二人から三人へ-5
(区切りの都合で短めです。すみません)
(2019/6/30 改稿)
「淳也、秀斗君、こっちだ」
放課後、淳也と二人で学校近くのコンビニに行くとすでに良美さんの車は着いていた。良美さんは車から出て俺達に手を振っている。藤之宮は運転席後ろの席に座ってこちらを見ているようだ。
「良美さん、よろしくお願いします」
「はい、よろしくな。淳也はいつも通り助手席で、秀斗君はその後ろに」
「はい、お邪魔しますー」
藤之宮はものすごくニコニコしているが、なにか照れているふうでもある。
「お姉ちゃん、藤之宮さんとすぐ会えたの?」
「すぐに分かったよ。本当に巴ちゃんは綺麗な子だ。遠目でも一発で分かったよ」
なるほど、おそらくそんな話が車内で繰り広げられていたのだろう。それで照れてるのか。今も真っ赤になってるし。
「よ、良美さん、その、あんまりそういうことは……」
「はっはっは、巴ちゃんは可愛いな」
もうお互いが名前呼びになっているのは良美さんの人当たりの良さもあるのだろうが、半ば強制的にそうさせられたのだと思う。加藤君、加藤さんじゃどっちを呼んでるのか分かりづらいのもあろう。
「よし、みんな乗ったな? それじゃ出るが、どこに向かえばいい?」
「お姉ちゃん、ちょっと走ってもらうことになるけど、ショッピングモールまでお願いできる?」
「了解だ。全員シートベルトよろしくな」
無事誰にも怪しまれることなく、四人は一台の車に乗って移動を開始することができた。
俺の右隣に座る藤之宮だが、足元に学校鞄の他に大きなバッグが置いてある。食材はこれから買いに行くのでそれでは無さそうだ。不思議に思って見ていると視線に気づいたのだろう、藤之宮から声をかけてきた。
「一ノ瀬君」
「うん」
「巴ちゃん?」
と思ったら良美さんが割り込んできた。
「巴ちゃん、さっき約束したじゃない?」
約束? なんのこっちゃ? そうすると藤之宮がちょっともじもじしながらこう言った。
「しゅ、秀斗君」
「ふぇっ!?」
まさかの名前呼び? おいおい、良美さん、一体何を約束させたんだよ? どういうこと?
混乱してると良美さんが笑いながら説明をしだす。
「あー、秀斗君。淳也のことを加藤君と呼ばれると私もつい反応しそうになってしまうのでな、この場では全員名前呼びでいこうということにしたわけだ」
なるほど。わからないわけでもない。「加藤」の段階で「私かな? 弟かな?」と思い、「君」で初めて弟だと確定する。確かに当人たちにはあまり好ましくは無いのであろう。
「そ、そうですか。でも、俺まで名前呼びしなくてもいいんじゃないかと」
「うむ。巴ちゃんからするとそれでは公平では無いので、呼ぶのならば全員が名前で呼ぶことになった」
うわあ、藤之宮らしいと言えば藤之宮らしい。前にもそんな理屈で呼び捨てにさせられたしな。
……ちょっと待てよ? 今、全員『が』って言わなかった?
「従って、この四人は全員互いに名前呼びとする」
な、なんだと!? なんという約束を成立させているのですか!?
「ちょちょちょちょままままま」
「秀斗君」
「いやいやいやいや」
「落ち着きたまえ」
「ええええええええ!?」
「そういうことだ」
まじか、まじなのか!?
藤之宮を見ると、照れから立ち直ったのかすました顔をしている。でも顔が赤いままだがな。
「そ、それでいいのか?」
藤之宮に視線を送りながら聞いてみる。
「名前呼びは恩のある良美さんからのお願いでありますし、全員は公平さの観点からもそうあるべきだと思います」
さも当然のように言い切りやがりましたわね。顔赤いぞ?
百万歩譲って今この場だけというのなら今日をしのげばいいだけだ。ただ、学校でそんなことしようものなら命がいくつあっても足りない。
「そ、それはこの場だけってことでいいんだよな? 学校では今まで通りだよな?」
「そうですね。おふた方にクラスメイトを名前呼びさせるわけには参りませんので」
よ、よし、それなら死なずに済む。って、前にそれをさせようとしてなかったか? あれはブラフか? やっぱり俺嵌められてたの?
はあ…… しかし、この事態に助手席の淳也は果たしてどんな顔してるのか、すっげー気になる。
「淳也?」
「何? 秀斗」
「状況わかってる?」
「もちろん」
こいつ、どんな心臓してるんだよ……
もうなんでもいいや。今日は藤之宮を呼ばないようにしよう。
いろいろ呆れていると藤之宮が話しだした。
「そ、それでですね、秀斗君」
「ひゃいっ?」
運転席から笑い声が聞こえてきますがあなたのせいですよ? 楽しんでますね? 淳也も一緒に笑ってるんじゃない!
「このバッグですが、私の料理道具などが入っております」
「な、なるほど、そうですか」
「そうですか?」
いかん、テンパって敬語で話してしまった。これも公平ではないということで禁じられていたのだ。
「あ、そ、そうか」
「はい」
もおーーー! なんでこんな辱めを受けねばならんのだ!
人の気も知らず、藤之宮は話を続ける。
「あと、おふた方にお渡ししたいものもありまして」
「な、なにを?」
「それは、料理を始める時までのお楽しみです」
にやりと笑いながら悪魔はそう言った。一体俺達はどうされるんだ? いろいろ勘弁してくれよ……
「わ、わかった」
憂鬱にも程がある。
「それでですね」
まだあるんかい!?
「その、名前呼びなんですが」
「お、おう」
「い、一度、私を名前で呼んでいただけませんか?」
「なななんで?」
「慣れていないでしょうから、練習をしておくべきかと」
運転席が揺れてる。だからあなたが元凶なんですよ? 笑いすぎで事故らないでくださいよ?
「そ、それは必要なのか?」
「はい」
そうか必要か。腹をくくろう。だが、とてもじゃないけど面と向かっては言えん。目の前にある助手席のヘッドレストを見つめながら口を開く。
「じゃ、じゃあ。と、と、と、巴さん」
「……」
反応が無い。ちらりと藤之宮を見ると真っ赤になって俯いている。そんなに照れるくらいなら言わせるんじゃねえよ!
「さ、さんは公平ではありません。秀斗君はクラスメイトにさん付けしません」
まじか。それはいくらなんでも…… すまないが拒否らせてもらう。
「無理」
「秀斗君、君は男の子だろ? 気概を見せてくれないか?」
良美さんは運転に集中してください。淳也も吹き出すほど笑ってるんじゃない。
「わ、わかりました…… じゃあ、と、と、とっ、巴っ」
「はいっ!!」
うわっ!? びっくりした、そんな大声で返事せんでも聞こえるって。藤之宮を見たら茹でだこみたいになってるし、もうなにやってんのよ……
「淳也、お前もだよ!」
俺だけこんな仕打ちを受ける謂れはない。
「そうだね、それでは。……巴さん」
「は、はい」
あっさりかよ。お前、解剖したら心臓の代わりにタワシでも出てくんじゃねえのか?
「くっくっくっ。う、うむ、だいぶ仲良くなれたようだな。そろそろ着くからな。くっくっ」
そんな笑わんでも……
「そう言えば秀斗、何作るのか決まった? もう着いちゃうよ?」
そうだ、それを言い忘れてた。のっけからとんでもない状況に陥れられてすっかり頭から抜け落ちてしまっていた。
「お、おう。オーソドックスにエビチリにしようと思うんだが、どうだ? 藤之」
「藤之宮?」
うぐっ……
「あー、ええと、と、と、巴は、そ、そのアレルギーとか大丈夫か? 魚介類は大変らしいから」
「秀斗君、お気遣いありがとうございます。アレルギーは特に無いので大丈夫ですよ」
「そ、そうか。ということだ、淳也」
「うん、いいね。僕はテキトーにサラダを作るから。野菜、肉、魚介、汁物、いい感じじゃない?」
「おう、そうなるかなと思ってエビチリにした」
ふう、特に問題はなさそうだ。あとは買い込んで淳也ん家に向かえばいい。
程なくしてショッピングモールの駐車場へ、加藤姉弟と茹でだこ二人を乗せた車は入っていった。
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