第76話 私の帰り道
ヴァルドの歯の中は、初めて入った日より静かだった。
洞窟の壁に黒い異物はない。三つの火口を模した奥の穴も、鱗の薄片で塞いだ場所はまだ働いている。壊れた治療をやり直すのではない。隣にできた新しいひびを診る。
外の五つの受けは、土地へ返る荷を分けてくれる。ヴァルドの歯に残った圧まで、代わりに感じてはくれない。
命綱の外側は診察椅子の台座へ固定し、ネッサが張りを見張る。ヴァルドには別の細い合図綱を渡した。二回なら確認、三回なら停止。入口の輪は彼の鱗で支える。ミラが入口までの距離を記録し、デルクは境界の外で器具が折れたときの逃げを見ている。
どれも、私一人ではできない仕事だった。
ひびの先へ鏡を入れると、赤い光が古い補修の縁を逆向きに走った。父の三段溝を試し当てる。溝は正確だ。正確すぎて、ヴァルドが熱を上げると、そのまま最短の道を探す。
「熱を止めてください」
外でヴァルドが一度息を止める。光が弱まる。私は溝を外さず、その脇へ自作の曲がった薄板を差し込んだ。痛みを逃がすためではない。患者が止めたとき、戻る熱を三つの小さな受けへ分けるための板だ。
最初の留めがかかる。二つ目。三つ目に手を伸ばしたところで、床が揺れた。
外から合図綱が三度引かれた。停止。ヴァルド本人が痛いと言っている。
「戻す」と私は答えた。
板を引く前に、ひびの向こうから熱が来た。差し込んだままなら、私は焼けずに作業を続けられる。でも、患者が止めたあとに続ける道具は、もう作らない。
私は留めを戻した。三つの受けが順に荷を降ろし、火口のほうへ静かに返す。身体が軽くなる。痛みに反応したヴァルドの顎が閉じかけ、入口の輪が縮み始めた。
「綱を引いて!」
ネッサが引く。デルクが巻き取りを支え、ミラが残りの長さを読む。私は工具鞄の取っ手をつかんだ。父の直した留めが、一度滑らかに戻る。鞄が岩へ引っ掛かり、取っ手だけ外へ開いて荷を逃がした。
工具をいくつか落とした。拾いに戻らなかった。
入口の向こうから、ヴァルドの手が伸びる。竜の爪ではない。人の姿の、大きな手だ。
「つかめ」
昔の私なら、道具を一つでも拾ってから、と言ったと思う。今日は、先に手をつかんだ。
外へ転がると、ヴァルドが口を閉じかけていた。私は手を上げた。
「まだ。痛みは?」
「さっきより軽い」
「治っていません。三つ目は保留です」
彼は不満そうに見えた。それから、自分で停止札を受け取った。
翌朝、私たちは入り直した。今回は三つ目の板をほんの半目盛り短くし、彼が息を吐く間に固定する。火山の見張りから、三か所とも熱が増えていないという札が届くまで、手を離さなかった。
ヴァルドが次の停止を告げる前に、作業は終わった。私も帰る。全員で道具の数を数え、足りない一本は内部へ残さず回収した。
「歯医者」とヴァルドが言った。「余は、以前ほど強く炎を出せぬな」
「そういう上限にしました。嫌なら、今なら戻せます」
彼は外の畑を見た。焦げた黒が、朝の光でも消えない。
「戻さぬ。余の選んだ力だ」
私は彼の歯の記録へ、治療者の名だけでなく、患者が選んだ上限も書いた。




