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政略結婚のはずが、完璧公爵の溺愛が子リス系令嬢を解き放ちました  作者: 宮野夏樹
第3章 溺愛が未来を拓くまで

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66.檻の中の母


 シャルロッテが、古参の老医師から己の御腹に宿る「正統なる懐妊」の事実を告げられてから、三日の月日が流れていた。だが、その厳然たる、そしてこの屋敷の力関係を根底から覆しかねない爆弾のような事実は、未だ館の誰にも伝えられていない。


 ───この呪われた檻の主である、ジルベールにすら。

 西棟の薄暗い寝室の窓辺に佇みながら、シャルロッテはドレスの豪奢な布地の上から、ゆっくりと、愛おしげに己の平坦な腹部へと指先を触れさせた。


 そこには、まだ目に見える変化は何ひとつない。妊婦特有の膨らみもなければ、生命の確かな息吹や胎動など、到底感じられないほどに小さく、儚い、細胞の塊に過ぎない存在。


 それでも。確かに、そこにいる。彼女を襲ったあの激しい悪阻の残滓が、自身の血肉の奥深くで、ミレーユ伯爵家の正統なる継承者が産声を上げようとしていることを、何よりも雄弁に証明していた。


「……」


 それは、酷く不思議な感覚だった。これまでの人生において、シャルロッテ・ミレーユという人間の存在価値とは、常に外から与えられる記号でしかなかった。「名門ミレーユ伯爵家の至宝」であること。社交界の頂点で誰よりも美しく飾り立てられていること。完璧な貴族の夫人として、夫に付き従うこと。そして、家を存続させるための『跡継ぎを産む器』となること。


 幼い頃から、死んだ母に、そして幽閉された父に、そうあるべきだと頑なに教え込まれてきた。記号を失った自分には価値などない、だからこそジルベールに実権を奪われたとき、あそこまで惨めに絶望したのだ。


 だが今、腹の奥底に宿った、言葉も持たぬ小さな小さな命の存在を想うだけで、彼女の細い胸の内には、今まで二十数年の人生で一度も知ることのなかった、濁りのない原始的な感情が、満ち潮のように広がっていく。


 牙を剥く外敵への、恐れ。何に代えてもこの手で、命を賭してでも守りたいという、獰猛なまでの庇護欲。もう二度と、成金どもに何も失いたくないという、飢えた執着。そのすべてが、ドロドロとした黒い炎となって、彼女の魂の器の中で混ざり合っていた。


「シャルロッテお嬢様」


 背後から、衣擦れの音と共にベルナデットが静かに声を掛けてきた。


「朝食をお持ちいたしました。今朝はマリアンヌの息がかかった若い侍女たちを、適当な用件で北棟へ払い除けておきましたので、ご安心くださいませ」

「……ありがとう、ベルナデット。いつも助かるわ」


 ごく自然に唇から漏れ出たその謝意に、ベルナデットは僅かに意外そうな風に、その深い皺の刻まれた目を細めた。かつての、世界の中心は自分だと信じて疑わなかった傲慢な薔薇の令嬢なら、身の回りの世話をする使用人にまともに礼を言うことなど、天地がひっくり返っても有り得なかっただろう。屈辱の泥水を飲み干したからこそ、彼女は本物の女主人の器を手に入れつつあった。


 卓上へ、老医師の指示通りに調合された、消化に良い温かな粥と、悪阻を和らげるハーブ茶が並べられる。


「少しでも、喉を通る分だけでも召し上がってくださいませ。今の貴女様は、もう、お一人の身体ではないのですから」

「……ええ。分かっているわ」


 小さく、だが毅然と頷き、シャルロッテは銀の匙を取った。胃の腑は今も鉛のように重く、香草の匂いを嗅ぐだけで吐き気が競り上がってくる。だが、無理にでも、喉を千切ってでも食べなければならないと、今の彼女は本能で理解していた。


 これは、惨めな己を慰めるための食事ではない。この腹の中で、今この瞬間も敵の毒を浴びながら生きようとしている、我が子のために。


「旦那様には……やはり、まだお伝えにならぬおつもりですか」

「言わないわ。絶対に」


 一分の迷いもない、冷徹な即答だった。ベルナデットが静かに視線を上げる。


「……よろしいのですか。もし今『正統なる懐妊』を公表すれば、マリアンヌが昨夜誇らしげに語っていた不貞の子の跡取り計画など、瞬時に砂上の楼閣と化します。旦那様とて、商売の体裁のために、貴女様への態度を改めざるを得なくなりますが」

「改める?  あの男が?」


 シャルロッテは匙を置き、冷え切った青い瞳で窓の外を睨みつけた。その声音は静かだったが、地獄の底から響くような冷たい怒りと、確固たる決意が刻まれていた。


「今あの男に知られれば、この子は産まれる前から、デュラン商会の『後継ぎという名の便利な駒』として、あの男の冷酷な帳簿の中に数字として組み込まれるだけよ。商売の道具として、マリアンヌの産む子供と競わされ、比較され、利用されるわ。……マリアンヌのあの忌々しい報告を不敵な笑みで肯定したジルベールを、私は、もう二度と信じない」


 愛人の子。都合の良い母親役。何も生み出さない飾り。

 あの晩餐で、あの男がシャルロッテの尊厳をすり潰しながら言い放った言葉の数々は、今も彼女の胸の奥底に、消えない烙印として真っ赤に焼け付いている。


「あの男は、私にマリアンヌの子供の『母親役』を務めろと言ったわ。……お望み通り、演じて差し上げるわ。マリアンヌの子供がミレーユ家の籍に入るその瞬間まで、私は完璧に無力で、哀れで、嫉妬に狂った、扱いやすい『飾りの伯爵夫人』を演じ続けてあげる」

「……」

「そうして、あの成金どもが油断の極みに達し、すべてを手に入れたと確信して背中を向けたその時に……この子という、ミレーユの本当の『牙』で、彼らの喉元を噛みちぎって、すべてを奪い返してあげるのよ」


 ベルナデットは何も言わず、ただ、その老いた胸の内で激しい歓喜の震えを噛み締めながら、深く、深く一礼した。


「……御意にございます、お嬢様。でしたら、なおさら貴女様は強く、冷徹にならねばなりません。そのお腹の中の、我が君を守れるのは、この広い世界で、奥様、貴女様ただお一人なのですから」


 その言葉を背中に受けながら、シャルロッテはゆっくりと目を閉じた。瞼の裏に浮かぶのは、地下の闇で衰弱しているという父フランソワの姿。


(お父様、見ていて頂戴。ミレーユの薔薇は、ただ踏みつぶされるためだけに咲いているわけではないことを、あの男たちに教えてあげるわ)




 その日の午後。シャルロッテは数日ぶりに、西棟の私室を出て、広大な屋敷内を久しぶりに歩いていた。以前と決定的に違うのは、その胸の中に、周囲を呪うようなヒステリックな激情や、無秩序な怒りが一切ないことだ。彼女の歩調は、社交界の女王だった頃のように優雅で、それでいて、驚くほど静かだった。


 すれ違う回廊。彼女はただ前を向いているようでいて、その睫毛の隙間から、屋敷の細部を冷徹に観察していた。視線を向け、耳を澄ませる。誰が、どの部屋に配置されたのか。どの使用人が、既にマリアンヌから金や地位を融通されて商会側へと完全に寝返ったのか。


 そして、どの古参の人間が、未だに監視の目を恐れながらも、ミレーユ伯爵家への忠誠をその胸の奥底にくすぶらせているのか───。脳内の帳簿に、敵と味方の名前を冷酷に書き込んでいく。まるで、自分自身が凄腕の商人にでもなったかのように。


「あ……お、奥様。ごきげんよう」


 回廊の角で、リネンを抱えた若い侍女がシャルロッテの姿を認め、慌てて頭を下げた。マリアンヌが新しく雇い入れた、商会側の手駒だ。


 その態度は、以前のような「主人への恐怖」を完全に欠いていた。むしろ、頭を下げながらも、その瞳の奥には『昨夜愛人の懐妊を突きつけられ、食堂を泣きながら飛び出した、哀れな置物の奥様』を値踏みし、嘲笑するような、侮蔑の空気が露骨に透けて見えていた。この奥様は、もう終わった人間だ、と。


 以前のシャルロッテなら、その無礼な視線を見咎め、「不敬よ!  その目を抉り出してあげるわ!」と金切り声を上げて平手を食らわせていただろう。そして、その醜態をジルベールに報告され、さらに立場を悪くしていたはずだ。だが、今のシャルロッテは、ただ、慈愛に満ちた完璧な女主人の笑みを浮かべた。


「ええ、ご苦労様。いつも屋敷を綺麗にしてくれてありがとう。これからも、旦那様のためにしっかりと励みなさいね」

「……っ!?  は、はいっ……!」


 若い侍女は、弾かれたように目を見開いた。激昂するどころか、あまりにも穏やかに、優雅に微笑みかけて去っていく女主人の姿。それが完全に予想外だったのだろう、侍女は狐につままれたような顔で、硬直したままシャルロッテの背中を見送ることしかできなかった。


 怒鳴らない。感情の底を見せない。それだけで、相手の反応の主導権は、こちらへと移る。


(……そうよ。これでいいの)


 遠ざかる足音の中で、シャルロッテは冷徹に思考を研ぎ澄ませていた。


(私が感情を剥き出しにして暴れることは、あの成金どもを喜ばせる最高の娯楽でしかなかったのよ。ジルベールも、マリアンヌも、私が“ヒステリックで無能な、扱いやすい愚か者”でいてくれた方が、都合が良いのだわ)


 ならば、その道化の役割は、今日を限りに終わりにする。これからは、彼らが望む「何もできない、従順で哀れな置物」という極上の仮面を被り、完璧に気配を消してみせる。

 

 北棟へと続く、陽の当たらない冷え切った回廊。そこは今、マリアンヌの私室と執務室が置かれている、この屋敷の事実上の「心臓部」と化していた。


 本来ならば、名もない一介の秘書官、実質的な愛人に与えられるべき格式の場所ではない。だが今のミレーユ伯爵邸では、実務を掌握するマリアンヌこそが、誰もが畏怖する事実上の女主人だった。通りすがる使用人たちは、彼女の機嫌を損ねまいと、まるで女王に仕えるように戦々恐々と立ち働いている。


 その回廊の広間で、シャルロッテの前に、その「蛇」が姿を現した。


「あら、奥様。西棟からわざわざこちらへお越しになるなんて、珍しいことですわね」


 蜜のように甘い、だが鼓膜を不快に震わせる艶のある声。マリアンヌが、自身の側近である数人の侍女を引き連れて、向こうから歩いてきた。その身にまとっているのは、新興の成金特有の、これみよがしな最高級のシルクを用いた、淡い藤色のドレス。


 そして何よりも───彼女の柔らかな微笑みと共に、その未だ平坦な腹部へと当てられた両手の所作が、周囲の目を意識した、妙に芝居がかった優越感に満ちていた。


「お加減は、如何です?  昨夜は随分と、お取り乱しになって回廊を走られたと小耳に挟みましたけれど。旦那様も、奥様のあまりのヒステリーぶりに、呆れ果てておいででしたわ」

「問題ないわ。少し、昨夜はワインが強すぎただけよ、秘書官様」

「それは安心いたしましたわ」


 にこり、と。勝ち誇った、憐れむような勝者の笑みを浮かべるマリアンヌ。シャルロッテは、そのマリアンヌの言葉の端々に、そして周囲で聞き耳を立てている侍女たちの視線に、明確に気づいていた。彼らは今、この屋敷の頂点が「どちら」に移ったのかを、残酷に見定めているのだ。


「奥様。最近は本当に顔色が優れませんもの、我がデュラン商会の『未来』を産む身としては、奥様のその陰気なお顔が邸内に伝染しては不都合が起きますの。どうか、私のためにも、西棟で静かにお人形のように眠っていてくださいませ?」


 これ以上ない、正妻への決定的な宣戦布告であり、精神的な凌辱。マリアンヌの引き連れた侍女たちが、クスクスと影で忍び笑いを漏らす。以前のシャルロッテなら、この場でマリアンヌの髪を掴み、ドレスを引き裂いて暴れていただろう。


 だが。


「……そう。貴女の言う通りね」


 シャルロッテの声音は、湖面のように静かだった。その静けさが、逆にマリアンヌの胸の奥に、じわりと冷たいものを流し込む。シャルロッテはゆっくりと歩み寄り、まるで親しい友人に耳打ちするかのように、柔らかな微笑みを浮かべたまま囁いた。


「だから───どうか、無事に“産んで”ちょうだいね、マリアンヌ。旦那様が望む『未来』を、そのお腹で育てて差し上げなさい。……ミレーユの籍に迎え入れるその日まで、貴女がその子を落とさないよう、私も心から祈ってあげるわ。ええ、本当に。心の底から」


 その瞬間、マリアンヌの喉がひゅ、と音を立てた。呼吸が浅くなる。指先が冷える。背筋を、氷の爪でなぞられたような悪寒が走る。


 目の前の女は、昨日までの“無能な置物”ではない。その青い瞳の奥に潜むのは、光を喰らう捕食者の深淵。


 シャルロッテは完璧な一礼を残し、静かに背を向けた。 その後ろ姿は、もはや“薔薇の令嬢”ではなく───檻の中で牙を研ぐ、冷徹な女王そのものだった。


 ───何かが違う。


 目の前にいる、この完璧に整えられた「ミレーユの薔薇」の輪郭をした女は、昨日まで自分たちが散々おもちゃにして笑っていた、あの感情論しか言えない無能な小娘ではない。


 シャルロッテの深く澄んだ青い瞳の奥底───そこに宿る、光すらも凍りつかせるような「絶対的な捕食者」の冷徹な光を前に、マリアンヌは生まれて初めて、己の喉が恐怖でカラカラに干からびるような、不気味な違和感を覚えたのだ。


 マリアンヌが言葉を失って硬直している間にも、シャルロッテは社交界の女王そのものの優雅さで、一分の隙もない美しい一礼を払い、その場を静かに去っていく。ドレスの裾を翻し、歩いていくその後ろ姿。背筋はどこまでも真っ直ぐに、天を突くほどに気高く伸びていた。


 広間に残された侍女たちの視線は、いつの間にか、シャルロッテへの「哀れみ」から、正体のわからない不気味なものへの「困惑」と「畏怖」へと、明確に変わっていた。


「……マリアンヌ様?  如何なさいましたか?」

「……何でもないわ。下がりなさい」


 マリアンヌは、自身の冷え切った両手で腹部を抱きしめながら、遠ざかる女主人の背中を、ただ黙って見つめ続けることしかできなかった。勝ち誇っていたはずの彼女の胸の奥底に、実実とした、決して抜けない冷たい「恐怖の棘」が、深く、深く刺さった瞬間だった。




 夜。西棟の静まり返った私室で、シャルロッテは一人、鏡台の前に静かに座っていた。銀の燭台に灯された、小さく揺れる一本の炎だけが、暗闇の中に彼女の輪郭を浮かび上がらせている。


 鏡の中に映る自分を見つめる。相変わらず、完璧に美しい、誰もが憧れた伯爵令嬢の顔。けれど、その青い瞳の奥に宿る光は、以前の我が儘な少女のそれとは違い、すべての感情を削ぎ落とした、深淵の闇のように冷え切っていた。


「シャルロッテお嬢様」


 ベルナデットが、背後から音もなく近づき、その細い肩へ、温かなパシュミナのショールを優しく掛けた。


「本日は、あの成金蛇との対峙、本当にお見事でございました。お疲れでしょう。お腹の君のためにも、もうお休みになってくださいませ」

「……ねえ、ベルナデット」


 シャルロッテは、鏡の中の己の瞳を見つめたまま、掠れた声音で、ぽつりと零した。


「私は……私は本当に、この子の『母親』になれるのかしら」


 ベルナデットは、その皺だらけの目を優しく細めた。


「なれますとも。誰よりも気高く、強い母親になられますよ」

「分からないわ……自信がないのよ」


 それは昼間、マリアンヌの前で見せた完璧な仮面の裏側に隠されていた、一人の無力な少女としての、切実な本音の吐露だった。


「私は今まで、自分のことしか考えてこなかったもの。社交界で誰よりも賞賛されること、美しいドレスをまとうこと、他家を見下してミレーユの栄光に浸ること……そんな、中身の無いくだらない虚栄ばかりを追い求めて、周りの人間を傷つけてきたわ。だからこそ、お父様をあんな目に遭わせてしまった……」


 じわりと、青い瞳の端から、熱い涙がひとすじ、完璧な頬を伝って流れ落ちる。


「こんな、何もできない、空っぽだった私なのに……」


 シャルロッテの両手が、自身のドレスを強く掴み、腹部を包み込むようにして抱きしめた。


「でもね、ベルナデット。私の中に宿っている、この小さな命だけは……この子だけは、何に代えても、私の命を、魂をすべて切り売りしてでも、絶対に守りたいの。あの男たちの実利の道具になんて、絶対にさせない。この子の未来だけは、私が……私が這いつくばってでも、守り抜くと誓ったのよ」


 その声音は弱々しく震えていたが、その根底には、何ものにも折られない、ダイヤモンドのような硬度の決意が宿っていた。ベルナデットは静かにその場に膝を折り、シャルロッテの涙に濡れた手を、自身の両手で、包み込むようにして強く握りしめた。


「我が儘な薔薇の令嬢は、己のためにしか泣きません。……ですが、今の貴女様は、まだ見ぬ我が子のために、その未来のために命を懸けると仰った。お嬢様……お腹の君を想い、その身を盾にする覚悟を決められたその瞬間から、貴女様はもう、立派な、我がミレーユの“母”にございますよ」


 シャルロッテはゆっくりと、涙を拭い、静かに目を閉じた。




 眠りにつく前。彼女は初めて、自身の腹の奥底で静かに息づく、小さな小さな愛しい命へと、心の中で語りかけるようにして、深い眠りへとついていった。


「私は……本当に、この子の母になれるのかしら」


 鏡の中の自分は、あまりにも美しく、あまりにも空虚だった。その虚無を見つめながら、シャルロッテの声は震えていた。


「私は今まで、自分のためにしか泣けなかった。でも……この子だけは違うの。この小さな命だけは、私の肉を裂いてでも守りたい。血を流してでも、奪わせない。この子の未来だけは、私が───私が喰らってでも守る」


 その言葉は弱々しく震えていたが、その奥底には、獣のような鋭い決意が宿っていた。ベルナデットは静かに手を握りしめる。


「お嬢様……その覚悟を持った瞬間から、貴女様はもう“母”でございます」


 シャルロッテは涙を拭い、腹部へそっと手を添えた。


「大丈夫よ、私の可愛い赤ちゃん。貴方だけは───絶対に、誰にも触れさせない。ミレーユのすべてを、貴方に捧げるわ」


 その囁きは、祈りであり、呪いであり、誓いだった。

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