26話 異世界side 遠征出発
「トイレは済ませた?」
「ああ」
「忘れ物とか無いよね?」
「子供じゃないんだから」
「優汰ってば変なところで抜けてるから心配なの。ちゃんと朝起きられる?」
「大丈夫だって」
普段以上に、心配げに気遣う莉子を安心させるように頭をポンポンとする。
幾分かは、落ち着いたようだ。
魔物に占拠されたヴォイテーヌ金鉱を取り戻すための、往復で3日がかりの遠征に出発する。
さしあたって優汰は、1つ条件を提示したのだった。それは莉子を留守番させること。
足手まといにならない方法は知っている、と抗議する莉子だったが、優汰は頑なに拒んだ。最終的に彼女は折れたようだ。
とはいえ納得してもらうまでには時間を要したのもまた事実。
絶対に無事帰還するからまかせろ、とルリララは答えたが、だったら私を連れて行ってもいいよねと莉子は主張する。
悪魔将から2人いっぺんに守り抜くのは難しいから。それじゃ最初から優汰を連れて行かないで、優汰と一緒じゃないとヤダ。そんな平行線な議論を約2日続けたのち、ようやく莉子が折れたのだった。
「ルリララも、約束忘れないでね」
「あ、ああ……」
ちなみに折れる条件として、後日ルリララは一緒に風呂に入ることを約束させられた。戦闘以外でも気苦労が絶えない彼女だった。ヴァイスが茶化したのは言うまでも無い。
「とにかく、絶対に怪我しちゃ駄目だからね」
「うぜぇ女」
言い放ったのは、案の定というかエンレゥ。耳穴を掻きながら、面倒臭そうに眺めている。
「ギャアギャアうっせえな女。つーかさっさと出発してーんだけど」
「えーっと……」
ゴメンと、小さな声で莉子は謝った。
「怒ってる? ねえ怒ってるキミ?」
すかさずヴァイスが茶々を入れるが、やはり完全に無視。微妙に気まずい沈黙が辺りを覆った。
そんな空気を打破せんとルリララはそっと配慮する。
「そういや莉子、薬はちゃんと持ってるか?」
「うん、これだよね」
そういって莉子は懐から小瓶を取り出した。
薬効成分のある数種類の薬草、それらを独自のレシピで調合した薬草だ。莉子はとても気に入っているようで最近はお守り代わりに、どちらの世界でも肌身離さず持ち歩いているようだ。
「こっちにいる間は、手放さないようにしておけ」
「おっけー」
気の抜ける返事にルリララは一抹の不安を感じた。
相変わらず莉子は、危機に対して鈍感だ。殴られようが痛めつけられようが、次の瞬間にはコロッと忘れてしまっている。
エリシア城内ならば、魔物に襲われる可能性は低い。
たとえ襲撃されたとしても、何百人もの兵士達が命に代えても護るだろうし、万一突破されることがあっても元の世界に逃げ込めば安全だ。
加えて莉子の再生能力があれば、まず間違いは起こらないだろう。
しかし万一の事態は常に起こりうるもの。安全係数は、可能な限り高めにすべき。それがルリララのスタンスである。
さらに続けて注意をしようとするものの、
「さっさと行くぞコラ」
ルリララの配慮を全く無視するかのように、エンレゥは急かしてしまった。彼女の目が細くなる。
「遅れてきたのは何処のどいつだ」
「あぁ?」
ルリララの揶揄。一触即発の空気になりかけるが、申し訳ございませんと関わってもいない兵士が平謝り。
その態度がいっそうエンレゥの逆鱗に触れた。
「おい」
謝った兵士が着用している鎧、目掛けて強烈なローキック。倒れこんで悶絶し、石畳に吐しゃ物を撒き散らした。
「何してやがるエンレゥ!」
「マジで屑野郎だなこいつら。弾除けの盾にすらならねえだろ」
さしものルリララも堪忍袋の緒が切れた。
「いい加減にしろよエンレゥ本気でキレっぞ!」
「あぁん!?」
「(ねぇ、本当に大丈夫?)」
莉子が心配げに聞いてくるのは、当然だろうと優汰は感じた。なおも火花を撒き散らすあの2人を眺めてれば尚更だ。
さきほどの蹴りを見れば、実力はあるだろうけど性格は最悪という印象だ。
猛烈な不安要素を抱えつつ、馬車に乗り込む優汰。ルリララとエンレゥ、それからヴァイスと兵士達を収納した馬車は、険悪なムードのまま街道を走り出す。




