第2話 返事を待ち侘びて
もう本当に許して欲しいんだ。
私はかれこれ彼氏どころか男友達も出来たことの無い女。
そんな女が女臭いこの工場で忙しい日々を送り、同僚に休憩時間で元カレのイチャラブ話を愚痴混じりに自慢され、挙句の果てに同僚の一人と共に寮の一室で過ごす為プライベートな時間なんて無い。
三大欲求の睡眠と食欲すら満たせない私には、残るに縋るものは性欲しか無かったんだ。
まあいいよね?
イマジナリーだもん、実質一人エッチじゃん。
男は言葉ではなく拳で、拳ではなくエッチでって同僚から聞いたし。
それに、女オンリーでカオスな職場でしてる人は珍しくない。ここで一人してる可哀想な人間が一人増えるだけだ。
「ん? ほら早く、見つかっちゃうと怒られちゃうから」
まあ見つかったとて大抵見なかったフリされるだろうけど。私もそうするし。
私の発言に、顔を赤らめながら首を横に振る青年。
それはそれで可愛いが……そうか、私のイマジナリーは私が無理やり押し倒して襲うパターンなボーイなのだ。
「ついて来ないとアソコプレスするよ?」
『ひぃっごめんなさい、ついてきます』
私の後ろをふわふわついてくる怯えるイマジナリー。
これからこの美青年を好き勝手しちゃうのか……それにしても、私が怯えてる美青年を押し倒すのが趣味だったなんてな。
目をぐるぐるにして興奮状態の私は、青年に振り返り指示を出す。
「えと、フレディーくんだっけ? 大人しく私に押し倒され抱かれるんだな」
『抱くというのは男性が……』
「うるさい」
私は作業着を捲った腕で青年を押し倒す……も、青年の身体を貫通するようにスルッとして触れられない。
青年は怯えながらも、非常に申し訳なさそうな表情で言う。
『僕は生霊なので物理的なことは無理なんです、ごめんなさい』
……生霊?
「生霊って何だっけ? おばけ? そういう設定なのか?」
『設定? 僕の身体は戦場の負傷で手当を行われた後、横になって寝かされているんです。意識が実体となって飛び出ちゃったみたいで』
私は、もうとっくに気づいていたのかもしれない。
「私のイマジナリーフレンドではないのか?」
青年は爽やかに。
『そうですね、僕は幻覚とかそういった類いではないです。それに僕は、貴方が作ったマシンガンに救われた身、お礼を言いに来たかっただけですから』
そう言ってのけた。
私は今この場から逃げ出したかった。
戦場で戦っていた勇敢な青年を、お礼の為にはるばる遠くから来た純粋な青年を、私はただ性欲を満たすために暴挙に出たのだ。
いや、逃げるのではないな、とりあえずこうだ。
私は片膝を地面につけ、キョトンとした青年の顔を見上げる。
「私と結婚してくれ」
いやそうじゃない!
何がとりあえずこうだだ、ごめんなさいだろうが!
青年は目を見開き驚愕している。
今まで爽やかと怯えている表情くらいだったから、この新たな表情も見れて私は満足。断られてさよならバイバイだな。
そんな青年は決意を込めた瞳を私に向けて口を開く。
『よ、よろしくお願いします』
「いいの!?」
結婚しちゃった……え?
私、結婚しちゃった!
出会って秒で生霊美青年と結婚!
人生勝ち組じゃおらああああ!!!
『まあ僕が生きて帰れたらですけどね』
爽やかな、それでいて少し寂しげな声でそう言った。
……
「……そう」
私はこれ以上何も言えなかった。
私が作ったサブマシンガンで救われたとしても、そのサブマシンガンで人を殺し、また殺されるかもしれない。
私が作ったサブマシンガンは、一体どれだけの人を殺めて来たのだろうか。
「おーいエリン何くつろいでんだ、仕事に戻れー」
我に返った私はゆっくり立ち上がり、元の作業台に戻る。
エリン。
フレディーと同じ、平和を意味した素敵な名だ。
しかしそれが今、その意味を持って私の心に突き刺さる。
……どうして私はサブマシンガンをプレスしているんだろうな。
虚ろな視線をプレス機に向ける私に、青年が心配そうに声をかける。
『僕は死ぬ覚悟で戦場に出ましたが、死ぬつもりで挑んではいませんよ。生きて帰りますから』
そうだ、フレディーは死ぬ前提で結婚を承諾した訳ではないんだ。それくらい分かっているのに、私は怯えてしまったことが恥ずかしい。
さっき出会ったばかりなのに不思議なものだ。
私は小さく微笑み。
「大丈夫、寧ろ私との結婚を率直で受け入れるなんて……びっくりだし」
『生霊に結婚を申し込むのもびっくりですよ』
手を動かしながら青年に笑顔を向ける。
「ふふふ……私、フレディーくんが傍にいるだけで、この労働時間がとても楽しいものになったんだ。ありがとうを送らせてくれ」
『へへ……僕からもそうですね、ありがとうございます』
私が言うべき言葉はそう、ごめんなさいではなくありがとうだ。
性欲に駆られていた私が馬鹿らしい。この小さな幸せでも十分なのだ。




