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19/30

二人から三人へ-1

(区切りの関係で少々短いです)


(2019/6/30 改稿)

 風呂は疲れを癒してくれる。つくづく日本に生まれてよかったと思う。

 ふうと息を吐きながら少し温(ぬる)めの湯に身をゆだねると体も心もじんわり回復していく。


 今日もハードな一日だった。藤之宮の言動に振り回されてばかりいる。修行だけが没頭できる唯一の時間になってしまった。

 一体全体、どうして藤之宮は俺達にからんでくるようになったのだろう。日替わり定食を食べるのなら勝手に食べればいいじゃないか。村人Aじゃないけど、なんで俺達と一緒なんだろう。そう言えば禅問答の答えも出ていないな。淳也は自分で考えろって態度だし。しかたない、今このリラックス状態ならなんだか答えが出て来そうな気もするし、考えてみるか。


 まずは出来事をおさらいするため、藤之宮と淳也の会話を思い出そう。えーっと確か藤之宮が『君ら二人で日替わり定食を食べてるから私も日替わり定食を食べるのでご一緒させて』的なこと言ったのが発端だったよな。そんな言葉づかいじゃないけれど。


 で、淳也が『僕達はいつも二人で日替わりを食べてる』って返したんだよな。それから…… うん、それからがおかしいんだよ。『僕達は日替わり定食を通じて仲良くなって今は親友だ』ときたもんだ。さらには『それはこれからも変わらないだろう』ってなんですか?


 最後に確か『いつも一人で弁当を食べている藤之宮さんだけど、僕達二人と同じ日替わり定食を選んでこっちに来たんだよね?』みたいなことも言って藤之宮に聞いてたよな。それに対して藤之宮は首肯した、と。やっぱり禅問答だ。


 この会話は明らかに事実でない箇所がある。淳也の言った『僕達は日替わり定食を通じて仲良くなって今は親友だ』って、別に日替わり定食で親友になったわけじゃない。しかも、『それはこれからも変わらないだろう』なんて続けてるし。

 どうしてこの発言になったのか、そしてこの奇妙とも思える発言に藤之宮は疑問に思わなかったのか。


 じゃあ事実は? 俺と淳也は日替わり定食なんかではなくて、お互いに料理をするということがわかってそこから友達になり親友と呼べる間柄になった。そういうことであれば、『それはこれからも変わらないだろう』も正しい。淳也は生涯の付き合いになると思っている程の親友だ。

 事実と反する発言は、『日替わり定食』というキーワードが『料理をする』であったなら、納得できる発言だった。


 なぜそう言わなかったのか。そもそも淳也は藤之宮の問いかけに乗っかった、つまり藤之宮の発した言葉を使って返答しているわけだ。藤之宮の意図を確認するためにあえて乗っかったのか? となると、『日替わり定食』には別の意味が込められていて、淳也はそれを見抜き、確認して、そして確信したということか。


 整理してみよう。

 藤之宮は『君ら二人で日替わり定食を食べてるから私も日替わり定食を食べるのでご一緒させて』と言った。

 淳也が『僕達はいつも二人で日替わりを食べてる。僕達は日替わり定食を通じて仲良くなって今は親友だ。それはこれからも変わらないだろう』と返した。

 最後に『いつも一人で弁当を食べている藤之宮さんだけど、僕達二人と同じ日替わり定食を選んでこっちに来たんだよね?』って確認して、藤之宮は肯定した。


 ここで『日替わり定食』を『料理をする』に置き換えるとどうなるのか。


 『君ら二人で料理をして食べているから私も料理をして食べるのでご一緒させて』

 『僕達はいつも二人で料理をして食べてる。僕達は料理をすることを通じて仲良くなって今は親友だ。それはこれからも変わらないだろう』

 『いつも一人で弁当を食べている藤之宮さんだけど、僕達二人と同じ料理をすることを選んでこっちに来たんだよね?』


 ふむ、確かにこれだと繋がらなくはない。でもこれが正解か? たとえ正解だとしても、そんなことをする動機は一体何だ? 俺達に声をかけたのは? あれだけの腕前があるんだ、友達の女子ときゃっきゃやってれ……ば……いい……?


 ……友達?


 藤之宮に友達と呼べる存在がいるのか? 俺にとっての淳也のような気の置けない友人がいるのか? 孤高の聖女様と呼ばれている通り、誰かと親しげに話をしている様(さま)は見たことが無い。

 もしかして。会話をもう一度思い出せ……


 『いつも一人で弁当を食べている藤之宮さんだけど、僕達二人と同じ料理をすることを選んでこっちに来たんだよね?』


 最後の『こっちに来た』、えーっと実際は淳也はなんて言ってたっけ? ……そうだ、たしか『こちら側に歩まれてきた』だったか? ともかく単に来たって意味じゃなくて、意思を持ってこちら側へ来たというような言葉を選んでいたはずだ。


 それに対し藤之宮は『加藤君の理解の通りだ』と肯定していた。淳也の選んだ言葉の意味を含めて肯定していたとなると、俺達と料理の仲間になりに来た、ということになる、のか……?


 なんか、他にないか? 仲間になりに来たことを示唆するような何か。確かに昼食は一緒に取っているけど、それだけじゃない何か。

 ……そうか、今日は名前の呼び方を公平にさせられてしまったが、あれもその表れなのかもしれない。俺と松井や末永は特別親しいわけでもないただのクラスメイトだが、俺は彼女らを呼び捨てで呼んでいる。なのに、さん付けで呼ぶとなると、クラスメイトですら無い、さらに遠い関係だとも言える。仲間とは程遠い。


 そう考えれば辻褄が合うと言えば合う。果たしてどうだろうか。


 正解はわからないままだが、とりあえず一歩進んだということで風呂から出て、いつも通り宿題をして寝た。






「淳也、おはよう」

「あ、おはよう! 今日は早いね?」


 いつもより早く家を出て登校中の淳也を捕まえた。昨日の考証の答え合わせをするためだ。さっさとモヤモヤをスッキリさせたいのだよ。


「うん、ちょっと話したいことがあってな。日替わり定食の件なんだけど」

「なに? 今日の献立はなんだろうってこと?」


 しれっと何を言うか。分かってるくせに、にやついてるんじゃない。


「じゃなくて、禅問答の件だよ」

「うんうん」

「淳也が自分で考えろっつって教えてくれないからいろいろ考えてみたんだわ」

「なんか僕が意地悪してるみたいじゃん? ひどくない?」


 にやついたまま言ってるので怒ってるわけじゃあない。俺達のいつもやりとりだ。


「で、めっちゃ意地悪された俺は考えて考えて考え抜いた結果、ある答えのようなものにたどり着いた」

「へー、聞かせてよ」

「おう。あの会話な」

「うん」

「日替わり定食を」

「うんうん」

「料理をすることに」

「うんうんうん」

「置き換えるのが正解?」

「素晴らしいー」


 よしっ!


「ふいー、良かったー。悩んだ甲斐があったぞ!」

「よく出来ました。でもそれだけだと50点」

「え?」

「結局藤之宮さんが言いたかったこと、は分かった?」


 あ、そういうことか。俺の考えでは藤之宮が仲間になりたいってことになるんだが、いまいち答えに自信を持てない。


「うーん、それなあ。確証は無いんだけど、藤之宮は俺達と料理仲間になりたい、かな?」


 どうだ?


「はーい、100点ー」


 よしよしっ!!


「秀斗、そういうわけだから藤之宮さんを邪険にしちゃだめだよ?」


 ああっ、そういう意味もあって邪険にするなって言ってたのか! いろいろとヒントをくれてたんだな。

 だがしかし、一つ確認をしておかなければならない。藤之宮自身が本当にそういうつもりなのかどうか。


「でも、淳也の想像ではそうだってことだよな? 藤之宮が自分でそう言ったわけじゃないよな?」

「確かに明(めい)には言ってないけど、間違いないと思うよ?」

「そ、そうか?」

「なんとなーくね。それにこれからの藤之宮さんの行動が答えになると思うよ?」

「おう。それはそうだな」


 とりあえず禅問答の答えは出せた。淳也の言う通り、藤之宮の行動が答えになるのだろう。ただ、なんで俺達を選んだのかはまだモヤっとしたままだ。今日もおそらく一緒にご飯を食べることになるだろうし、仲間になりたいってんならちょっとずつ聞いてみてもいいかな。


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