↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/30

三人のコック達-5

私事で恐縮ですが、急な多忙と無理をして体調を崩してしまったため執筆が一時止まっておりました。

お待ちいただいていた方には大変申し訳なく思います。なんとか体調も回復し、多忙モードも脱したため、執筆の時間が取れるようになりましたので、今後ともよろしくお願いいたします。


前回までの超簡単なあらすじ:加藤家で四人が料理を作り、食べている。

「秀斗君のえびちりも美味しいですね」

「巴のえびの下ごしらえが完璧だったからだろうな。いつもはこんなに美味くならない」

「うん。秀斗、僕達まだまだだねー」

「おう、まだまだだ。俺達はいろいろとやることが山積みだな」

「そうだねー。焦ってもしょうがないし、地道に頑張っていこうねー」

「ああ、その通りだ。焦ってもしょうがない」


 心からそう言える。もう俺達は大丈夫だ。藤之宮との力の差なんてまるで気にならない。俺達は俺達で頑張ればいいだけだ。

 しかし、藤之宮の料理は本当に美味いな。良き師を持ち、不断の努力を重ねて勝ち取った勲章だ。大いに賞賛すべきである。


 そんな話をしている中、良美さんが誰に言うとなく言葉をこぼす。


「ふーむ。巴ちゃんの旦那さんになる人はこれを毎日食べられるんだな。実に羨ましい……」


 はは、確かにこんな美味い物を毎日食べられる人はもの凄く幸せだろう。それほど藤之宮の料理は美味い。ただ、どれだけ羨ましがったところで良美さんは旦那にはなれないのだ。


「良美さん。その意見には諸手を挙げて賛同しますし、間違いなく最高に幸せになれると思います。思いますが、いくら羨ましがっても良美さんは旦那さんにはなれませんよ」


 そう俺が言うと良美さんはにやりと口角を上げてから視線を藤之宮に移した。つられて藤之宮を見てみると、なぜだか顔を赤くして俯いている。


「どうした、巴。まだ見ぬ未来の旦那さんとの幸せ生活に想いを馳せでもしたのか?」


 ちょっとした悪戯心(いたずらごころ)で揶揄ってみたら、ジト目を返されてしまった。ううむ、揶揄われるのは苦手だったよな。悪かったからそんな目で見るのはやめてくれい。

 藤之宮の様子を見た良美さんはくっくと笑いながら口を開く。


「秀斗君。君は勉強と料理に加え、あともう一つ学ぶべきものがあるように思うぞ」


 むむ? もう一つ学ぶとな? いきなりそう言われてもわけがわからん。


「な、なんですか、そのもう一つって」


 素直に疑問をぶつけてみたものの、良美さんはくっくと笑うだけで黙っている。なんだなんだ?

 どうにも答えてくれそうもないので淳也の方を見るも、我関せずと料理を食べている。


「おい、淳也」

「サーナンダローネー」

「なぜ棒読み?」

「自分で考えればいいんじゃないかなー」

「またかよ!? ここんところ俺に考えさせてばっかじゃない?」

「自分でたどり着くことに意味がある場合もあるんだよー」

「ああもう。はあ…… 今度からは自分でたどり着かなくてもいい問題にしてくれよ……」


 まったく、加藤姉弟は俺に答えを考えさせることを趣味にしているとしか思えん。何を学べというのか。


「まあまあ、すぐに答えが出るってものじゃないし、今のところは気にしなくていいよー」

「……なんか、そう言われると余計に気になるんだけど」


 うーん、そうだ! 学年1位の藤之宮ならもうわかってるんじゃないか?


「巴、なんだか分かる?」


 藤之宮は急に振られてびっくり顔をしたが、またジト目になって答えを返してきた。だからやめてってば。


「私には分からないですね」


 うわ。この上無い淡々とした口調でそう言われてしまっては食い下がることもできず。


「そ、そうか。学年1位でも分から」

「学年1位は関係ありません」


 ひいっ。なぜそんなに氷の刃(やいば)を突き付けるのだ……


「す、すまん。自分で考えます。そ、そうだ、ご飯を食べよう?」


 しょうがない、今は淳也の言う通り、とりあえず今は気にしないようにするしかなかろう。それより飯だ飯! せっかく美味いもの食えるのだから冷めないうちに召し上がらねば。


「そうですね。いただきましょう」

「美味しいねー」

「くっく。秀斗君、君は面白いなあ」

「えー? いや、良美さん、今のなにが面白かったのかわからないっす」

「はっはっは、青春だねえ」

「それも分からんす」


 とりとめのない話で賑わう中、俺は腑に落ちないながらも藤之宮の美味い料理を堪能した。








「淳也、これで全部だ」

「ほーい、じゃあそこに置いといてー」

「あとは任せて大丈夫か?」

「うん、ちゃちゃっとやっちゃうから」


 美味なる夕餉を終え、俺と淳也で片付けをしている。

 良美さんと藤之宮は紅茶を飲みながらソファーで寛いでいる。その様子は美女と美少女ののんびりティータイムと言ったところか。藤之宮がキッチンに向かって声を掛けてきた。


「淳也君、秀斗君、お片付けしてもらってありがとうございます」

「いや、こちらこそ美味いもん食わせてもらって感謝している。これくらいさせてもらわないとな」

「そうそう、お姉ちゃんとゆっくりしてて」


 二人で片付けるなんぞは慣れたもんで、あっと言う間に洗い終わる。皿洗い選手権ダブルスがあればいいとこまで行くんじゃなかろうか?


「さって、俺達も何か飲むか」

「そうだねー。僕も紅茶にしようかな」

「あ、じゃあ俺にも淹れてくれい」

「わかったー」


 話をしながら俺達はコック帽とエプロンを外す。コック帽は洗って藤之宮に返さないとな。頭髪のことを考えたら自分で買っておくのもいいし。


「秀斗、帽子は洗って返すんでしょ?」

「おう」

「一緒に洗うから貸して」

「お、さんきゅ。頼んだ」


 その様子を見ていた藤之宮が慌てた様子で口を開いた。


「その帽子はおふた方に差し上げますよ!」


 え? いやいやそれは悪いだろ。かなりしっかりしたコック帽だし、安い物ではなかろうて。


「それは流石に受け取れないよ。見たところ結構いい帽子のようだし、美味いもん食わせてもらった上に帽子まで貰えるなんて」


 遠慮すべくそう言ったのだが、藤之宮は引かずに続ける。


「本日ご一緒させていただいたお礼でもあります。それに……」

「それに?」

「コ、コック仲間の証でもありますので」


 お、おう。

 そう言われた上で固辞すると『仲間』を否定することになってしまう。流石にそこまですることではないので、ありがたく受け取ることにする。


「わかった。じゃあ遠慮なくいただくよ? ありがとうな」

「僕もありがとうね」

「はい!」


 元気に返事をすると藤之宮はほんのり頬を染めて満面の笑みを浮かべた。

 うん、今日の藤之宮は聖女じゃなくて天使だ。そのあまりの可愛さにしばし見惚れてしまった。

 そんな俺を見かねたのか淳也に咎(とが)められる。


「秀斗、そんなに見つめないのー」

「あ? お、おう。いや、あんまり可愛い笑顔だったんでな、つい」


 それを聞いた藤之宮は「え!?」と小さく言ったきり真っ赤になって下を向いてしまった。


「ああ、悪い悪い。気持ち悪かったよな。他意は無いんだ、すまんすまん」


 慌てて取りなそうとするも藤之宮は下を向いたまま。


「くっくっく、秀斗君、君は一体何をやってるんだい?」


 良美さんにそう責められてしまったが、笑いながら責めないで欲しい。


「い、いや、まあその、ちょっと見惚れてしまって」


 藤之宮がますます真っ赤になって固まってしまって。だから悪かったって、そんなに怒るなよ。


「すまん、そんなに怒らんでくれるといいのだけど」


 まいったな。悪気は無かったんだが……


「……やはり秀斗君はさっさと学んだ方がいいようだな」


 良美さんがやれやれといった風にそうつぶやく。だから、何を学べと言うのか?


「お姉ちゃん、僕もそう思うよ」

「なんとかならんのか?」

「うーん、こればっかりは」

「そうだなあ。巴ちゃんも苦労するな」


 なんか姉弟でボソボソ言い合ってるが、俺にはさっぱり分からない。

 話が終わったのか、淳也がやや真剣な面持ちでこっちを見る。


「秀斗。学校でそんなこと言っちゃだめだよ? わかってる?」

「わかったって。怒らせるつもりは無いし、悪かったって。学校どころか今後絶対言わないから」


 そう言うと藤之宮は不安そうな顔して俺を見た。そんなに不安になるな、もう言わないから安心しろ。

 淳也と良美さんはあっけにとられたような呆然としたような顔をして見つめ合っている。


「淳也、可愛そう過ぎないか?」

「秀斗がここまでおバカさんだったとは」

「料理男子というか、料理バカだな」

「うん、男子部分無くなってるよね」


 おい。なんか聞き捨てならんことを言ってないか? そんなに俺が悪いのか? 拗ねるぞコラ?


「ああ、うんん。えー、はい、この件はここまで。秀斗君は学(・)校(・)で(・)は(・)滅多なことを言わないように」


 なんだかわからないが釘を刺されてしまった。


「あ、はい。肝に銘じます。巴、すまなかった」


 藤之宮は複雑そうな顔をして「は、はい……」と返事をした。相当怒ってるのだろうか。改めて謝罪した方がいいのか。


「秀斗、巴さんはもう怒っては(・)いないからね。改めて謝罪とかしなくていいから」


 だから脳にダイレクトアクセスをするんじゃない。


「ね? 巴さん」

「はい、私は怒っていませんから大丈夫です」

「そ、そうか。わ、わかった」


 納得しかねるところもあるが、ひとまず収まったと思っておこう。ただ、あの笑顔はめちゃくちゃ可愛いと思ったのは譲れん。だからどうだという訳ではないのだが。


 そんな一波乱もあったが、紅茶も飲み終えもう時間だということでお開きとなった。


「巴ちゃん、外も暗いから車で送るぞ」


 良美さんは藤之宮を気遣って車で送ることにしたようだ。


「え、いいのですか?」

「巴ちゃんのような美少女を一人で夜道を歩かせるわけにはいかんからな」


 良美さん、男前っす。


「あ、ありがとうございます。それではお世話になります」

「うむ、任せてくれ。秀斗君はどうする?」


 ついでに送ってくれるというのか? でも淳也と明日の相談したいし、遠慮しておこう。


「淳也と明日の相談事があるので、もうしばらくいます。ですので、どうぞ送って来てください」

「そうか。じゃあ、巴ちゃん、夜のドライブと行こうじゃないか」

「はい! お願いします」


 良美さんと藤之宮は支度をして玄関に出た。


「巴、じゃあな。料理美味かったぞ」

「ホント美味しかったよー。じゃあねー」

「それではお邪魔いたしました。またよろしくお願いいたします!」


 バタンとドアが閉まるとほどなくしてエンジン音が聞こえてきた。と同時に、なんだか肩から力がするすると抜けていく感覚に襲われた。緊張していたのか、気を張っていたのか。よくわからないが、ため息のようにふうと一つ吐き出す。


「すごい一日だったねー」

「そうだな、濃密な一日だった」

「秀斗は楽しかった?」

「おお? そりゃまあ楽しかったけど。もの凄い技術を拝ませてもらったり、とんでもなく美味いもの食わせてもらったり、実にいい体験ができたな」

「それだけ?」

「ん? それだけ、ってなんだよ。それ以外になんかあるのか?」

「……うーん、秀斗はやっぱり料理バカだった」

「なんだとう!?」

「なんでもないよー」

「むー」


 この後、明日の食材を買いに行く打合せをして、良美さんが戻ってくる前に帰路に着いた。


評価やブックマーク、ご感想をいただけますと励みになりますので、是非ともよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。