二人から三人へ-3
(2019/6/5にジャンル別日間86位と初めて100位以内のリストに載ることができました。お読みくださった方、ブクマしてくださった方、評価ポイントを入れてくださった方、ありがとうございました!)
(2019/6/30 改稿)
藤之宮から衝撃のご訪問宣言を受けた放課後、いつものように淳也の家で修行をしているのだがどうにも調子が出ない。明日のことが気がかりでしようがないのだ。
「秀斗、なんだか集中できてないね」
「ああ、すまん。なんか、こう、な」
「急に明日来るって言われてびっくりしちゃったよね」
「うん。さすがの淳也も焦ってたな」
「あれは慌てない方がおかしいよ」
「ははは」
乾いた笑いしか出ない。会話が途切れる。……はあ。だめだ。淳也の言う通り、全然集中できない。
明日は藤之宮がこの家に来る。以前、隣町のショッピングモールに買い出しに行ったときに藤之宮と偶然出会ったのだが、ナンパ野郎に絡まれていたので良美さんと俺とで助けたことがあった。良美さんにその時のお礼をしたい、料理を振舞いたいと言うことで、来訪することになった。
で、なぜか料理は俺達と一緒に作ることになってしまった。
作るのは青椒肉絲と元々決まっているので明日メニューをどうするかで悩むようなことはないが、お礼だとすれば流石にそれだけじゃ寂しいので他にも作ることにもなるだろう。藤之宮は何か考えているのだろうか、明日学校で聞いてみることにしよう。
そんなことを考えていたら淳也が手を止めてこっちを見る。
「秀斗さあ。今日は身が入らないみたいだし、切り上げようか?」
「え? 中止ってこと?」
「上の空で手を切ったりしても危ないしねー」
「で、でもこの食材はどうするんだよ」
「まだほとんど進んでないから適当に肉と炒めて食べる」
「うーん」
「ほらほら。あとは僕にまかせて、テーブルに行ってて」
「そ、そうか? 俺のせいでなんだか悪いな」
「いいっていいって」
淳也に促されてエプロンを外しテーブルに回る。加藤家のキッチンは対面タイプなので、テーブルについても淳也と話しができる。
淳也は自分で言った通り肉野菜炒めを手際良く作っている。それをぼーっと眺めながら明日のことを考えていたのだが、ふと疑問が湧いてきた。
「淳也さあ。明日俺って要るの?」
良美さんへのお礼なら俺は別に必要ない。料理を一緒に作りたいとは言っていたが、キッチンは二人用に設計されていて三人は正直きつい。つまり、誰か一人があぶれることになる。ならば、そもそも俺がここに来なくてもいいんじゃないか?
「秀斗、要るに決まってるじゃん」
「え、なんで?」
「藤之宮さんを助けたのはお姉ちゃんと秀斗の二人なんだよ? 藤之宮さんはお姉ちゃんにお礼って言ってるけど、秀斗へのお礼でもあるんだからね? そこは理解してよ?」
うーん、まあ、確かにそうかもしれないけど…… だいたい、キッチンの人数問題はどうするんだ?
「でも三人もキッチンに入れないだろ?」
「大丈夫、テーブルで作れるような料理を僕がするから、秀斗が入って」
「テーブルって…… 大丈夫なのか? 火とか使えないぞ?」
「うん、だからそういうのを使わないでも出来る料理をするからさ」
「むーーー、そこまで言うなら、じゃあ、来るけどさぁ」
「絶対来てよね」
「わかったって」
まあ、この家に住む淳也がなんとかなるって言うんだから大丈夫なんだろう。火を使わないってサラダとかか? もう任せるしかないか。
ここんところ藤之宮の対応に追われまくってるな。いきなり淳也の家に行きたいとか言い出したり、行動力も天からの授かり物なのかねえ。
「しっかし、あれだな。藤之宮には振り回されっぱなしだな」
「あははは、そうだねー」
「なんだよ、ずいぶん楽しそうだな」
「振り回されてる秀斗を見てるとねー。ふふふー」
「まったく。笑ってるけど淳也だって振り回されてるんだぞ?」
「ふふふーん」
にやにやして一体どういうつもりだ。
「そう言えば淳也って藤之宮にはずいぶん素直だよな。あれか? もしかして藤之宮のこと狙ってる?」
「まさかー、無いねー。全然タイプじゃないし。そういう秀斗は?」
「は? 無いわー」
「そう?」
「無い無い」
「ふーん」
不満そうな顔をするな。あいつ聖女様なんかじゃないぞ? 悪魔だぞ?
「案外藤之宮さんの方が秀斗のことを狙ってたりしてね」
「はあ!?」
何を言い出すのやら。馬鹿も休み休み言えってんだ。超ハイスペックの聖女様がなんで俺様ごときモブ野郎を狙わにゃならんのだ? 金持ってないし、壺なんか買わねえぞ。
「あり得えんだろ。淳也を狙ってるって言う方がよっぽど信憑性高いわ」
「僕狙いっていうのはまず無いよ」
「だったら俺はそれ以上に無いってことよ」
「無い、ねえ。ふふーん。…………よしっと。秀斗ごめん、お皿出してくれる? あと箸茶碗もお願い」
「お、出来たか。ちょっと待って」
弱火でじっくり炒めた肉野菜炒め。今日、俺はほとんど何もしてないから淳也一人で作ったようなもんだ。淳也の料理を食べるのは弁当以来だな。ほんわかした外見に似合わず割とスパイシーな味付けをしがちなのだが、この肉野菜炒めはいかがであろうか。
皿に盛り、ご飯もよそって席に着く。
「いただきます」
「いただきます」
材料はキャベツ、ニンジン、たまねぎ、豚バラ肉。炒め物は大火力のイメージがあるが、肉野菜炒めは弱火でじっくり炒めるのがコツ。肉のうまみが閉じ込められ、野菜もシャキシャキとした食感になる。炒めながら塩コショウを振ると野菜から水分が出てしまうので使うのは最後。冷蔵庫の掃除料理のように低く見られがちなものではあるが、きちんと作れば美味しくて栄養バランスのいい素晴らしいごちそうなのである。
「うまい。野菜シャキシャキ、肉やわらかジューシー。まじでうまい」
「うん、よかった」
「うまいのはいいんだけど、淳也にしてはめっちゃ王道の味付けだな」
「そうねー、当分はスパイスを封印しようと思って」
「修行に関係あるのか?」
「まあね。王道が出来た上で使うスパイスと、出来もしないで使うスパイスは違うと思うんだよね」
「あれか、型破りと型無しの話か」
「そう、それそれ」
型ができている者がオリジナリティを出すのは型破り、型のできていない者がやるとただの型無しってやつだ。形無しって書くのが本当だそうだが、この話を持ち出すときにはそんな無粋なことは言わない。
「王道かあ。……先月の調理実習の時さ、藤之宮はハンバーグをアレンジするかどうか皆に聞いてたじゃん?」
「うん」
「結局誰も意見を言わなかったからアレンジしなかったけど、藤之宮がやろうと思えばいくらでも出来たはずだよな」
「そうだね」
「でも藤之宮はやらなかった。そういうことなのかもしれないなあ」
「うん」
「藤之宮はすごいな」
「うん」
淳也の作った王道肉野菜炒めはうまかった。作りたての料理と時間の経った冷えた弁当を比べてはいけないのかもしれないが、ずいぶんと美味しくなっている気がする。
俺自身は修行前と比べてどれだけ変わったのだろうか、あるいは変わっていないのだろうか。淳也の今日の料理を食べる限り自分にも期待したいところではあるが。うーん、なんだか腕がうずくなあ。
「秀斗さ、明日は青椒肉絲以外にも何か作りなよ。一人でさ」
「へあ?」
変な声が出た。もしかしてまた脳を覗かれた?
「ぷっ なにそれ。秀斗は分かりやすいなあ、何か作ってみたいんでしょ?」
「なんで分かるんだよ…… ま、まあ、そうだけど」
「折角藤之宮さんが来るんだしさ、僕らがお互いの弁当の批評をやってるように、藤之宮さんに意見を聞くのもいいんじゃないかなってね」
なるほど、それもそうだ。
当初はポッキリと心を折られてしまったが、それは自分と比べてしまったからだ。手に届かない頂にいるのだと認めてしまえば、そんな軛から自由になれる。なにより、偉大なる先達に学べる機会が得られるというのならば、礼を尽くして教えを乞うべきではなかろうか。
「そうだな。それもいいな」
「僕もテーブル側で参戦するからねー。明日までに作るの決めておいてね」
「わかった」
その後はいつものように二人で後片付けをし俺は自宅へ帰った。いつものように風呂に入り、いつものように宿題をし、いつものようにベッドにもぐりこむ。
明日は何を作ろうかなと考えながら、そのまま眠りに入った。
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