二人から三人へ-4
(区切りの都合で短めです。すみません)
(2019/6/30 改稿)
翌日の昼休み。今日も食堂で日替り定食を食べる。俺、淳也、そして藤之宮の三人はすでにトレーを手にし、いつもの席に着いている。各自のお皿には黄色のこんもりとした山が乗っており、赤いケチャップが鮮やかな彩りを添える。そう、みんな大好きオムライスである。ちなみに、ケチャップはかけ放題。めいめい自分でデコレーションするのである。
「淳也。ケチャップでデコるのはいいけど、ハートは無いだろハートは」
「可愛いでしょ?」
「女子かよ」
「て言うか、秀斗の方が理解できない」
「何がだ?」
「なんで『チャーハン』て書くかな?」
「もにょるだろ?」
「どうしたいわけ?」
俺達は料理男子だが、その前に男子高校生でもあるのだ。そう、馬鹿なのである。
藤之宮の肩が小刻みに震えている。もしかして受けた? 藤之宮も笑うんだな。そりゃそうか。藤之宮は馬鹿ではないのでごく普通にケチャップをかけていた。
「いただきます」
「いただきます」
「ふ……ふふ…… い、いただきます」
どうやらツボったようだ。ちょっと嬉しい。まあ、それはさておき今日も小声で話をする。一応、周囲の目があるのでなるべく目立たないようにしている、つもり。
オムライスの最初の儀式『スプーンの背中でケチャップをまんべんなく塗りたくる』を執り行う。学食のオムライスは薄焼きの卵にくるまれたもので、まあ言わば庶民のオムライスである。ふわとろデミグラスなどというブルジョアジーなものではない。
「さて、藤之宮さん。今日、うちに来る件だけど」
「はい」
さらに声をひそめて淳也が本題を切り出した。
「一応、青椒肉絲は決まってるけど、他に何か考えてる?」
「そうですね、卵スープを作ろうかと思っていますが、いかがでしょうか?」
「いいですねー。スープ類はまだまだ勉強できていない領域だし、嬉しいな」
そうなのだ。俺達二人共、スープ類についてはあまり学んでいない。男子高校生であるからして、どうしてもがっつり食べるものを優先してしまうのだ。なのでスープ類まで気が回っておらず、これは我々の課題でもある。
「秀斗はどう? 何か考えてる?」
うん、聞かれると思った。淳也に一品作れって言われてたしな。昨晩は考えつく前に眠っちゃったんで、朝からずーっと考えてる。まだ決まっていないのだ。
「うーんとね。考え中」
「ふーん。あんまり悩まず、基本的なやつの方がいいと思うけど」
「そうなんだけどなー。悩むわー」
「なんでもいいけど放課後までには決めてね?」
「おう、わかってるって。買い出しもあるからな」
わかってるとは言ったものの、ホントどうするかな。決まらん。このままだとまた午後の授業に身が入らなくなるぞ。
「買い出しと言えばですが、加藤君、材料費はどうしましょうか?」
今回は藤之宮から良美さんへのお礼ということなので気になるのだろう。
「えーっと、修行の材料費は僕と秀斗で折半なんで、今日も修行の一環だし、藤之宮さんは気にしなくてもいいよ」
そう。修行の一環なので藤之宮の負担は不要である。作ってくれるだけでありがたいのだ。だが藤之宮が納得するとは思えん。
「いえ、お礼ですし、そういうわけにはいきません」
うん、まあ、そう来るわな。ここは俺からも話しておこう。
「まあまあ、そう言わず。その腕前で作ってくれるだけで十分お礼になるから。元々俺達が修行で作るつもりの献立だし、気にしないで欲しい」
「いえ、私もいただく訳ですから」
「いいからいいから。その分、腕によりをかけてもらえたら、そっちの方が嬉しいし」
「それはもとよりなのですが…… わかりました、固辞するのも失礼に当たります。では費用につきましてはお言葉に甘えさせていただきますね?」
「おけー。こちらこそよろしく」
「はい、よろしくお願いします」
うん、納得していただけました。目一杯、腕を振るってもらいましょう。
「ところで加藤君。買い出しはどちらに行かれるのでしょうか?」
「えーっとね、多分、僕ん家の近くのスーパーになると思うんだけど、まだわからない」
多分? わからない? いや、そこしか無いだろ。 どこ行こうってんだ?
「あれ? 淳也、いつものスーパーじゃないのか?」
「んー、実は今日ね、お姉ちゃんが車で迎えに来てくれるって言ってくれて」
「へ? そうなの?」
「うん。折角の機会だからスーパーでも隣町のモールでも好きなところに連れてってくれるってさ」
それはありがたい。モールまで行けるとなると、懐には厳しいがちょっといい食材で作ることもできるしな。良美さんの言う通り折角の機会だ、素直に頼ることにしよう。
「そうか、それは助かるな。ちょっと遠くなるけど出来ればモールまで連れてって貰いたいな」
「そう、だ、ね。うん、そうしよう。そうだ、藤之宮さんは大丈夫?」
うん? ちょっと引っかかった反応だったが何か考えがあるのか? まあ、それはさておき、淳也はこういうところは抜かり無い。ちゃんと藤之宮の都合も確認する。
「ええ、私は問題ありません。ただ、私がお礼をしたいのに却ってお手間をかけさせるようで心苦しいのですが……」
「あ、全然気にしないで! お姉ちゃん、藤之宮さんとショッピングできるって楽しみにしてるから」
「そうですか。それではよろしくお願いします」
「うん、こちらこそね」
ふむ。スーパーよりもモールの方が食材は豊富だ。俺が作りたいものが何であっても材料は揃うだろう。となると、任された一品、何を作るか余計に悩ましい。はてさて、どうしたものか。
まあ、それは置いといて、一つ心配なことがある。車を出してもらうのはいいけど、堂々と学校の前で藤之宮と一緒に乗り込むのは聊かまずい。ここは今のうちに相談せねばなるまい。
「車を出してもらえるのはすごく嬉しいんだけど、学校の前で乗り込むと非常に目立つことになるぞ」
「なにか不都合があるのでしょうか?」
藤之宮さん、そこはわかって欲しかった。
「俺達がな、後から周りの奴らにいろいろと聞かれるんだ。『一ノ瀬、お前聖女様と一緒の車に乗ったってどういうことだ!?』とか言って。それは面倒なんで勘弁願いたいわけ」
俺達が困る、ということでご理解をいただこう。
「あら、私が加藤君のお姉さんにご恩があってのことだと仰れば良いのではないでしょうか?」
いや、そうなんだけど、それを言うと『なんの恩があるんだ』とか詮索されるわけで面倒くさくなる一方なのだ。
「それはそれでまた別の面倒くさいことが発生しかねないから、ここは俺達を助けると思って折れて貰えると助かる」
「そうですか。あなた方のご都合もわかります」
ちょっと不満そうだが、ここは我慢してもらうしかない。自分の影響度をもっと理解して欲しい。
「藤之宮さん、ごめんね?」
「大丈夫ですよ加藤君。では、どうしましょうか?」
淳也はちょっと考えて一案を出した。
「そうだねー。まず、学校の前で藤之宮さん一人が乗るのはどう? うちの生徒はお姉ちゃんを知らないし女性だから藤之宮さんが車に乗ってもそう変に思われないでしょ? その後、学校近くのコンビニで僕達を拾ってもらうの」
なるほど。場所をどこにしても一緒に乗り込むのを見られるとまずいから別々に乗り込むのか。
「私はそれでも良いのですが、おふた方の負担にならないでしょうか?」
「大丈夫だよ。元々車が無い予定だったわけだし、それに比べれば負担でもなんでもないから」
「わかりました。では私は学校の前で加藤君のお姉さんと待ち合わせます」
「うん、そうしてくれると助かる」
これで面倒ごとは回避できそうだな。よしよし。あとは俺が何を作るかだけか…… ふーむ。
とまあ、そんなこんなで俺達はオムライスを綺麗に平らげ、教室に戻って行くのであった。
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