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25話 異世界side 「こんなんが勇者か?」

 距離にして130麻。キロで表わすとだいたい110km。

 自動車などの交通機関がある日本ならともかく、ここは異世界。軍用馬車で飛ばしても片道5時間は掛かってしまう。

 途中で休憩なども挟まないといけないので、おそらく泊まりがけの遠征となるだろう。


 優汰達の意向に沿って、出発は土日に合わせることになった。


 そして土曜日の朝。


 無駄に広い大聖堂の祭壇前。何を血迷ったのかスキンヘッドにして眉まで剃ってしまったヨルタ15世と、周りを取り囲む神官たち。

 欠伸を噛み殺しありがたくない彼らの説法を聞き続ける優汰と、最初から完全に無視している莉子と、寝転がり堂々と眠っているヴァイス。

 ただ1人ルリララは、苛立たしげに足を踏み鳴らしていた。


「あの爺坊主さんのせいでさ、出発する前から疲れるよね」

「そうだな、莉子……」


 べつに莉子に対して怒っている訳ではない。

 理由は助っ人の遅刻だ。すでに出発予定時刻から半刻ほど過ぎている。

 ルリララはかなり几帳面な性格だ。そういった傲慢が許せないのであろう。


「ところでルリララ、格好どうしたの?」

「……ん、あぁこれな」


 莉子の質問に答えるべく、ルリララは己の出で立ちを見下ろした。

 長ズボン。くすんだ長袖シャツ。そして鋼鉄製とおぼしきブレストアーマー。


 普段の活発そうな格好と真逆、というかそれ以前にサイズが合っていない。

 全体的にぶかぶかで、まるで彼女の体型を隠すかのようにも見える。


「今日連れてきた奴はな、アタシが軽装するの嫌がるんだ」

「嫉妬深い人なんだねその男。なんか超ウザそう」


 莉子は見やる。頑丈そうな鎧はむしろ、ルリララの敏捷性を阻害しかねない。


「まあそうなんだが……ぉ」


 相槌を打とうとする莉子から、扉のほうへと目線を送る。


「来やがったな」


 ルリララは呟いた。

 次の瞬間バタンと、乱暴に扉を開かれる。


「遅せえぞ」


 ルリララの苛ついた声を完全に無視し、そいつは、優汰達のほうへ足音も無く歩いてくる。


 ゆっくりと、そいつの全貌が明らかになる。

 ワーキャット特有の、漆黒の髪色と、鋭い目付き。ただしルリララと似ているのはそれだけだった。


 彼女の身長はかなり低い方なのに対して、男は凄まじくでかい。さらに筋肉の厚みがまるで違った。腿の筋肉がルリララのウエスト位に膨れ上がっている。

 ネコミミや尻尾といった本来なら可愛らしいと思える要素が、逆に肉食動物に睨まれているような恐怖を想起させた。浅黒く焼けた肌には無数の傷跡が残っており、彼の遍歴が垣間見える。


 本気でヤバい奴が来やがった。優汰はそう感じた。

 初日から遅刻するなど、そんな傲慢かます奴なのだから、さぞかし実力者なのだろう。

 などと軽く考えていた自分を殴りたかった。


 実際に会ってみると、マジでヤバい奴だった。一目見ただけで脳が警告する。

こいつと比べりゃ、五島など塵芥同然だ。

 下手すりゃ黒騎士とですらタイマン勝てるんじゃないか、そんな認識が頭をよぎる。


 優汰の前で立ち止まり、観察するようにジロジロと、ぐっと威圧するように顔を近づける。


 思わず優汰はたじろいだ。

 例えるなら暴力団? いやそんな比喩すら生ぬるいか。

 こんなヤバい奴、日本じゃ見たことない。


 背中に汗が流れる。そんな優汰の胸中を察したのか男は、


「……ハッ」


 男は鼻で笑う。口元から露出している鋭い牙は、ルリララのそれよりも長い。


「ひょろっこい奴だなオイ。こんなんが勇者か?」


 第一声は、自分を罵倒する発言だった。

 僅かに頭へ血が昇る。


「おい、名前なんだ」

「優汰だ」


 挑発に乗ってやり、優汰は目を細めて睨み返してやる。


 不良だった、喧嘩に明け暮れていたあの頃の感覚がうずく。

 対する男もそれに応えるように笑みを浮かべ、腰の武器に手を伸ばす。


「エンレゥ」


 不機嫌そうなルリララの声色。チッと舌打ちが響いた。


「すまんな優汰。ほらエンレゥ、さっさと自己紹介しろ」


 もう一度舌打ちが響く。やれやれと、ルリララは首を振った。


「コイツの名前はルガヴィ=エンレゥ。見た目はこんなんだが、まあ悪い奴じゃないから安心してくれ」

「おいルリララ、なんつう紹介してんだよ」

「うっせ、文句あるなら自分でやれ! それ以前にエンレゥ、時間厳守つったろ!」

「うっせーな!」


 聖堂の長椅子を蹴飛ばして怒るエンレゥに、ルリララは溜め息を吐くしかなかった。


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