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竜王の歯医者ですが、虫歯一本がダンジョンになっています  作者: sakumaaa
第九章 帰るための治療

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第74話 私も、帰る人数に入れる

 父の葬儀の翌日、私は図を開いた。


 二日前なら、もっと早く開けられたかもしれない。早く開けて、昼を食べ忘れ、誰かの返事を待たずに作り始めたと思う。今日は、先にスープを飲んだ。


 ヴァルドは黙って二杯目を置いた。


「患者の分まで飲めと?」

「歯医者の腕が震えれば国益に障る」


 国益は便利な言葉だ。泣いた後の目の腫れまで、説明してくれる。


 机には五枚の停止札が揃っていた。海王、精霊王、獣王、鉱王、竜王。王の署名だけではない。受け石を管理する港、森、谷、坑、火山の人々が、やめる権利を確かめている。


 私は父の三段の溝を、母の未完成の戻り線へ合わせた。仮の重りでは動いた。実際の患者の痛みは、まだ測れていない。


「自分で全部見に行くつもりか」とヴァルド。

「前なら、そうしました」


 マレナには潮塔の戻し口。ノエには四季の受け。トルカには五十七本の輪。ミラには閉じる坑道と残す坑道。ネッサには現場の停止布。デルクには、壊れるまで叩いても人を試験へ巻き込まない模型。


 一人ずつ名前を書き、できないことも書いた。私は王の歯を診る。橋の石を削る人ではない。港の便を決める人でもない。


 最後の欄が空いた。


『内部の治療者が戻らないとき』


 母の紙なら、そこで線が切れている。私は新しい紙へ書いた。


『停止。外から器具を抜かない。本人の返事を待つ。帰還路が消えたら、次の作業はしない』


 それから、もっと大事な一行を足した。


『リタも帰る人数に入れる』


 書くと馬鹿みたいに当たり前だった。母と父がいなくなってから、ようやく書けた当たり前だ。


 ヴァルドが紙を読んだ。


「余の手を、帰還路へ使う許可は」

「出します。私が合図したときだけ」

「承った」


 彼は王の公印ではなく、自分の名をその欄へ書いた。字が大きく、他の人の場所まで使いそうになる。私は定規で枠を引き直した。


「陛下、そこは二人分じゃありません」

「余の名は長い」

「四文字です」


 ネッサが外で運び手の人数を数えている。停戦は、両岸が治療路へ武装して入らない条件であと三日延びた。食料便は細いまま続く。


 三日で世界が治るとは思わない。それでも、三日あれば一つの古い道を閉じられる。みんなが自分の持ち場から戻れるなら。

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