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二人から三人へ-6

(区切りの都合で短めです。すみません)


(2019/6/30 改稿)

 良美さんの車に乗せてもらって俺達は隣町のショッピングモールに来ている。

 前に来たときは俺と淳也と良美さんの三人だったが、今日はそれに藤之宮も加わって四人となっている。


 さて、いざ買い物だ。できる主婦(料理男子)は準備を怠らない。


「まずは必要な食材を確認しておこう。メモがあるので見てくれ」


 メモは次の通りだ。調味料類はあらかた揃えてあるので今日は買い足さなくてもいいだろう。


  青椒肉絲:ピーマン、赤ピーマン、豚コマ、ゆでたけのこ

  エビチリ:えび、ネギ、しょうが、にんにく

  サラダ :もやし、きゅうり、ハム


 これに藤之宮の卵スープが加わるのだ。なかなか食べでがありそうではないか。全体のバランスもいいと思う。医食同源、食は健康の源なのである。

 藤之宮が使う予定の食材を確認しておこう。


「藤…… あー、と、巴の卵スープに必要な食材はなんだ?」


 名前呼び慣れねえ。今日は呼ばないつもりだったけどこりゃ無理だ。諦めるしかないな。


「はい。卵スープですが、卵の他にはメモに書いてあるネギとしょうがあれば大丈夫です」

「そうなると、メモに追加するのは卵だけか。よし、じゃあ買うぞ!」


 淳也がカートに籠を乗せて出発準備完了。

 ここのショッピングモールに入っているスーパーはやたらとでかい。淳也の家の近くの食品専門のスーパーはどちらかというと小型のスーパーなのだが、それでも普段使いでは困らない程度には揃っている。そこと今見渡している食品売り場を比べると、およそ八倍程度はあろうかという広さで、無い物は無いんじゃないかと思うほどの品揃えに圧倒される。


「それでは野菜コーナーからですね」


 藤之宮がスタスタと先頭を切って歩き出した。なんだか楽しそうだ。そういえば前に出会ったのもこのモールだったし、いわゆるテリトリーってやつなのか?


「ふ…… と、巴はこのモールにはよく来るのか? あ、別にふ……巴がどこに住んでいるのかを詮索するつもりは無くて、前に会ったのもここだったりしたから……」

「ふふふ、そこまでお気を回されることでもないですわ? はい、仰る通り、よく来ますよ。食材を買うときもほとんどここですね」

「へー、だから店内もよく知っているんだな」


 迷いなく一直線に向かってるのはそのためか。慣れたスーパーは楽でいい。どこに何が配置されているのか頭に入ってしまってるので迷わないからな。


「ええ、試しに何か食材を言ってみてください」

「へ? 食材をか?」

「はい」


 なんだ、どうしようってんだ?


「じゃあ、豚バラ肉、とか?」

「豚バラ肉は、今いるこの売り場通路を1番目とすると……向こう側9番目の通路の突き当りの棚の2段目に置いてあります」

「ふぇっ!?」


 どこまで覚えてるんだ? そんな細部までインプットされてるのか?


「す、すごいな…… 全部頭に入ってるのか?」

「はい、ほとんど入っています。よく来ているので覚えてしまいました」


 覚えてしまいましたってなあ。普通はそこまで覚えられるもんじゃないぞ? ましてやこのだだっ広い売り場でだ。どんだけ容量あるんだよ。


「そ、そうか。じゃあ道案内は任せた」

「はい」


 藤之宮はニコニコしながら各売り場を進んでいく。慣れないスーパーだと行ったり来たりをしがちだけど、そんな無駄など微塵も無いめちゃくちゃ効率的な経路。


 藤之宮と良美さんはなにやら楽しそうに話をしながら前を歩いている。ホント女子って仲良くなるの早いよな。


 良美さんは精悍さを感じさせるイケメンな美人で、藤之宮は言わずもがなの美少女であるからにして、そんな美人と美少女が並んでいれば人目を引くのはまあ、当然と言えば当然である。


「淳也、前の二人、なんか結構周りから見られてる気がするぞ」

「そうだねー。お姉ちゃんも中身はともかく見た目は綺麗な方だし、藤之宮さんは聖女様そのものだし、ね」

「で、その後ろに引っ付いてるモブ二人には胡乱げな視線が向けられていると」

「まあ、仕方ないよねー」


 ちょっと視線が痛いので前の二人と少し距離を空けた。他人のふり作戦である。……しかしこれが失敗だった。


「おーい、ちゃんと着いて来ないと籠に入れられないんだけどー」


 良美さん、そんなに声出さなくても聞こえますってば。ほらもう余計に視線を集めてしまったではないですか。しかも『モブ二人』から『使えないモブ二人』への降格のおまけ付きですよ? 仕方ないのでこそこそと距離を詰める。


「無駄な抵抗であったな」

「御意」


 モブ共の呟きは虚しくも消えていく。

 そんなこんなしながらメモに載っている食材をどんどん買い込む。より質の良い物があれば少々高くてもそっちを選んだ。折角藤之宮が作ってくれるのだ。できるだけ美味い食材で食べたいからな。


「秀斗君、淳也君、質の良い物はそれなりにお値段が上がってしまいますが、その、大丈夫なのでしょうか?」


 気兼ねしている藤之宮に淳也が答える。


「大丈夫だよ。今日は美味しくいただきたいからね。心配しなくてもいいよ」

「そうですか。ありがとうございます」

「いやいや、腕をふるってもらうのはこちらの方だから、お礼を言うのは僕達だよ。ねえ秀斗?」

「おう。そのわかり、ばっちり美味く仕上げてくれな」

「はい、わかりました。私に出来る限りのことはいたします」

「よろしくね」


 必要な食材を揃え、その他お茶やジュース、良美さんストック用のプリンなどもバサバサと籠に入れてレジに進む。

 会計を終え食材を袋詰めし、俺と淳也で手分けして持つ。荷物持ちは男性の仕事である。藤之宮がぺこりと頭を下げたのだが、美少女は何をやっても様になるな。


 今日はこれから料理をするので淳也の家に真っ直ぐ帰るので駐車場に向かう。


「あとは帰って料理だな」

「そうだねー。今日は四人で夕飯だね」

「……なんか、だんだん人数増えてってるな」

「あ、そうかも。多い方が楽しいしいいよね」

「ま、まあな」


 車に着いたのでバックドアを開き荷物を載せる。積み忘れが無いかを確認してドアを閉じ、来た時と同じように全員が乗り込む。


「それじゃ出発するぞ。全員シートベルトな」

「よろしくお願いします」

「よろしくです」


 ショッピングモールを後にし大通りに出る。窓の外を眺めるといくつか高層マンションが見える。それもあってか、お高級な車と頻繁にすれ違う。いわゆる富裕層がお住みになられているのであろう。そんな車にぶつけたり擦ったりしたら大変なので良美さんは丁寧に運転している。


 俺の家は親子三人がなんとか住める程度の賃貸アパートだ。と言っても別に困っているわけではなく、身の丈に合った暮らしをしていると思っている。眼前に聳(そび)え立つ高層マンションに住む人達との生活レベルの差は確かに存在するのであろうが、それを不満に思うことも無い。

 人はさまざまな事情を抱えて生きている。努力して富を掴んだ者。努力しても掴めなかった者。努力すらしない者。その結果であったり過程であったり、いづれにせよ己の行いに応じた状況に身が置かれるのだ。その意味では、自己責任の帰結という意味では、誰しも何も違いは無く、対等である。ただ……


「ただ見えている世界は違うんだろな」


 そんな思考が口からぼそりと漏れてしまった。


「世界が違う?」


 藤之宮が俺の呟きを拾った。いや、ホント耳いいですね。何を食べればそんなに聞こえるようになるんですか?


「あ、ごめん、なんでもない。独り言」


 慌てて言い訳めいた言葉を返す。藤之宮はこちらを伺うような目を向けている。

 暫しの沈黙に耐えられずくだらない言い訳を重ねてしまう。


「いや、あのマンションからの眺めはさぞかしいいんだろうなってね」

「そ、そう……」


藤之宮はなんだか寂しそうにそう言ってから、窓の向こうのマンションを見つめていた。


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