68.母は牙を隠す
翌朝。シャルロッテ・ミレーユは、うっすらと朝霧の立ち込める西棟の鏡の前で、静かに己の唇を歪めて微笑んでいた。鏡の向こうに佇む輪郭は、非の打ち所がないほどに完璧だった。
陽光を弾いてきらめく金糸のような縦巻き髪。すべてを見透かすように深く澄んだ、冬の湖のごとき青い瞳。そして、過酷な悪阻を隠すために薄く白粉をはたいた、冷徹な白磁の肌。
誰がどう見ても、そこにはこれまでと変わらぬ、高慢で、贅沢を愛し、現実から目を背け続けているだけの美しい伯爵夫人が立っていた。だが、その張り子の仮面の内側にある魂は、もう以前の彼女のものではなかった。
鏡の中の凍てついた女を見つめながら、シャルロッテは皮膚を剥ぎ取られるような苦悶の果てに、一つの真理を完全に理解していた。
理不尽な現実に怒鳴り散らすだけでは、あの成金どもには勝てない。ただ部屋の隅で涙を流して憐れみを乞うだけでは、この腹の底にある小さな命を守ることはできない。すべてを奪われ、実利という名の帳簿のインクで塗り潰されたこの呪われた屋敷で生き残り、すべてを強奪し返すためには───私は、花の香りをまとった猛毒の蛇にならねばならないのだ。
「奥様、本日の朝食ですが……」
寝室の扉際で、デュラン商会から送り込まれた若い侍女が、寝刃を確かめるような恐る恐るの声音で声を掛けてきた。
「旦那様は、どちらにいらっしゃるの?」
「……は、はい。すでに北棟よりお戻りになり、食堂にてマリアンヌ様とご一緒に、朝の定例書類を改めながら召し上がっておられますが」
「そう」
返ってきたシャルロッテの声は、どこまでも静かだった。その静けさの奥に、ほんの一瞬だけ“揺らぎ”が走った。侍女はそれを見逃したが、シャルロッテ自身は気づいていた。
───まだ完璧ではない。だが、それでいい。今は“未完成の静けさ”こそが、敵の警戒を鈍らせる毒になる。
ほんの数日前までのシャルロッテであれば、朝食の場にまで愛人が平然と同席しているという屈辱の事実に激情を爆発させ、癇癪を起こして手近な銀器や食器の一つでも叩き割っていただろう。けれど、今の彼女は違う。ただ唇の端を優雅に吊り上げ、完璧な正妻の微笑みを浮かべた。
「では、私も今日からそちらへ同席しましょう。案内しなさい」
侍女の顔色が、一瞬にして土色へと変わった。
「え……? あ、あの、しかし、旦那様方は商会の実務のお話をされておりますので、奥様が同席されても退屈をされるかと……」
「聞こえなかったのかしら?」
「い、いえ……! ただいま、お席をご用意いたします……!」
底知れない青い瞳に真っ直ぐに見据えられ、侍女は慌てて平伏するように頭を下げた。シャルロッテはゆっくりと、微かな衣擦れの音を響かせて立ち上がる。その際、ドレスの豪奢なフリルの下に隠された己の腹部へと、無意識に、だが誰よりも猛々しい守護の意志を込めてそっと手を添えた。まだ目立つような膨らみはない。けれど、確かにそこにいる。
この冷え切った檻の中で唯一、私を「人形」ではなく「母」として求めてくれる小さな命。この存在こそが、かつて虚栄の中で溺死しかけていた彼女を、冷酷なる復讐者へと変えたのだ。
主食堂。東側の大きな格子窓から、朝の豪奢な陽光が差し込む美しい空間。かつては歴代のミレーユ伯爵が愛した白を基調とした優雅な空間だったが、今やジルベールが持ち込んだけばけばしい金縁の装飾に汚染されている。そして、そこに漂う空気は、冬の死体安置所のように冷え切っていた。
「まあ。これは珍しいお客様ですこと、奥様」
食堂の扉が開いた瞬間、最上席の隣に据えられた特等席で朝食を摂っていたマリアンヌが、その栗色の目を丸くした。まるで、自分のテリトリーに迷い込んできた憐れな珍獣でも眺めるような、隠しようのない侮蔑と優越感に満ちた反応だった。
その隣の席では、黒髪黒目の強靭な体躯をした男───ジルベールが、無表情に新聞を広げている。彼はシャルロッテが音もなく部屋に入ってきたのを認めると、一瞬だけその鋭い黒い視線を止め、低く硬い声を出した。
「どうした、シャルロッテ。お前が朝食の席に自ら現れるなど、去年の冬以来だな。西棟で寝台に突っ伏していた方が、お前の繊細な頭痛のためには良いのではないか」
「あら、夫婦で同じ食卓を囲み、朝の挨拶を交わすのは貴族として当然の義務でしょう? 旦那様」
シャルロッテは、マリアンヌの正面に置かれた、本来ならば女主人が座るべき空席へと、流れるような動作で優雅に着席した。
そのあまりにも堂々とした、そして一分の揺らぎもない穏やかな態度に、マリアンヌの貼り付けたような笑みが僅かに引きつる。以前なら、この席に座るだけで、シャルロッテは露骨に不快感を剥き出しにし、マリアンヌを「下賤な成金の牝犬」と罵って席を立っていただろう。だが、今の彼女は違った。穏やかだった。まるで深い霧の立ち込める森のように、不気味なほどに穏やかすぎた。
「マリアンヌ」
「……何でしょう、奥様? 私のような実務の者に、何かご用でも?」
「最近、随分とお忙しそうですわね。デュラン商会の王都での大口取引の差配に加え、このお屋敷の奥向きの管理まで。旦那様の大事なお手伝いをされているのでしょう?」
「ええ。旦那様に必要とされておりますので。数字の読めないお人形の方々とは、生きる世界の密度が違いますの」
マリアンヌは、自分の腹部にそっと手を当て、これみよがしに「懐妊」の優位性を誇示しながら小馬鹿にしたように笑う。
だが、シャルロッテは静かに白磁のティーカップを傾け、澄んだ紅茶を優雅に口へと運んだ。そして、寸分の揺らぎもない声音のまま、何気ないトーンで言葉を継いだ。
「そう。けれど、お身体には気をつけなくてはね。……商会の医師との『秘密の打ち合わせ』も、さぞかし大変なのでしょう?」
───カチャリ。
マリアンヌの手元で、繊細な陶器のティーカップが、小さく鋭い音を立てて受け皿とぶつかった。ほんの僅かな、常人であれば見落とすほどの指先の動揺。だが、完璧に神経を研ぎ澄ませていたシャルロッテは、その蛇の鱗が逆立つような瞬間を、決して見逃さなかった。
昨夜、ベルナデットと共に調べさせた、マリアンヌが頻繁に呼び寄せているお抱え医師との不自然な金の流れ。その疑惑の端緒が、今、見事に彼女の網に引っかかったのだ。ジルベールが、ゆっくりと新聞を折り畳み、その深淵のような黒い瞳で妻を凝視した。
「……どういう意味だ、シャルロッテ。お前が医療のことに口を挟むなど、不穏だな」
「別に? 何の意味もございませんわ、旦那様」
シャルロッテは、無垢な少女のように小首を傾げ、極上の笑みを返した。
「ただ、最近よく屋敷の裏手で、マリアンヌ様お抱えの先生を見かけますものですから。懐妊初期の身体というのは、色々と他人に言えない不安や、隠しておきたい体調の変化も多いでしょう? 労って差し上げただけですわ」
マリアンヌの睫毛が、ほんの一瞬だけ震えた。だが次の瞬間には、完璧な笑顔を貼り直していた。
───その“わずかな隙”こそ、シャルロッテが狙っていたものだった。
ジルベールは完全に無言だった。だが、その値踏みするような商人の瞳は、妻の言葉と、それに対して明らかに過剰な反応を示した愛人の横顔を、静かに、そして冷酷に観察していた。シャルロッテは、そのジルベールの眼光を見て確信した。
(───そうよ。この男は、最初からマリアンヌのことすら全面的に信用しているわけではないのだわ。信じているのは利益と、自分自身だけ。だからこそ、この男の『疑心』は、最高の武器になる)
「……奥様は、本当に、お優しい方なのですのね」
マリアンヌが、ようやく震える唇を開いて笑った。だが、その笑顔は完全に引きつり、仮面のひび割れからどす黒い焦燥が透けて見えている。
「ええ。だって私たち、同じ『この屋敷で母になる身』ですもの。お互い、お腹の子供は大切に育てなくてはね」
シャルロッテは、慈愛に満ちた聖母のような微笑みを浮かべた。その瞬間、マリアンヌの目が肉食獣のように細くなる。華やかな朝食のテーブルの上で、誰にも聞こえない鋭い威嚇の音を響かせながら、二匹の蛇が互いの喉元を狙って牽制し合うかのような、息詰まる心理戦が幕を開けていた。
朝食後。シャルロッテは、波立つマリアンヌの気配を背中に感じながら食堂を後にし、自室へと戻る薄暗い回廊の途中で、わざと人目を避けるようにして足を止めた。影の中から、音もなく彼女の乳母であり、亡き母の代から仕える老侍女ベルナデットが姿を現す。
「ベルナデット」
「はい、お嬢様。ここに」
「最近、旦那様がこの邸内に配置している使用人の陣形が、妙に変わったわね。特に、北棟の周辺」
「……お気づきになられましたか。左様でございます。ここ数週間の間に、古参のミレーユ家直系の使用人が次々と別の領地へ飛ばされるか、不自然な解雇を言い渡され、代わりにデュラン商会系の人間が配置されております」
「誰の指示?」
ベルナデットは深く口を結び、沈黙した。だが、もはや答えなど不要だった。ジルベール、あるいはマリアンヌ。恐らくはその両方が、ミレーユの息吹をこの館から完全に消し去ろうと動いているのだ。
「父の身の回りを世話していた、古参の人間から順番に消えているわ」
「……」
「つまり、お父様はまだ、確実に生きているのね」
ベルナデットの細い肩が、感情の激昂をこらえるように僅かに揺れた。
「お嬢様……」
「死んでしまった人間を、あんな風に厳重に、人の目を隠すように閉じ込めたりしないわ。あの成金どもにとって、お父様はまだ『生かして監禁しておかねばならない理由』があるのよ」
シャルロッテは静かに、だが確固たる確信を込めて言った。胸の奥底で、実の父を薬物で生ける屍にしている男たちへの激しい怒りが、業火となって燃え盛っている。だが、今の彼女はその炎で自らを焼き尽くすことはしない。その怒りは、敵の喉元を正確に一撃で断ち切るための、氷のように冷たい暗殺の刃へと研ぎ澄まされていた。
「私をお父様に会わせなさい、ベルナデット。何としてでも」
「……今は、あまりにも危険が大きすぎます。昨日の懐妊の報告、そして先ほどの食堂での振る舞い。旦那様は、奥様のそのあまりの変貌ぶりに、確実に『警戒』の目を向け始めておられます」
シャルロッテは、自嘲気味に小さく鼻で笑った。
「でしょうね。ジルベールほどの男なら、私の不自然な静けさに気づかないはずがないわ。今まで散々キャンキャンと吠え散らかしていただけの犬が、突然静かになって牙を隠したのだもの。不気味で仕方がないはずよ」
「ですが……お嬢様。時間はかかりますが、確実にあの幽閉の扉を開く道はございます」
ベルナデットは、周囲の回廊に人影がないことを完全に確認してから、シャルロッテの耳元へと声を極限まで潜めた。
「デュランの金に屈せず、未だに胸の内でミレーユ伯爵家への、そして幽閉された大旦那様への絶対の忠誠を誓い続けている古参の使用人や騎士の生き残りが、僅かではありますが、この館の底に潜んでおります」
「……残っていたのね。あの嵐の中で」
「皆、牙を折られたフリをして、口を閉ざして耐えていただけにございます。お嬢様が本当の『主』としての覚悟を示されるその時を、じっと待っていたのです」
シャルロッテは長い睫毛を伏せ、青い瞳を鋭く細めた。ならば。まだ、ミレーユは完全に滅びてなどいない。盤面はまだ、完全に詰んでなどいないのだ。
かつて、信念のままに、まるで清廉な騎士団長のような男前な意志の強さで前へと突き進み、最後には運命すらも味方につけて幸福を掴み取ったリシェル・ヴァレリオの姿が、再び脳裏をよぎる。リシェルのような純粋な正義は自分にはないかもしれない。だが、我が子を守るため、父を救うためという濁りのない「信念」ならば、今の自分にも、この血肉の中に確かに宿っている。
「その古参の者たちを、裏で繋ぎなさい、ベルナデット。ミレーユの本当の血脈の味方を、暗闇の中で集めるのよ」
「奥様……」
「ただし、決して急いでは駄目。絶対に尻尾を掴まれてはならないわ。今動けば、一瞬でジルベールの私兵に圧殺される。あの男は、決して馬鹿ではないもの」
むしろ、商人として泥水をすすりながらのし上がってきた、金と人の流れの裏側をすべて読み切る怪物だ。正面から戦えば、ミレーユの伝統など一瞬で小切手のように破り捨てられる。ならば、彼らがこちらの従順さを完全に信じ込み、油断の極みに達したその瞬間に、内部の臓腑からすべてを食い破って強奪する。
「……お嬢様は、本当に、お変わりになられましたな」
ベルナデットが、歓喜と畏怖の混ざり合った掠れた声で呟いた。シャルロッテは、自身の腹部を愛おしげに見つめながら、少しだけ寂しげに、だが残酷に笑った。
「私は、守るべきものを得たのよ、ベルナデット。……それだけで、女は獣にも蛇にもなれるわ。」
それだけだった。だが、それだけで、この地獄を覆すには十分すぎる理由だった。
その夜。深夜の静寂が館を包み込む頃、西棟のシャルロッテの寝室の重厚な扉が、遠慮のない音を立てて開いた。入ってきたのは、珍しく執務服を崩した姿のジルベールだった。
シャルロッテは、寝台の上で一本の蝋燭の光を頼りに、父の書棚から持ち出させた歴史書を静かに読書していた。以前の彼女なら、夫の突然の来訪に驚き、あるいは昨夜の愛人の件でなじり散らしていただろう。だが今は、ただ優雅にページをめくり、静かに本を閉じただけだった。
「珍しいですわね、旦那様。今夜はマリアンヌ様の温かな寝床ではなく、この冷え切った西棟に何の御用かしら」
「……お前、何を隠している」
ジルベールの声は低く、獣が喉奥で唸るようだった。
「以前のお前なら、今朝のような態度は絶対に取らん。変わりすぎだ。……理由を言え」
ジルベールはベッドの柱に寄りかかり、その大きな体躯から放たれる威圧感でシャルロッテを上から見下ろした。その視線は、完全に極上の商品の異常を検知しようとする、鋭く冷徹な商人の目そのものだった。
「当然でしょう? 私はミレーユの正統なる後継をその身に宿す、母になるのですもの。いつまでも子供のようにおもちゃを奪われたとヒステリーを起こしている場合ではありませんわ」
「……」
「それとも、以前のように感情的に叫び、お皿を投げつけて貴方の仕事の邪魔をする、扱いやすい無能な私の方がお好みでしたかしら?」
ジルベールは答えなかった。代わりに、ゆっくりと地を這うような足音を響かせ、彼女の座る寝台へと近付いていく。その武装商船の船長のような、圧倒的な暴力の気配を前にすれば、並の令嬢なら恐怖で呼吸を止めるだろう。だが、シャルロッテはその冷酷な黒い瞳を、真っ正面から毅然と見据え返し、一歩も引かなかった。
「今朝、食堂でマリアンヌに何を言った。あの女が、朝食の後から酷く怯え、情緒を不安定にさせている」
「あら、ただの微笑ましい世間話ですわよ。妊婦同士、身体を労り合いましょうと、未来のお話を差し上げただけですわ」
「……あの女を、無駄に刺激するな。マリアンヌは俺の商会の、実務の最前線を担う重要な頭脳だ。お前のような飾りの女が、余計な真似をして機能停止させることは許さん」
「なぜ?」
シャルロッテは、無垢な微笑を湛えたまま首を傾げた。
「ただの愛人でしょう? それとも……旦那様にとってあの女は、ただの便利な奴隷ではなく、それ以上に『大事な存在』だとでも仰るの?」
ジルベールの目が、刃物のように鋭く細くなった。彼は完全に理解し始めていた。目の前にいるこの女は、確実に変わった。以前のように目先の屈辱や感情で動いていない。その美しい額の裏側で、冷徹に何かを考えている。計算している。
ジルベールはその予期せぬ不条理な変化に、激しい不快感と警戒を抱く一方で、商人として、この完璧な置物だったはずの女が放ち始めた「奇妙な価値」に対し、本能的な興味をそそられてもいた。
「シャルロッテ」
「なんですの、旦那様」
「二度とは言わん。余計な真似はするな。お前はただ、ここで大人しく、人形のように俺の言う通りに動いていればいい」
低い、獣の唸りのような警告。だが、シャルロッテはどこまでも優美に微笑んだ。
「ええ。私、ただ貴方の望む通りの、良き妻、大人しい飾りの伯爵夫人になろうとしているだけですわ、ジルベール」
「……」
「貴方の望み通りに、完璧にね」
ジルベールは、その底知れない不気味な笑みを浮かべる妻の顔を、しばらくの間、無言で見つめ続けていた。やがて、これ以上の会話は無意味だと判断したのか、乱暴に踵を返す。だが、重厚な扉へと向かい、そのノブに手をかけた直前。
「その子は“資産”だ。俺がどれだけ金を積んでも買えなかった、唯一の“血統証明書”だ。……絶対に失うな。それを失えば、お前の価値もゼロになる」
ぽつりと、掠れた低い声で、彼は背中を向けたまま呟いた。シャルロッテが、僅かに目を見開く。
「もう一度言う。……絶対に失うな」
それだけを冷酷に言い残し、男は部屋を去っていった。パタン、と重い扉が閉まり、寝室には再び月明かりと蝋燭の静寂だけが取り残される。
シャルロッテは、男が去った扉を冷ややかに見つめた後、自身のドレスの腹部へと、ゆっくりと両手を重ね合わせた。
「……違うわ。お前たちの都合の良い数字の駒などでは、断じてない」
暗闇の中、彼女の唇から漏れ出たのは、氷を切り裂くような鋭い呟きだった。
「この子は……ミレーユの本当の血を引く、私だけの子よ。あの男たちにも、あの成金の蛇にも……誰一人として、利用させない。何ひとつ、奪わせはしないわ」
窓から差し込む、青白い月明かりのただ中。シャルロッテ・ミレーユは、暗闇の深淵に向かって、静かに、そして凶悪なまでに美しく微笑んだ。その歪な笑みはもう、金糸の檻の中でただ羽を毟られ、惨めに泣き叫ぶだけの、哀れな籠の鳥のものではなかった。
完璧な従順という名の仮面の下で、復讐の女王は今、その鋭き牙を、さらに深く暗闇の中へと隠し、敵の喉元を噛みちぎるその瞬間を、冷徹に待ち伏せているのだった。




