第74話 私も、帰る人数に入れる
父の葬儀の翌日、私は図を開いた。
二日前なら、もっと早く開けられたかもしれない。早く開けて、昼を食べ忘れ、誰かの返事を待たずに作り始めたと思う。今日は、先にスープを飲んだ。
ヴァルドは黙って二杯目を置いた。
「患者の分まで飲めと?」
「歯医者の腕が震えれば国益に障る」
国益は便利な言葉だ。泣いた後の目の腫れまで、説明してくれる。
机には五枚の停止札が揃っていた。海王、精霊王、獣王、鉱王、竜王。王の署名だけではない。受け石を管理する港、森、谷、坑、火山の人々が、やめる権利を確かめている。
私は父の三段の溝を、母の未完成の戻り線へ合わせた。仮の重りでは動いた。実際の患者の痛みは、まだ測れていない。
「自分で全部見に行くつもりか」とヴァルド。
「前なら、そうしました」
マレナには潮塔の戻し口。ノエには四季の受け。トルカには五十七本の輪。ミラには閉じる坑道と残す坑道。ネッサには現場の停止布。デルクには、壊れるまで叩いても人を試験へ巻き込まない模型。
一人ずつ名前を書き、できないことも書いた。私は王の歯を診る。橋の石を削る人ではない。港の便を決める人でもない。
最後の欄が空いた。
『内部の治療者が戻らないとき』
母の紙なら、そこで線が切れている。私は新しい紙へ書いた。
『停止。外から器具を抜かない。本人の返事を待つ。帰還路が消えたら、次の作業はしない』
それから、もっと大事な一行を足した。
『リタも帰る人数に入れる』
書くと馬鹿みたいに当たり前だった。母と父がいなくなってから、ようやく書けた当たり前だ。
ヴァルドが紙を読んだ。
「余の手を、帰還路へ使う許可は」
「出します。私が合図したときだけ」
「承った」
彼は王の公印ではなく、自分の名をその欄へ書いた。字が大きく、他の人の場所まで使いそうになる。私は定規で枠を引き直した。
「陛下、そこは二人分じゃありません」
「余の名は長い」
「四文字です」
ネッサが外で運び手の人数を数えている。停戦は、両岸が治療路へ武装して入らない条件であと三日延びた。食料便は細いまま続く。
三日で世界が治るとは思わない。それでも、三日あれば一つの古い道を閉じられる。みんなが自分の持ち場から戻れるなら。




