23話 異世界side ユーたん強化プロジェクト
優汰は己の強さを信じていた。
喧嘩なら何百回とやってきた経験がある。拳の殴り合いだったら、たとえ魔物が相手でも勝てる自信がある。
が、それだけでは駄目だと痛感している。
只の魔物なら殴るだけでいい。だが先日遭遇した悪魔将の1人、黒騎士。奴は強い、ヴァイスやルリララですら、まるで歯が立たなかった相手だ。
喧嘩気分で倒せる相手ではないと痛感した。
強力な武器を使いこなす必要がある。だがちっとも上達しない。
今までのケンカでも武器を使うことは殆どなかったせいだ。
「ユーたんに必要なのは、メンタル面での強さだと思うんだ!」
色々な武具を試行錯誤しながらの鍛錬中に、突然ヴァイスは力説しはじめた。
「ユーたんが! バーサーク状態でも冷静さを保つにはどうしたらいいか、色々検討してみたんだ!」
「わかったから、大声は止めろ」
PM5:22。ヴァイスは今日もまた、相変わらずブレないうざったらしさを振りまいている。
まるでアイドルのような星を飛ばす笑顔は、あざとさ全開だが高身長でイケメンで足の長い美麗な彼がやると絵になる。とはいえ、うざいことに変わりない。
「どうしたの優汰?」
莉子が近寄ってくる。
優汰と違って優秀な彼女。さすがにバスケの疲れが溜っているのか、弓矢の命中率はややダウンしていた。いつものようにピットリと肌をくっつけ、優汰を赤面させる。
「あの状態やりつつ冷静さ保つって、ちょっとやれる自信無いんだが」
バーサーク化とは簡単に表すと、精神のリミッターが外れ忘我状態になることである。同時に肉体のリミッターも外れるため、100%以上の超人的な戦闘能力を発揮することが出来る。
それは非常に強力ではあるものの、難点は幾つかある。
1つは、自分の意思でなることが出来ない。そしてもう1つは、バーサーク化すると物事を考えられなくなってしまうこと。
とくに後者は深刻であり、場合によっては同志討ちになってしまう危険性もある。
戦術に組み込むには不安要素が大きすぎる。だがそれを差し引いても、素晴らしいスキルであることに変わりない。
「あれは凄かったよー」
まさに鬼神そのもの、とヴァイスは語る。少々ばつが悪そうに優汰は目をそむけた。
黒騎士との戦いでは絶体絶命の危機を脱し、五島率いる数十人もの不良を素手でやすやす叩き伏せた。
バーサーク化を制御できたなら、悪魔将が攻めてきても対処できるかもしれない。
だが心の制御は、優汰にとって最も苦手分野。そもそも忘我状態に入らないとバーサーク化できないのだから、冷静さを保とうとするのは本末転倒だ。
「つーかそもそも、俺のメンタル鍛えるってどうやるんだ」
「例えば~、靴の中に砂利を入れて1日過ごすとか」
「それのどこが精神修行だ」
じゃあ、とヴァイスは次の案。
「蚊に刺されても痒み止め塗らずに延々我慢するとか」
「足裏とか刺されると地味につらいよね」
「莉子、ノらなくていいから」
うーん、とヴァイスは次の案。を出そうとして頭をはたかれる。
「痛ーいルリたん」
「黙れアホ」
ぎゃあぎゃあと文句垂れるヴァイスを、ルリララは無視する。
「アホの言うことなんざ気にするな。アタシが指導してやるよ。
メンタル鍛えるべきってのはこいつと同意見だが、そうだな」
顎に指をあて、しばし思案にふけること数秒。
「ソルゥ・ブル・ヴリガンティ・ソードイド・ルガヴィ」
「なんだ?」
「ん。独り言だ」
聞き慣れぬ言葉の羅列。イントネーションも日本語とは随分違う。
「今のはアタシら牙猫族に伝わる格言だ。
『無敵に加え健全なる武器と鎧、そして至高の魂によって、戦士は完全となる』みたいな感じか」
「意味が解からん」
「それってつまり」
莉子が身を乗り出した。
「『健全なる精神は健全なる身体に宿る』ってこと?」
「まあそんな感じだ。察しがいいな莉子」
ソルゥは魂、ソードイドは剣、ヴリガンティは鎧。などといった風に訳することが出来る。
高校生離れした豊富な知識と推察力で、莉子はどんなあやふやな説明でも理路整然と纏める能力を持っているのだ。
「その賢さ、少し分けてほしいな……」
「今それ関係ねえだろ」
優汰はしみじみと呟いた。スポーツ万能なだけでなく、頭も完璧な恋人をしばし羨ましげに眺める。
「で、どうするの? 全宇宙を震撼させるユーたん強化プロジェクトは?」
「お前ってホント言葉に重みねえな」
そう呟きつつルリララ、またしばし思案にふけること数秒。やがて顔を上げぽつりと一言。
「必殺技でも作ってみるか。もしくは必殺武器とか」
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