30話 異世界side 第二休憩地点①
エリシア城の方角に視線をやる。
莉子がはしゃいで迷惑を掛けてそうな予感がしたが、むしろ平常運転だと優汰は気にしなかった。
「ヴァイス。火」
「OKルリたん」
指先に小さなエネルギー体らしきものを集め、枯葉に火を灯している。
これから夕食の準備だ。
エリシアを出発して6時間。大きな波乱もなく各々暇を持て余しつつ、一行は第二休憩地点に到達していた。
日は沈んで辺りはすっかり暗闇に包まれる。今日はこの森で一泊して、明日の朝に出立。そして昼ごろにはヴォイテーヌ金鉱に着くという算段らしい。
「ったく、こんな奥に仕舞うなよ」
ルリララは馬車の荷物から、暗幕のようなものを何枚も取り出し広げた。
「それはなんなんだ?」
「コイツは遮断布っていってな」
優汰に説明しながら、テントのように張り巡らせていく。
一見するとビニールのように透明だが、外側から見ると迷彩になっていた。
これなら魔物や夜盗にも気付かれにくいだろう。また煙を吸収して、外に溢れ出させない効果もあるようだ。
「それから消臭結晶」
拳大ほどの青い結晶だ。砕いたそれを周囲にばら撒くことで、一帯の臭いを消すアイテム。敵に襲われるリスクをより一層減らしてくれる。
「あとそれから、浄化石」
近くの川から汲んできた水に、軽石のようなものを2個沈めた。
濁っていた泥水が、すぐに透明になっていく。カルキ臭い水道水より美味しそうだ。
「川の水ってのは綺麗に見えても、腹下したりするからな。これで消毒するんだよ」
自慢げに解説するルリララ。これらは亜人が発明したものであり、野営には必須のアイテム。
ヒトが停滞している分、亜人達が技術革新を担っているのだ。
優汰は感心気にその説明を聞いていた。地味でファンタジーっぽくはないが、やはりここは異世界なのだなと実感する。
一通りの準備を終えてから、ルリララは調理を始めた。4人前だ。
ふと優汰は気付く。
「ん、それって」
「この包丁な、莉子に譲ってもらったんだ」
そう言いながら荷物から野菜を取り出し、トントンと切り刻んでいく。
日本製の包丁は、とてもよく切れる。前まで使っていた鉄製のとは雲泥の差だ。
「けっこう手間暇かけるねー」
「メシの美味さは、士気に直結するからな」
米に似た穀物を炊いたもの。
野菜がたっぷり入っているスープ。
スパイスの利いた獣肉ステーキ。
どれも食欲をそそる一品だ
遠征のために、彼女が率先して用意していた。莉子に料理レシピを教わりながら。
「おい」
冷たく鋭い声。エンレゥなのは振り向かなくても解かる。
一応振り向くと、彼は眉間に皺を寄せ、優汰を睨みつけていた。
「無駄話してんじゃねえルリララ!」
そう怒鳴りつつも、視線は優汰から離していなかった。
どんだけ嫉妬深いんだ、内心呟く。
まーまー落ち着いてと一緒に見回りをしていたヴァイスが、なだめつつ火にガソリンを注ぐ。
ものの30分もしないうちに夕食が出来あがった。
野営とは思えないくらい豪華なメニューが並んでいる。
ルリララを隣に座らせ、エンレゥが1番に箸を伸ばす。
俺の女に近づくなオーラ。ここまで露骨だと怒る気にすらなれない。
ここでヴァイスがにやーっと、最高の悪戯を思いついたような表情。
「ルーリたーん」
「うおっ、~~!?」
後ろから抱きついた。ルリララの顔に、ほっぺを擦りつける。
「んー、なんとなく?」
「なんで疑問形なんだよ!」
ヴァイスがイジっているのはルリララだ。
けどこれは、間接的にエンレゥをイジっているのと同義。
「(やりすぎだろ、ヴァイス!)」
もし莉子にそんなことしたら、間違いなくブチ切れる自信が優汰にはあった。ちょっとふざけ過ぎだろうと心配する。
というか、エンレゥ。
殺気と称した方がまだマシじゃなかろうか。腰溜めの手甲鉤が、血を吸いたそうにカタカタと震えていた。
流石に制止すべきか? などと悩み始める優汰だった。




