第77話 伝説の続きを、配る
赤石橋に最初の荷車が戻った日、橋番は王より先に車輪を調べた。
座石を据え直し、川底の旧い逃がし路を封じた後も、軽い台車から試した。荷車は一日二台まで。八台分の麦を一度に運べるわけではない。ほかの浅瀬と港の便も、止めずに続ける。
白枝の倉番は、以前より少し厚い帳面を使うようになった。食料が届いた数だけでなく、届かなかった理由も書く。畑の収穫は次の季節まで戻らない。焼けた麦畑の持ち主へは、王たちの補償と港の便が決まった。紙で腹は満たせないので、便の日付も横へ書いた。
一日ずつ延ばしていた停戦は、期限を決めない停戦へ変わった。和平条約はまだない。それでも武装して治療路へ入らないことと、食料便を止めないことへ、各国が署名した。
戦いの日の兵の報告は、二通とも保管された。矢を放った人、命じた人、止めなかった王も、調べを受ける。ヴァルドは自分の炎で畑を焼いた記録へ署名した。
ユーディトは原事故記録と押収品の移管票を、自分の追記も含めて公開した。王なき工房へ器具を渡した署名も隠さない。彼女の説明を聞く場は設けられるが、説明が処分を決めるわけではない。
王なき工房の三枚の開放票も公開された。橋、港、鉱王領の旧い口を同じ日に開くと決めた人の名がある。閉じた口の黒い試験片は、現地の職人が一つずつ外し、王宮と住民の二者で封をした。父の図を使ったことと、当日の操作を父が命じたことは同じではない。デルクが過去に患者の許可を取らず試験した記録も、調査から外さなかった。
父の継ぎ枠は、輸送所の封を切って分解した。設計の危険と役に立つ溝を、同じ冊子へ載せる。エルナの未完成図も、空白を埋めたふりをせずに写した。
「伝説の家の秘密を、こんなに配るの?」
工具店の店主が、束ねた写しを見て言った。私は紙の角を揃える。
「秘密にして、一人ずつ死なせるよりいいです」
治療できる人が明日から五人に増えるわけではない。ノエは問診の記録を教え、マレナは潮の受けを説明し、トルカは合図の編み方を見せる。ミラは図の空白を空白のまま残す練習を担当した。デルクには、試験へ入る人全員の許可を取る欄を渡した。彼は不満を言いながら、欄を消さなかった。
王たちには定期点検の日が残る。治療を受けた事実と、自分の国へ返る損傷を隠さない約束も。世界が王なしで動き始めた、とはまだ言えない。王が休み、止まり、間違えたときに、隣の人が何をするかは決められる。
最初の講習で、若い工具職人が私の七号鏡を手に取った。
「この継ぎ目、少し曲がっています」
「はい。七回目でも曲がりました」
「直していいですか」
私は一瞬、取り返したくなった。自分の名が付いた傷だからだ。でも彼は私の顔を見て、返事を待っている。
「どう曲げるつもりか、先に教えて」
伝説の歯医者の道具は、次の人の手で八回目になる。




