第17話 子供を待ち侘びて
病院に向かう為、私達はバスに乗って揺れていた。
蒸気機関車とは違い人が多く乗っており、席に座れず私は立ってゆらゆら。
『見てください、あの子風船持って大はしゃぎしてますよ。可愛いですね~』
私の横で、同じように立って窓を見ているフレディー。街中の景色に溶け込む、赤いゴム風船を持った女の子がわきゃわきゃ声を発しながら笑顔を振りまいていた。
「フレディーは子供が好きなんだね」
『もちろんですよ。子供達の笑顔や仕草、元気を貰えますからね』
フレディーは風船を持った女の子と負けない笑顔を私に向ける。私も、フレディーの笑顔や仕草から元気を貰っているのだ。私もフレディーに元気を分けられているだろうか?
そういえば、フレディーと初めて会った三年目のあの日もフレディーは笑顔だったが、あの時は爽やかで涼しげ、そして寂しそうな笑顔だった。
子供のように満面の笑みなフレディーを、最近よく見かけるのは嬉しい事だ。
『エリンも子供は好きですか?』
「私は……どうだろうな。一人っ子だったし、従兄弟も遠く離れた場所にいたから分からないんだ。ただ、可愛いって思ったりはする」
『好きになりますよ。それに、その、いずれ授かる子供はエリンに似るんですから、可愛いに決まってます』
少し照れくさく言うフレディー。
私に似た子供……?
……はっ!
私とフレディーの間に生まれる子供ってこと!?
「フレディー」
『ん、なんですか?』
「子作りするぞ」
もちろん今日病院でな!
急な私の発言に、フレディーは硬直してしまう。なんなら周りの乗客まで硬直しつつ私を凝視してきた。
あ、周りからすれば、私は独り言を連呼する変態マシーンだったことを忘れていた。
いや、見えていても言っちゃダメか、はっはっはっー。
『何言ってるんですか? まだ宿泊施設気分なんですか? ここ公衆の場で問題発言しないでください』
ちゃんと私にお叱りをするフレディーも可愛いな。あいや、反省はしてるぞ?
うん、とりあえずバスから出るまでは会話を控えよう。
私は手を合わせて謝りジェスチャーをして、周りの乗客達にもすみませんでしたと行儀良く言う。……言うて行儀良いか?
一段落した私の上着の裾を、後ろから引っ張る感触がする。
振り向くとそこには背の小さな子供が一人。可愛げな帽子を被った女の子が興味津々な顔で言ってきた。
「お姉さん、そこの浮いてるお兄さんは誰?」
「……え? 見えてるの?」
キラキラ光る目をしながら、激しく首を縦に振ってそうだよと伝えてくる女の子。
私とフレディーは思わずお互いに顔を見合わる。
私以外にもフレディーが見える人がいるとは驚きだ。子供って霊感強いって聞いたことあるが……うう、私だけ見えるっていう特別感が薄れてしまって少し悲しいな。
フレディーが女の子の目線に合わせるように、ふわふわと体勢を下げる。
『僕の声聞こえる?』
「うんっお兄さんの声聞こえるよ!」
大きな声でそう応える女の子のもとに、女の子の父と母が来て。
「すみません、この子少し目を離した隙に……さあ席に戻るよ」
「いやいやっお兄さんともっとお喋りするの!」
一連の騒ぎに周りの乗客がざわめきだす。
えと、これは何をすればいいのだろうか?
落ち着かせる?
いや……一度バスを降りて別のバスに乗り換えた方がいいかもなあ。
『ね、僕が君の座ってる場所に行くから、いい子に座ってお喋りしようね?』
「いいの? うん、いい子に座るよ!」
フレディーッ!
なんて大人な対応なんだ!
やっぱり心が綺麗で澄んだ人間のとる行動は違うなあ。性欲にまみれた私と大違いだ。
女の子は元にいたであろう席、父親の膝上に座ってフレディーとニコニコお喋りを始める。今日の食べたご飯が美味しかったことや、女の子が飼っている犬が可愛いことを自慢したりなホンワカ雑談だ。
私も混ざりたいなあ。
てかフレディーを独り占めしてあの女の子ずるいじゃないか。私の夫に告白したりしないだろうな?
と思った矢先。
「ねえねえお兄さん! 私が大きくなったら結婚しよ!」
無邪気で愛らしい表情をして私の夫に言ってきたのだ。




