第15話 ディナーを待ち侘びて
野菜のフレンチフライとムール貝を交互に食べ進み、なんの魚が入ってるかイマイチ分からないスープを口に運ぶ。
野菜の塩気とムール貝の癖のある濃厚な味が手を取り合うように口に溶け、暖かなスープが優しく包み込む。
つまりだな、美味い、美味いぞ!
これだけでも完璧なのに、肉もデザートもあるのがまた罪深きこと。
『美味しいですねエリンさん! はあ……感動で涙が出てきそうです』
「感度ビンビンでお水が出てきそうです?」
『どんな聞き間違いですか、美味しいディナーの雰囲気を護ってください』
フレディーも美味しく感じているようで安心だ。出来れば美味しそうに食べるフレディーの顔が見たかったが、欲張りかな。
『お肉食べたいです』
「私の?」
『え……』
「ごめんて、絶句しないで冗談だから。あ、でも私自身はフレディーくぅんに食べられちゃうのは本望だぞ♡」
『……』
絶句したままのフレディーの機嫌を取る為、カルボナードの柔らかお肉を食べる。
ああ~やっぱり肉だわ、イギリス人の身体に染み込みますわ~。
それに、フレンチフライとカルボナードの相性もこれまた良い。フレンチフライはいくらあっても足りないな。
『……』
「え、美味しくなかった?」
『ああいや、美味しすぎて……言葉が出ませんでした』
むう~~可愛いやつめ!
ほっぺが落ちそうでした~とか言ってもいいんだぞ!
『こうして幸せを共有出来るって、生霊である僕とエリンさんの特権ですよね』
「エリンな」
『へへ……』
幸せ、五感の共有、そういえば、私とフレディーが感じている五感は同じものなんだな。
ふと、サブマシンガン工場でプレスしていた時、暇で思考に思考を費やしていた記憶が蘇る。
「フレディー、私達が同じ感覚を共有出来てるのってさ、凄いことなのかもしれないな」
『そうですね、憑依慣れしてきていますが、未だに信じられませんよね』
「……私はこう思ったことがあるんだ。私の感じているものが、他の人間と違っていたらどうしようってね」
『違う……感じ方?』
「そう。私が見ている空は青いのに、他の人間からしたら、私で言う赤に見えているかもしれないみたいなね」
五感の感じ方の違いは、些細なものがあるだろうが、全く違う感じ方の違いを証明するのは難しい。
甘いと感じているものが、他の人間が私にとっての辛いと感じているかもしれないし、今食べてる肉の暖かみも、冷たいと感じているかも……とキリがないんだけどね。
爽やかで、静かな声が脳に響き渡る。
『見えてる景色がモノクロだったり……とかですかね』
「モノクロ? 確かにそれもあるかもね。フレディーは私と同じ景色だった?」
『はい、僕はとてもカラフルな景色になりましたよ。エリンのお陰で』
「そう? それならよ……え、今、エリンって」
エリンって。
エリンって言ったのか?
『はい、エリンって言いましたよ。エリン』
呼び捨て処女が脳内再生でとかもうアウトでしょ!
「ふわわわッわああッフ、レディー、もう一回言って」
『……エリン』
「ふッふわぅあ」
手が……手がプルプル震えて来た……!
いや手だけじゃない、これはダメなパターンだ!
とても嬉しいしもっと言って貰いたいが、これ以上痙攣でもしたらおかしくなってしまう。今すぐ辞めさせなければ!
『エリン』
「フレディー……! うぃッもっともっと!」
わかってたさ、私に自制心なんか無いって。
『へへ、良いですよ。エリン……エリン』
「……ッ……ふぅ……!」
『エリ……え、ちょっとエリン? 待って今それしたらマズ……ってうわっ!』
この汚い哀れな女を見ないでくれフレディー。
純粋な美青年が見てはいけない光景なんだ。
私は悶え痙攣する身体を必死にうずくま……ん?
あれ、なんかまだ脳内でフレディーの声がするような?
『……ッ今、感覚共有してるんですから……ふう、やめてくださいよ……』
私が痙攣しても追い出されてないだと!?
耐性が付いたってことか?
え、痙攣する私と同じ感覚をフレディーも感じて、追い出されない……え?
つまり、え、え、そういうこと?
痙攣しちゃえばフレディーも……えええ!?
脳内でフレディーが、今日のカウントダウン中と同じように息を荒くしながら。
『これ以上したら……僕、壊れちゃいますから……ッ』
フレディーの爽やかエッチな声に、私の理性は吹き飛んだ。
いや、いつも理性は吹き飛んでばかりだけどさ、今回はその比ではなく記憶まで吹き飛んでいたんだ。もうズルいよフレディー、私も壊れちゃうじゃん。
まあ、これもフレディーへのご褒美の一環ということで……許してね!




