28話 異世界side 休憩①
第一休憩地点に到達したのは、ほぼ予定通りの時間だった。
御者が手綱を引くと、煩わしげに2頭は足を止める。
彼らは体格の素晴らしい名馬だったが、御していたのが専門でない兵士だった為か、己達の性能を活かせないでいた。
車輪を固定した馬車に迷彩布をかぶせ、野営の準備が始まっていく。
指揮しているのはルリララだ。本来は兵士長の仕事なのだが、あまりにずさんだったので彼女が指揮をとっている。
くどいようだが、ヒトと亜人には歴然とした差がある。
それは肉体的なものだけでなく、知力や統率力といったものも無縁でない。
エンレゥが戻ってきた。獣の肢体を引きずっている。
ブルックボアという熊に似た大型草食獣だ。
「おい」
「わーってるって」
顎で命令してくるエンレゥが、ブルックボアを放り投げる。
首根っこをキャッチしたルリララは獣の両足を縄で縛り、手頃な木に引っかけた。
吊るした獣の下に穴を掘り、おもむろに血抜きを始める。
大量の血や臓物がドバドバと降り注いで、溜っていく。
グロテスクなその光景に、優汰はたまらず目を逸らした。
「獣の解体も知らねえのか」
目ざといエンレゥが、これ見よがしに嫌味を言い放つ。
多少イラっときたが、優汰はそれを無視した。
「(この男、まじで面倒くせえ)」
自分が不甲斐ないのは事実だが、この男だって相当に大人げないんじゃないか。
なにせ出会ってからずっと、リアルに喧嘩を吹っ掛け続けているのだ。
挑発に乗って来るのを待っているかのような素振りすらある。
どうせなら感情を言葉にしてほしい。
やっぱ莉子を連れてこなくてよかったと、つくづく優汰は痛感した。
どうやら彼は女性を下に見る傾向がある。ルリララに対する態度から見ても、それは明らかだ。
莉子はこういうタイプの性格がとても嫌う。とくに彼のような相手を徹底的に束縛するようなのは。
もしこの場に鉢合わせしたらば、色々と面倒な事態になっていたことだろう。
「野営とか久しぶりだなー」
自前のチョコレートを咥えたヴァイスがふと呟いた。
彼は彼でマイペースに作業している。今さっきも簡易のキャンプセットが丁度組み上げたところだ。
「1人旅してた時は、もっと手際良かったんだけどねー」
「お前が一人旅?」
「そだよー。ユーたん達と出会う前はね」
「お前ってさ、旅とかしてる印象じゃないんだよな」
中身はともかくとして外見は貴族や王族のような出で立ちで、もっと簡単にいえば王子様系といったところ。
少なくとも外見からは、エンレゥのような野性味は感じられず、まるで正反対だ。
「僕の内なる溢れ出る気品に気付くなんて、流石ユーたん!」
「喋ってないで、適当に結晶振りまいとけ」
はしゃぐヴァイスをルリララは叱咤する。
「(意外と低いんだな)」
そんなブルックボアを解体中の彼女を見て、ふと優汰は思った。子供くらいの背丈しかない。
そういえば、莉子と並んだとき結構身長差があったような気がする。
「ヴァイス?」
「シーッだよユーたん」
集中しているルリララに向かってヴァイスは水筒を片手に、気配を薄くし近付いていく。
「ルーリたん」
「―――~~~っん、何しやがるヴァイス!」
「果汁水、飲む?」
完全に油断していたルリララは彼の接近に気付かなかったようだ。
首筋にピトリと置かれた水筒を奪って、乱暴に口に運ぶ。
「普通に渡せっての。 ……ゴハァ温っ!?」
果汁水を盛大に噴き出した。
「びっくりした? 瓶の表面だけ冷たくて中身温いジュース」
「んなモン用意してんじゃねーよ!」
「大変だったんだよ。瓶の内側に熱遮断コーティングして、それからジュースそのものが痛まないように密閉保存したりとか」
「お前ら修学旅行か」
たまらず優汰がツッコミを入れるのも仕方ない。
「修学? 旅行? ねぇねぇちょっと、ユーたん説明してよ!」
「うるせーヴァイス! つか遠征してんだぞ今!?」
この騒がしさ。いつものノリに近付いてきたかなと感じてきたが、エンレゥは不機嫌そうに眺めるだけだ。
優汰はなんとなく、エンレゥがあんな態度を取る理由の一つを察し始めていた。
彼はおそらく、ルリララの事を好いている。一目瞭然だ。
要するに『俺のルリララに手を出すな!』ということか。
ヴァイスもさすがにその辺り察して、ルリララへの干渉を少なくする、訳がない。
「ルーリたん!」
「だからなんで抱きつく、離れろアホ!」
火に油どころかガソリンを撒き散らしていた。あげく自らファイアボールを打ち込む所業だった。
チラリとエンレゥのほうを見やる。
気温が数℃下がった錯覚を感じたのは、今日で何回目だったろうかと優汰は溜め息を吐いた。




