聖女様のご乱心?-5
(2019/6/30 改稿)
今日の昼休みは激動と呼んで差し支えないだろう。疲れ果てて午後の授業はあまり集中できなかった。なんだか最近の午後の授業は全然身に入っていない気がする。なぜだろう。
そして、いつも通り淳也の家で修行をして、後片づけを俺一人でやって、それから自分の家に帰ってきた。
ぼやーっと湯船に浸かりながらこの一か月弱の出来事を振り返ってみる。
調理実習で藤之宮の腕前を見せつけられたこと。
その後一週間は料理をせず弁当を作らなかったこと、そのことを藤之宮に問われたこと。
藤之宮を傷つけたこと、謝ったこと。
淳也と二人で修行を始めたこと、良美さんに協力してもらったこと。
秤を買いに行ったこと、藤之宮に絡んできたチャラ男を撃退したこと。
そして、藤之宮が昼ご飯を一緒に食べるようになったこと。
いろいろあったな。禅問答はいまだにわからない。弁当どうするのかまだ答えてなかったな。
イベントてんこ盛りだったが、俺としては何があろうとなるべく平和にひっそりと過ごしたいってのは変わらない。お昼は淳也と弁当のおかずをトレードをしながら静かにしていたいのだ。
風呂からあがり、学校の宿題をしてからベッドにもぐりこんだ。まだ23時にもなってなかったけど今日は疲れてしまった。
翌日。火曜の昼休み。
はい。いらっしゃいましたよ、藤之宮さん。すでに三人になって列に並んでたりします。
食堂の常連は昨日の出来事を目の当たりにしているからだろう、誰も藤之宮さんに意見具申しようとする者はおらず、視線は痛いものの俺達を貶すような声も聞こえてこない。なんとなく腫物に触るような感じが漂っている。
「秀斗、今日の日替わりはサバ味噌だね」
「お、いいねー、サバ味噌大好き」
「サバは美容やダイエットにも良いと言われていますわね」
「え、あ、な、なるほど、そ、それは女子としては重要な要素ですね」
「ですね?」
「えっと、要素だね?」
「そうですわ」
ぎこちないなりにも会話をしつつ順番を待ってると、隣の列から声を掛けられた。
「い、一ノ瀬君?」
誰かと思ったら同じクラスの松井だった。そばには末永もいる。この二人は調理実習で同じ班になった女子で、二人共料理が苦手だと言っていた。
「おう、松井。どうした?」
「な、なんで藤之宮さんと一緒に並んでるの?」
知らんがな。
「よくわからんが、日替わり定食を食べることになってな」
「なにそれ?」
うん、なんだそれ。自分でも端折りすぎだと思ったのでものすごく省略して説明する。
「ええと、藤之宮さんが俺達と一緒に日替わり定食を食べたいとのことで、こうなった」
「へ、へええー?」
不思議そうにこっちを見てるけど俺もそう思う。さて、どうしたものか。
……ふむ。いいことを考えついた。
「そう言えば松井も末永も同じ調理実習の班だったよな。どうだ、良ければ二人共一緒に食べないか?」
藤之宮の相手は女子に任せてしまおう。息の詰まる食事から解放されるのだ。
ちらりと藤之宮を見たらなんだか険のある表情をしていたがすぐに戻った。何かまずったのか? おそらく勝手に話を進めたからだろう。取り急ぎ許可を得なくては。
「藤之宮さん、いいよね?」
「ええ、もちろんですわ。同じ調理実習の班でした誼みですもの」
藤之宮が微笑んでそう言うと松井と末永は目を見開いて喜んだ。藤之宮は特に嫌がっている素振りも無いし、さっきのはなんだったんだ?
「え、いいの!? 一ノ瀬君、誘ってくれてありがとうね!」
「う、うちもありがとう!」
松井と末永は快諾して、結局今日は五人で食べることになった。爽やか小林が聞いたら地団駄踏んで悔しがるだろうな。後で教えてやろう。
俺達三人はサバ味噌定食を、松井と末永は固定メニューのポークカレーをトレーに乗せ、なぜだかいつも空いている聖域に向かう。
席に着くなり松井が藤之宮に話しかけようとするが、俺がそれを制した。
「松井、まずは、いただきます、だ」
「そ、そうね、ごめんごめん。では、いただきます」
「いただきます」「いただきます」「いただきます」
言い終わるやいなや続きが始まる。
「藤之宮さん! 調理実習の時のハンバーグ、すんごく美味しかったの! 藤之宮さんてどうしてあんなにお料理上手なの?」
松井、お前すげえよ。ブラボーだ。そりゃ気になるよな。でも俺達にはそれ絶対できないんだよ。お前に痺れて憧れればいいか?
末永も興味津々で見ている。淳也もマジ顔してる。
「調理実習は皆さんの成果ですよ? 私が一人で作ったわけではありませんよ」
そう言うと思った。
「うーん、えっと、じゃあ、質問を変えるね? 藤之宮さんて日頃から料理をしてるの?」
ナイス松井。
「そうですね、自宅での食事は普段は私が作っています」
「おーーー、そうよねー、流石よねー」
やっぱりそうか。いつも持ってきてた弁当は自作なんだろうな。
「じゃあさ、藤之宮さんが作らない時って、誰が作ってるの? やっぱりお母さん?」
「そうですね。父も母も料理はできますが、家で作るのは母ですね」
「ふーん、そうなのねー。でも、毎日作ってれば上手になるってものでもないし、どうして上手に出来るようになったの? やっぱりお母さんが上手で教えてくれたとか?」
「いえ、私に料理を教えてくれたのは父です」
「あ、そうなんだ? でも家で料理を作るのはお母さんなんでしょ?」
「はい、それは間違いありません。父は家では教えてはくれますが作りません」
へー、藤之宮は腕は親父さん仕込みなのか。でも作るのは藤之宮かお母さんだと。親父さん、料理人か何かなのか?
「ちなみにお父さんって何やってる人なの?」
うん、気になるよな。俺も気になる。
ただ、ど直球で聞かれた藤之宮が、なんだか困り顔をしている。
「ごめんなさい、私のことをお話するのはかまわないのですが、家族のことは控えさせてくださいね?」
「あっ、ごめんね! 私の方こそごめんなさい! 変なこと聞いちゃったね!? 怒らないでね?」
慌てる松井、ちょっと泣きそうな顔になってるぞ。藤之宮はフッと笑ってそんな松井を宥める。
「そんなことでは怒りませんよ。しつこくされたら怒りもしますが、よくあるご質問ではないですか」
大人の対応、さすが聖女様。松井もほっとしている。平和が一番だ。
「ごめんね。んー、なんかあたしだけしゃべってるみたい。折角なんだから末っちもなんか言いなさいよー!」
すえっち? ああ、末永のことか。女子同士はあだ名呼びが多いな。……淳也だとなんだろ。かとじゅん? 淳々? んーっと、痛っ!? ……だから脛を蹴るなって。そして脳みそを覗くのはやめろ。
「う、うちは、その、と、特に大丈夫です……」
松井を元気10としたら末永は1くらいのおとなしさだな。
「末っち、恥ずかしがりやさんだもんなー。まいっか!」
「もう。まっつん、早く食べないと、委員の集まりに遅れちゃうよ?」
「ああっ!? そだ忘れてた! 末っち、もっと早く言ってよっ!」
「だから素早く食べられるカレーにしようって言ってたじゃないのよ」
「そ、そうだったけ? い、いいから急いで食べるよっ!」
松井と末永はこの後委員の集まりがあるとかでカレーを掻っ込んで去って行った。
松井はともかく、おとなしそうな末永までも物凄い早さで平らげてたぞ。
「松井も末永もえらい勢いだったな」
「末永さんにはびっくりだねー」
「意外だったな。ホント人は見かけによらないってことだな」
「だねー」
淳也とそんな話をしてると藤之宮がこっちをジーっと見てるのに気が付いた。
「藤之宮さん、な、なに? もしかして米粒でも付いてる?」
そう言いながら手で顔を撫でてみるが何もついてこない。
「一ノ瀬君?」
「は、はい?」
「松井さんのことをなんとお呼びでしたか?」
「ま、松井」
「末永さんは?」
「末永……」
ちょ。待て。ま、まさか。
「では私は?」
オレニシネトイウノデスカ?
「藤之宮……さん……」
「全く公平ではありませんね?」
「む、無理です!」
「です?」
「んーーー、無理だって、そんな藤之宮さんを呼び捨てになんか出来ないって」
そんなことしたら膨大なヘイトで圧死するのが目に見えている。
「なるほど、そうですか。受け入れられないと。それでは、公平な代案を示します」
「だだだだ代案?」
「はい」
にやりと口角を上げた気がした。
「あなた方お二方は互いを下の名前で」
「わかったわかったわかったわかったわかった、代案はいいからっ、代案はいいからさん付け無しで呼ぶようにするから、それで、それで許してください…… うう」
どんだけいじめる気だよ、この悪魔。悪魔悪魔悪魔!
「それでこそ一ノ瀬君です。では加藤君?」
「うん、僕は女子を呼ぶときにはみんなさん付けなので、いままで通りが公平だよね?」
「はい、その通りですね。では以後よろしくお願いします」
ええ!? 淳也はさん付けOKなの? ……この裏切り者、なんだよその笑顔は。
あああ。昼休みが来るたびに寿命が縮んでってる……
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