三人のコック達-3
(2019/6/30 改稿)
三人のコック達が動き出す。藤之宮は青椒肉絲と卵スープ、淳也はサラダ、俺はエビチリだ。
卵スープは鶏がらスープを使うのだが、藤之宮はどうするのだろう。一応、鶏がらスープの素はあるのだが、藤之宮がそれを使うとはちょっと思い難い。かといって、今から仕込むには時間が無さすぎる。
「巴さ、一応鶏がらスープの素はあるんだけど、どうするの?」
「あ、ご心配なく。昨日、仕込んでおきました」
そう言って、例の大きなバッグから何やらタオルに包れたものを出してきた。
「もしかして、スープを持ってきたのか?」
「はい。これです」
藤之宮がそう言いながらタオルを解くと、黄色がかったスープが満タンに詰められた2リットルのペットボトルが現れる。
「わざわざ仕込んできたのか。大変じゃなかったか?」
「いえ、普段からしてますので、特には」
そりゃそうか。俺達高校生男子は腹にドンとくるものをついつい優先してしまうので、あまりスープ類は作って来なかった。つまり、スープは作り慣れていない。経験が少ないから大変そうに思えてしまうのだが、慣れている藤之宮からすればたいしたことは無いのだろう。俺達が米を炊くのと同じ感覚なのかもしれない。それは言い過ぎか?
「そうか、流石だな。どうも俺達はガッツリ食う方向に走ってしまうから、スープはまだまだ守備範囲外なんだよ」
「ふふふ、男の子ですものね。具沢山のスープから始めるといいかもしれませんね」
なるほど、具がたっぷりならば食べる楽しみも増すというものだ。検討に値する。
「そうだな。それならより楽しめそうだ」
スープ修行もやっておくべきだろう。淳也はどうか。
「淳也、どうだ? 期末試験が終わったらそっちの修行もやってみたいんだが、やるか?」
「いいね、賛成。夏休みにでも短期集中でやっちゃう?」
淳也も乗ってきたな。だが、ここのキッチンを使わせてもらうからには家人の許可も要るだろう。
「良美さん、すみませんお願いがあるのですが」
「ははは、いいぞ、気にするな。これまで通り好きなように使ってくれ」
良美さんは皆まで言わずともいい笑顔で了承してくれた。本当にありがたい。ただ、修行となると付きまとう問題がある。
「その間はスープ物が増えてしまいますが、大丈夫ですか?」
修行中はどうしても同じようなメニューが続いてしまうのだ。少し前に生姜焼きが続いたこともある。
「今更何を言っているんだ。大いに楽しみにしてるぞ」
「ありがとうございます。それでは遠慮なく」
「ああ、存分に腕を振るってくれ」
よし、これでスープの修行が確定した。が、そう安堵する間もなく、良美さんが一変真剣な表情になって言葉を続ける。
「ただし条件がある」
え、え? 条件? これまで特に条件などはなかった。強いて言えばきちんと片付けることくらいだったが、それは当たり前のことであり、条件と呼べるものではない。なんだろう。不味かったら出入り禁止とか? それは勘弁願いたい。
「な、なんでしょうか?」
緊張してお伺いを立てる。淳也も手を止めて良美さんを見ている。
「期末試験の順位だが、前回の中間試験の順位を上回ること。正確には現在の順位の1割増しまでに収まること。学生の本分はあくまで勉強だからな」
ふおお。良美さん、締めるところは締めてこられますなあ。でも順位の一割増しってどういうことだ?
「えっと? 具体的には……」
「そうだな、秀斗君。中間試験の順位はいくつだった? 正確でなくてもいい」
我が校の一学年のクラス数は8クラスあり、1クラスあたりおよそ38人である。つまり、300人程度の中で順位を争うことになるのだ。そして、俺の成績はだいたい中の中、平均オブ平均なのである。
「いっつも真ん中付近なんで、150位くらいです」
「そうか。それならば、165位までに入らなければ修行は無しだ」
1割増しってそういうことか。うーん、もしかして緩い感じ?
「わ、わかりました。ちょっとは下がってもいいということですね」
「そうだ。ただし」
おっと。
「た、ただし?」
「150位から165位に入った場合は、修行は有りだが、その次の修行をするためには1割引きの135位以内が絶対となる」
なんと、成績落ちたら厳しくなるってか? これって飴と鞭って言うやつですか良美先生?
っと、それはさておき、一つ気になることがあるので確認せねば。
「あ、あの、良美さん」
「なにかな?」
「その次の修行ってことは、淳也との修行を定期的にやってもいいってことでしょうか?」
当初、修行は一度きりと考えていたけれど、思いのほか自分たちのためになっているので、出来れば定期的にやりたい気持ちはあるのだ。
「無論だ。学業に差障りが無ければ自由にやってよいぞ」
「あ、ありがとうございます!」
それは嬉しいぞ。ここのキッチンは本当によく出来ていて料理するのが楽しくなるのだ。二人で料理するならここしか考えられない。一人なら自分の家の台所でもいいのだけど、淳也と二人での修行はうちでは無理だ。
「わかりました。勉強も頑張ります」
「うむ。加藤家で料理ばかりしていたら成績が落ちましたなんて、親御さんに顔向けできないからな」
「は、はい。しょ、精進いたします」
淳也を見ると少し焦った感じの顔をしている。淳也は確か結構勉強できる方だったはず。順位は聞いたことないけど。
「淳也って何位くらいだっけ?」
「んーーー、こないだの結果は37位だったかな」
37位!? なに、そんなに上位なの!?
「うっそ、めっちゃ頭いい!? ほえーーー知らんかった」
「あんまり言いふらすもんじゃないからね」
「頭いいとは思ってたがそこまでだったとは。あーでも、37位の1割増しということは…… 41位以内? しかも37位以下だと次がえらく厳しくなる……」
「なかなかに大変だよ…… お姉ちゃん、もうちょっとなんとかならない?」
「弟を甘やかしてどうする。なんなら1割増しも無しにしようか?」
良美さん、それは酷ではないでしょうか?
「あーもう、わかったよ。お姉ちゃんは勉強のことになると厳しいからなあ」
淳也は意外とあっさり引き下がった。たぶん、日頃から勉強に関しては良美さんが譲歩することが無いからだろう。ダメもとで言ったらやっぱりダメだったってやつだな。
「あの」
おっと。これまでずっと聞き役だった藤之宮が口を開いた。
「なにかな? 巴ちゃん」
良美さんが応じる。
「その条件だと私が困ります」
え? いや、藤之宮は困らないでしょ? 俺と淳也の修行の条件なんだけど? なんで藤之宮が関わる?
良美さんは気にせず続ける。
「巴ちゃんは何位なの?」
「えっと、1位です」
「1位!?」
すげえ。
トップランキングなんて興味なかったから知らんかったけど、極上に頭いいんだな。
「そ、そうか、1位か。それじゃ巴ちゃんは条件無しでいいんじゃないか?」
「あ、ありがとうございます!」
おい。話が進んでるけど、藤之宮がなぜ関わってくるんだ? どういうつもりだ? これは口を挟まざるを得ない。
「ちょちょちょちょちょ。これって、俺と淳也の修行の話だよね? 巴の成績は別に関係な」
「そ、それは!」
お、おう? なんだ、急にびっくりしたぞ。
「それは……」
「それは?」
「……」
どうした?
俺の頭の上のはてなマークを見た良美さんが話を引き取った。
「秀斗君、それはそうだろ?」
「え、いや」
「それは不公平というものだ。三人のコック仲間なのに二人だけで修行しようっていうのか?」
「え、ええ!?」
コック仲間って今日だけの話じゃないの? どうなってるんだ? 淳也の顔を見るとにこにこしてる。
「じゅ、淳也。これはいったい」
「そうだね、公平じゃないね。僕は公平な方がいいと思うけど?」
な!? 思うけどだと? え? もしかして俺が悪者? いや、確かに成績一番悪いのは俺だけど、それでも人並みではあるんだぞ? 普通に考えて俺がおかしいということは無いと思うんだが……
「ということだ、秀斗君。巴ちゃんは条件無しでいいな?」
もう藤之宮の修行参加は当然だという流れになってる…… これが『なし崩し』ってやつか。藤之宮がすごく不安そうな顔して俺を見てるし、これはどうにも抗えないぞ。はあ、しょうがない。
「わ、わかりました。それでいいです」
藤之宮がめっちゃくちゃ嬉しそうな顔になった。もう、なんだっていいよ。
「秀斗、勉強頑張ろうね?」
「お、おう……」
なんだか腑に落ちないまま、夏休みにスープの修行をすることが決まった。藤之宮を入れた三人で。
いつもご愛読いただきまして誠にありがとうございます。jimakitaより皆様へのお知らせです。
感想やtwitterなどでいろいろな方からアドバイスをいただき、それを元に過去26話分の改稿を行いました。
以前とストーリーが変わるとか、そういう大きな変化はありません。ですので、これまで通り最新話だけをお読みいただいても何ら不整合は生じません(というか生じさせないようにしています)。
無事に改稿は6月いっぱいで完了しました。
7月1日は最新話を投稿する予定です。
今後とも、よろしくお願いいたします。




