31話 異世界side 第二休憩地点②
夕食の後片付けは終了し、あとは寝るだけ。
予定では兵士らが交代で見張りをするはずだったが、ここでもエンレゥは俺に任せろの一点張りだった。
弱い連中に任せる気は無い、一晩中俺が全部やると言い張る。
それに待ったを掛けたのがヴァイス。
戦闘のエースは万全じゃないと駄目だって。だからゆっくり休んで英気を養ってよ。
それでも反論するエンレゥだったが、
「もしかして寝るのが怖い? へーえ、レウたんは奇襲だと対応出来ないんだー。最強って聞いてたのにちょっと残念だね」
というヴァイスの一言に刺激されて、激怒しながら馬車へと入っていく。
「(単純な性格だな)」
「単純ってゆーか、我武者羅って感じかな、主にルリたん関連で」
「心読むな。つか解かっててルリララ弄ってたのな」
「僕は他人をおちょくることに人生掛けてるんだ」
「いや、掛けんなよ」
相変わらずのヴァイス節だ。ついでにいつの間にか、あだ名はレウたんに決定していた。
そして見張りについてだが。
兵士4人と勇者パーティ1人、計5人のグループに小分けして、2時間交代でローテーションを組むことになった。
ちなみに優汰はローテーションから外されている。
ユーたんはぐっすり眠ってていいよー朝になったら起こすから寝坊しないでねー。とヴァイスの弁。
手伝いたかったが、見張りの経験など無いので大人しく従った。もぞもぞと寝袋に潜り込む。肌触りは悪くないと、優汰は思った。
そして深夜。
時間帯は、日付が変わろうとする一歩手前だ。
見張りをしているのはヴァイスと4人の兵士。しかし既に兵士達はうつらうつらと舟を漕ぎ、あまり役立っていない。
ヴァイスも、目をぼんやりとさせている。一見すると彼もサボっているよう。
とはいえ腐っても魔法剣士。実力あるものが見れば彼が周囲に、魔力を薄く張っているのが解かるだろう。
夜行性の獣達をくまなくチェックしている。万一狙われても、一瞬で剣のサビになるだろう。悪魔将を除いては。
その薄く張った魔力に反応した。
ヴァイスは目を細め、僅かに鞘から刀身を抜く。
しかし敵ではないと知り、さっそく軽口をたたき始める。
「なあヴァイス」
「ユーたんどしたの?」
「話したいんだが、いいか?」
「声がちっちゃくて聞こえないよー」
いつもの気の抜けるような返事だが、周囲の警戒は怠らない。
そのせいかヴァイスは目が全く笑っていないが、優汰はそれに気付かなかった。
「でもちっちゃい声だと聞こえないから、絶妙な声加減でよろしくー」
「それはともかく」
ヴァイスの茶化しを軽くあしらい、遠慮なく優汰は本題に入った。
「エリシアの兵士って、弱くはないけど、なんて言うか」
話を纏めていなかったのか優汰は、単刀直入かつあやふやに喋り出した。
兵士達? ヴァイスは少し悩んでああ成程、と納得した。
「お城の兵士って弱いとか以前にさ、まず基本がなってないよね」
「まあな」
「普通ありえないよね、見張りの途中で寝るなんて」
見張りの兵士達は全員、樹に身体を預けて眠っている。うつらうつらではない、完全な熟睡だ。
既に舟を漕ぎ始めてから久しいようだ。いびきが無いだけまだマシだろうか。
「野営の準備とかも、全然下手っぴだったし。うーん彼らの評価を一言で言うと」
「腑抜け腰抜けで、弾除けすらムリっぽそうな、さらに戦闘以外も素人ときたもんだ。強いて言うなら無能の極み?」
笑顔と罵倒のギャップが凄まじい。
兵士達が聞いたら、勇者を護れないと嘆き悲しみそうだ。
相変わらず、ヴァイスの本音は容赦ない。しかし同様の感想を抱いたのも、優汰にとってまた事実だ。
体格もそう悪くないし、複数人で頑張れば<土魔>くらいなら倒せそうな気がしないでもない。
だが倒さない、いや倒せない。
彼ら兵士は、というよりエリシア国民は、たとえ倒すだけの力があっても倒せない。
その原因はヨルテス教だ。
勇者至上主義という響きはいいが、それはつまり他人任せ。
他人任せの歪んだ考えが骨の髄まで沁み込んでいる。だから魔物を倒せない。
「初代勇者ヨルテスも、草葉の陰で嘆いているだろうな」
「さあ、案外そうでも無かったりして?」
ヴァイスは意味深に語る。
「他に聞きたいことがあるんじゃないの」
「ああ、うん。ルリララが言ってたソルゥ、えっと」
「ソルゥ・ブル・ヴリガンティ・ソードイド・ルガヴィのこと?」
日本で云う『健全な魂は健全な身体に宿る』と同じ言葉だ。
「なんていうか、言葉が、その」
「えーっとね、言いたいことは解かるよ」
要は、ソルゥ云々というのが、どうして日本語じゃないのを不思議がっているのだろうと、ヴァイスは推測する。
「あれは、共通語が制定される前に使われていた言葉さ」
「共通語?」
初めて聞く単語に、優汰は混乱する。
「んー、どこから説明すべきなのかな」
思案顔でヴァイスを見せる。
「不思議に感じたことはない? どうして僕達とユーたんが、同じ言語を使っているのか」
なぜ、異世界なのに、日本語が通じるのか。
よくよく考えれば凄まじい謎なのだが、ファンタジーなんだし、考えるだけ無駄だろうと優汰は結論付けていた。
「実はね。歴代勇者は全員、同じ所から召喚されてきてるんだ」
その発言で優汰はピンと来た。
「もしかして歴代勇者は、みんな日本人なのか?」
「そー。だから僕達が使用しているのは日本語なんだよ」
そして優汰も色々合点がいった。言語だけでなく、米やら野菜やら日用品やら。
妙に日本に似ているなと感じていたが、ヴァイスの説明で全部解決した。
「共通言語が発明されるまではね、亜人はもちろん、ヒトも地域によって別々の言語を使っていたんだ」
「だから日本語なのか……」
「ちなみにソルゥ以下略は、ワーキャット系の亜人全般が使っていたとされる言葉だよ。確か牙王語だっけ?」
牙王語ってのはね、と解説をしようとする直前で、優汰はあくび。
「説明いい、もう寝るわ。見張りの邪魔してすまなかったな」
「そんなことないよ。ユーたんお休み」
優汰は馬車に入った。しばらくしない内に、彼の寝息が聞こえてくる。
「少しは視野が広がったかい?」
誰にも届かぬ独白を宙に放った。




