルリララは金鉱へと足を進める。


「待ってくれ」


 優汰はUターンするヴァイスの袖を掴んだ。


「……全員で行った方が、生き残る確率は高いと思う」

「あのな」


 悪魔将が怖くないのか。

 つかお前も死ぬかもしれないんだぞ。

 だいたい勇者が死んだらアタシ達も責任取らなくちゃならんだろうが。

 全体の利益の為だから、理解してくれ。

 そう説得するも、優汰は頑として譲らない。


「じゃあ僕もルリたんについていこうかな」

「おいヴァイス」

「勇者の意向は絶対だよねー」


 最終的にヴァイスも肩入れしたことで、ルリララは折れた。


「すまん。優汰、ヴァイス。あのバカ野郎には後できつく言い聞かせるから、今は我慢してくれ」

「しょーがないよルリたん。僕達も中に入ろー」


 先頭はヴァイス。兵士達の中心に優汰。殿はルリララが警戒。

 先行するエンレゥに追いつこうと、やや早歩きで金鉱内部へと向かった。


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