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24話 異世界side 最強のカード

 優汰と莉子の帰還後、現在PM6:31。城内はひそかに騒がしくなっていた。理由は魔物の出現だ。


「たたた大変ですルリララ様ヴァイス様! 魔物が、っ魔物がぁ!」

「どしたのさキミ、そんなに慌てちゃって」

「落ち付け、順序立てて説明してくれ」


 突然現れた若い伝令兵の、支離滅裂な説明を聞くヴァイスとルリララ。ふと、アタシらより先に王様とかに報告すべきだろうと脳裏で考えたが、口には出さなかった。


 内容はこうだ。魔物が襲来した場所はここから120麻ほど離れている、エリシア国が所有する金鉱。3日前に、突如魔物の群衆が襲いかかってきたという。

 命からがら逃げ出してきた兵士によると、魔物の数はおよそ20程度。集まっているのは殆どが<土魔>や<石魔>などの低級魔物だったらしい。


「ある程度の戦力が揃ってた筈なんだが。 ……情けねえなあ」

「亜人ならともかく、ヒトなんて所詮そんなもんだよ。でしょールリたん?」


 慌てふためき、王室へと駆け込む兵士を見送りつつ、彼に聞こえない声でそっと毒づいた。

 その程度、お前らで処理しろよと言いたいものの、無理な相談であるとは彼女自身わかっていた。


 1体多数の闘いに慣れているヴァイスやルリララにとっては、魔物が一匹だろうが百匹だろうが些細なこと。なぜなら2人にとって、魔物など取るに足らない存在だから。

 だが大多数のヒトにとって魔物は天敵なのである。最弱である<土魔>ですら1匹倒すのに、兵士数人で囲みやっと五分五分。駐屯兵ごときに期待するのは酷すぎる。


「なんでヒトって、こんなに醜いんだろうね」

「さあな」


 全人類皆奴隷。

 自分達で魔物を倒そうなんて考えない。愛しの勇者様が何とかしてくれる日を心待ちにしている、そんな人間達ばっかり。

 向こうで常駐していた兵士達は真っ先に逃げ出したそう。

 ここに報告へ来たのもその1人だ。勇者様勇者様と、盲目的に呟くその姿。まるで莉子の部屋にある壊れたCDのようだとルリララは感じた。


 勇者である優汰と莉子を除くと、魔物に通用する攻撃力を持っているのはヴァイスルリララ、たった2人しかいない。

 これが現エリシア王国の、悲惨な実情だ。


 まあそんなことはどうでもいい。

 というか、もっと深刻な事案がある。


 グヌヌェット村。偽の情報を掴まされたあの戦いは、忌まわしい意味で歴史に残るだろう。

 悪魔将と遭遇してしまったのは、こちらの準備不足のせいだ。優汰と莉子の初陣は最悪なものになってしまった。


 もし魔物が、金鉱を占領したのが、前回とおなじく勇者をおびき寄せる罠だったら?

 やはり悪魔将が待ち構えていたら? むしろ可能性は、そっちのほうが高いだろう。


 いっそ金鉱を捨てるという選択肢もある。

 まあさすがにそれは無茶だとしてもだ、まず間者を送り込んで情報収集をするべきではないかと。


 ルリララはそう提案した。

 が、それは消極的に拒否された。そんな逃げ腰ではエリシア教徒から文句が出る。

 優汰か莉子、最低でもどちらか1人は随行すべき。そうしないと非難の矛先が大聖堂に向いてしまう、と国のお偉方は言った。


 宗教というのは、つくづく面倒だと彼女は感じた。

 その縛りのせいで、最善手を封じ込められてしまう。罠と知りながら飛び込まなければならない。


 冷ました紅茶を啜りながら、思考を張り巡らせる。

 この一報は、優汰達が帰った後に伝えられた。

 丁度良かった。いらぬ心配を焼きたがる優汰のことだ。莉子はまあともかく、彼はきっと苦悩するだろう。遅かれ早かれ手は借りるにしても。


「もっぺん黒騎士が現れようものなら、対処のしようがねえぞ」

「グヌヌェット村のときは油断してくれたけど、次はヤバそうだよね」


 数百年間姿を現さなかった悪魔将が、なぜ突然あらわれたのかは不明。

それはこの際どうでもいい。


 重要なのは、悪魔将に目を付けられたということ。

 黒騎士との闘いでイヤというほど身に沁みたのは、死の絶望だった。

 いまこうやって生き残っているのは、何万分の一レベルの奇跡だろう。


 優汰のバーサーク化、莉子の再生能力があれば、もう一度奇跡を起こせるかもしれない。

 しかし、デメリットがあまりにも巨大すぎる。


 そもそも向こうの狙いは勇者の始末なのだ。わざわざ敵の術中に嵌ってあげるような行動をしてやるなど愚の骨頂だというのに。

 だというのに。

 だというのにだ、何故ろくに準備も出来ないまま討伐に向かわなければならないのか。

 しかも優汰か莉子、最低でもどちらか1人を随行させないといけない。


「だー、クソが!」


 そこまで段階的に考えルリララは、苛立ちを抑えられず怒鳴り散らした。


 右往左往するしか、能の無い兵士達。

 ヨルテスに祈るしか能の無い聖職者達。

 金暴力SEXしか脳味噌にない傭兵集団。

 権力争いしか芸のない貴族王族etc。


 成程、どうりで勇者に頼るしかない訳だ。


「どーする、ルリたん?」


 目下の悩みは黒騎士である。

 再び黒騎士などが待ち構えている可能性は十分にあり得る。

 万一の事態を想定した場合、現状あまりにも心細い。


「……一応手は打ってある」


 そう答えるルリララは、なぜか不機嫌そうだった。


「なにかあるの?」

「最強の手札を切るんだよ」


 最強? とヴァイスは問うた。


「そいつは牙猫族の中でも最強の戦士だ」

「それはすごい」

「勇者のパーティメンバーとなるべく育てられた男だ」


 空になったティーカップに、2杯目の紅茶を注ぎ込む。


「でも実際はさ、ルリたんがパーティ入りしてるよね」

「あー、それなんだが」


 氷を入れて冷ました紅茶をゆっくり飲みながら、ルリララは言葉を濁した。


「そもそもアタシが勇者パーティ入りしてるのが異常事態なんだ」


 本来ならその者こそが、パーティ入りする予定だった。

 だが召喚当日たまたま街に来ていたルリララが、莉子に見初められたことによって状況は一変する。

 ヨルテス教において勇者の意向は絶対。予定はすべて白紙になり、彼はパーティメンバーから外されてしまった。


「牙猫族最強ねえ。ルリたんより強いの?」

「当たり前だ、足元にも及ばねえ」


 そう言いながらルリララは、彼の戦いぶりを回想する。

 かつて牙猫族の集落を襲ってきた魔物200体。そいつらを彼は、わずか10分足らずで始末した。

 自分だったら1時間掛かっても終わらないだろう。


「さすがに悪魔将とやりあうのはキツイだろうが。まあ大幅な戦力アップになるだろう」


 亜人はヒトよりも身体的に優れているという。

 それは筋肉量であったり、耐久性であったり、はたまた五感が優れていたりなど様々だ。


 種族によって差はあるものの、やはり亜人とヒトとを比較すると、亜人のほうが圧倒的に優れていると断言できる。


 そんな亜人の中でも、ワーキャットはとくに抜きんでた能力を持つ。

こと戦闘面において、彼らより秀でた種族はまずいないだろう。


 そして件の彼は、その最強のワーキャットの中で一番の実力者。

 つまり切り札とやらは、ヒト亜人を含めた人間の中で、最も強い。

 ヴァイスや優汰など足元に及ばない位にな。そう暗に仄めかしているようだった。


「誇張抜きに、人間サイドが切れる最強のカードだと思っていいぜ」

「そんな凄い奴なら、是非お目に掛かりたいね」

「ただなぁ……」

「どしたの?」


 空っぽになったカップを置く。


「ただアイツは、ちょっと性格がなあ」

「? どんな風に」

「ああ、まあ一言で表すと――――」


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