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生霊美青年と婚約した話  作者: おりみみ


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第18話 会話を待ち侘びて

 うわあああああっ言わんこっちゃない!

 でもここでフレディーと女の子の会話を遮るにはいかないんだ……くいいいっ、が、我慢せねば……


『ごめんね、僕はあそこにいるお姉さんと結婚するんだ』


 フレディーが手をパーの形で私を示めす。女の子がくいっと私に振り向くと、頬をめいいっぱい膨らませて睨んでくる。

 

 ごめんね?

 けど絶対渡さないよ?

 

 私の隣で立っていたおばあさんが私に語りかける。


「おまえさん、本当にそこに夫さんがいるんかい?」

「え……はい、私の夫は生霊でして、信じて貰えないと思いますけども」


 私とおばあさんの会話を聞いた周りの乗客が次々に口を開き。


「私の席と変わりますか? ここの席旦那さんの近くのはずなので」

「お兄さんとやらはどう見えてるんだい?」

「独り言も全部旦那と喋ってたなんてな、驚きだよほんと」


 私に全てのセリフまでは聞き取れず、まあ私の夫はイケメンですから! と適当に謎自慢をしながら女の子の母親の隣に座る。

 私同様にフレディーにも声がかけられており、女の子がお得意に通訳係をしていた。


『それでね、僕はエリンに憑依出来るんですよ』

「憑依?」

『あ~身体を借りて喋ったり食べたり走ったり出来るようになるんだよ』

「面白そう、憑依見たいなあ」


 これはもう私が憑依される流れじゃん。

 で、憑依された。


 明らかに挙動が変わった憑依中の私に乗客達は驚き、第二回質問攻めが開催された。ちなみに、女の子は何故か私の膝元にいつの間にか座っている。とても満足そうだ。


 その内、フレディーと私の馴れ初めの話から、フレディーの戦争経験の話に移り変わっていった。

 女の子を含む子供達が何人か居るので、フレディーはキツい描写を言うのは控えて慎重に話を進めていた。


 常に緊張状態でぐっすり眠れなかったこと。

 大切な友人が目の前で亡くなってしまったこと。

 笑うことを忘れてしまっていたこと。

 普及される食べ物の味を次第に感じられなくなっていったこと。

 多大なストレスで、見えていたカラフルな景色が、モノクロの世界と化したこと。


 そんな話を聞いた乗客は涙を流し、私達に応援の言葉をくれた。素直に嬉しいものだ。


 フレディーが戦場でどのような生活をしていたのか、私も初耳だったこともあり真剣に聞いていた。胸が締め付けられるこの感覚、そうだ、フレディーの身体状態を知った時と同じものだ。


 ……そうか、ずっとフレディーと手を透かして交差していたが忘れていた。

 私はフレディーと手を繋ぐことが叶わないんだ。


 それだけじゃない。手を握り合うことも、頭を撫でられることも、あーんをされることも、抱き寄せられることも───


「ねえお兄さん、なんで泣いてるの?」

『ん、なんて?』


 女の子が憑依中の私に向かって言った言葉に、私は現実に引き戻される。


 私は何考えてるんだ、こんなこと、私は望んでなんか無いんだ。私はフレディーの傍に居るだけで幸せなのに。どうして。


 バスが横に駐車される。

 もう目的地に着いたようだ。


 ……フレディー、憑依を解除してくれ。


「分かりました、ああ、僕達はここで降りるので。じゃあね」


 女の子を私の両手で優しく下ろしたフレディーは、私の身体から抜ける。


 私は解除されたと同時に急いで顔を拭った。フレディーにはまだ見られてないはずだ。


「じゃあまた何処かで」


 そう言い残し、私は笑顔でバスから去る。

 女の子とお別れを済ませたフレディーが、遅れて私についてくる。


『エリン、大丈夫ですか?』

「大丈夫ってなんだ? 私はどうもこうもしてないぞ? それよりフレディーに会えるんだ、急いで向かうぞ!」

『……もう、心配かけないでくださいよ』


 私は早歩きで目の前に迫る大きな病院に向かう。大丈夫、私の思考の全てがフレディーに伝わっている訳じゃない、聞かれていないはずだ。


 フレディーにこの思いがバレることはない。


 ……この思いって、何だ───

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