33話 異世界side 細けーのはいいんだよ
2日目。朝食を済ませて出発し、再び馬車に揺られること数時間。目的地である金鉱が見えてきた。
優汰は馬車の格子窓から外を覗く。近郊には掘っ立て小屋が並んでいるが、全てが無人だった。そういえば警備兵は全員逃げ出したと言っていた。
ヴォイテーヌ金鉱。
そこでは鉄銅だけではなく、ミスリル銀などといったレアメタルも産出される。
しかも元から純度が高く、精製に手間が掛からない。さらには宝石まで採れるという。軍事的経済的においてとても万能な物件だ。
故に魔物にここを奪われると、エリシア王国そのものが窮地に立たされる。下手すると内部崩壊を起こしかねない。
早朝に話していたヴァイスの説明を思い出す。
「(たかが鉱山一つで、なんで国が滅びるんだか)」
優汰はエリシア国の脆さを理解しきれていない。
馬車が急停止する。どうやら到着したようだ。
いつものように迷彩柄の布をかぶせて隠す。
まずは遠目の利くエンレゥとルリララが先行調査する。
数分で戻ってきたが、ルリララは渋い顔をしている。
「まあ予想通りっちゃ予想通りだがな」
そう言いながら頭をポリポリと掻いている。どうやらグヌヌェット村と同じ構図のようだ。
坑道入口を中心として、<石魔><盾魔><鎧魔>など。硬い魔物を中心とした50匹程が陣形を組んでいる模様。
報告とは違う。もっとも報告を信用など、優汰含め誰もしていなかったが。
「その面子だったら、僕らでもやれそうかなー」
「面倒だが、まあ十分やれるだろう。籠城仕掛けられると厄介だが」
だがもし悪魔将が待ち伏せしていたら?
既に気付かれていたら? 向こうが行動を始めていたら。
十分にあり得る。だから撤退戦も考えながら行動すべき。
というのがルリララの立てた算段、だがエンレゥは。
「細けーのはいいんだよ」
「おいエンレゥ」
「要は魔物全部ブッ潰して、悪魔将炙り出せばいいだろうが」
「おいエンレゥ、……待てエンレゥ!」
「邪魔だからそこで待ってろ」
制止も聞かず飛び出した。魔物達がわらわらと集まってくる。
「あのバカ連携とか考えてねえだろ! ったくヴァイス、優汰を頼んだぞ」
仕方なくルリララも飛び出す。
正面の<石魔>を殴って吹っ飛ばすも、後続が襲い掛かってくる。
「僕達は待機、って訳にもいかなそうだねえ」
ヴァイスや優汰や兵士達も、みるみるうちに包囲されていく。その数は50を超える。
「僕らも出よう。兵士さん達、いつもの防御陣形よろー」
ヒトなんざ、どいつもこいつも屑で役立たず。なにもかも亜人以下の、ひどい劣等種。
クソみたいな宗教信じて、クソみたいに生きているだけ無駄。さっさと絶滅しちまえばいいのに。
防御陣形を人目見て彼はせせら笑う。
内側に引っ込んで護られてる勇者など、滑稽以外の何物でもない。さながら祭りの神輿だ。
あれで世界を救って下さるとか、脳味噌腐ってるとしか考えられない。いっそ元の世界に追い返しちまえ。
エンレゥはさっさと終わらせるつもりだった。
いちいち作戦立てるとか、ルリララはまどろっこし過ぎるのだ。
弱い魔物は叩き伏せてしまえばいい。
悪魔将だか知らないが、どうせ俺に敵う奴などいないのだから。
それに勇者を守護するなんてダルい任務を、あの泣き虫女が受けなくちゃいけない道理などない。
いずれあいつは集落に引っ込ませる。そして俺の子を産ませるのだ。
警戒したのか、魔物共は俺から距離を取り始め、向こうに集中し始めた。
向こうとは、ルリララが戦ってる方向だ。
邪魔だから待ってろと言ったのに!
エンレゥは舌打ちする。あのいけ好かない魔法剣士だけじゃ捌ききれないようだ。
兵士の合間を縫って誰かが飛び出してきた。
そいつの暴挙に、目を疑う。
「何やってんだ勇者! さっさと引け!」
嬲り殺されるだけだぞ、気が狂ったか。叫んだ瞬間。
背負っている巨大なスピアを引き抜き投擲。凄まじい轟音と共に、種類問わず纏めて串刺しにされる。
「槍を、投げるだと」
優太は手元の鎖を引っ張った。投擲したショートスピアが引き寄せられていく。
そして再び魔物の密集地に向かってスピアを投擲。悪付きを含めた魔物共が、まるで獲物のように次々と屠られていく。
「なんだあの武器!?」
「チェインスピアだ」
いつの間にかルリララが背中に寄っていた。
「訓練通り、ちゃんとやれてるな。まあ優汰は本番に強いタイプらしいし」
一週間ほど前だ。優汰の怪力をどうやって活かそうかと話し合った。
その結果が今まさに彼が振り回している武器だ。莉子のアイデアを元に、ルリララが考案したオリジナル武器である。
フレイルという武器がある。それを一言で説明するなら、鎖付きの鉄球。
チェインスピアとは要するに、フレイルの鉄球をスピアに換装した武具である。
スピア部分は2m以上で全金属性。それは恐ろしいほど超重量だが、バーサーク化した優汰なら軽々とそれを扱える。
立ち周りも少なく出来るので、スタミナ不足を補えるという利点もある。
「アタシもよく知らんが、グングニルっていう投槍が向こうの世界にはあるらしい。多分あのチェインスピアは、それを模した代物だ」
猛烈に間違っているが、訂正できるだけの知識を持つのは莉子だけであり、彼女はエリシア城で待機中だ。
「大した奴だろ、優汰は」
「……」
エンレゥは押し黙ってしまった。
「変身してなくてもあの怪力だ、底が知れねえ。そう思わねえかエンレゥ」
「……」
優汰は最後の一匹を仕留めていた。




