第73話 直せなかったものの名前
治療師は父を診療小屋の奥へ運び、私を戸の外へ出した。
追い返されたわけではない。ここで私ができる仕事はない。分かっていても、工具鞄の留めを何度も開け閉めした。
ヴァルドは隣で何も言わなかった。いつもの大きな国益の話も、帰れという命令もない。自分の外套を私の椅子の背に掛け、それから廊下に座る。
夜半、治療師が戻った。
「出血は抑えた。本人と話せるうちに、話して」
抑えた、という言葉の後ろに、助かったとは続かなかった。
父は寝台で、私を見ていた。目が開いていることに、まず安心する。次に、その目がもう工具の摩耗を探していないことに気づいた。
「子どもは」
「二人とも無事。粉も半分は残った」
「そうか」
父は手を伸ばし、何も持たないまま戻した。
「私は、お前に手伝ってほしかった」
「知っています」
「私の方法を、続けてほしかった」
「それはしません」
返事を変えれば、父が楽になるのかもしれない。ならないのかもしれない。どちらでも、嘘を最後の贈り物にはしたくなかった。
「お前の図は、私の図より面倒だ」
「作る人が五倍です」
「失敗したら、責める人も五倍だ」
「止める人も五倍です」
父が短く息を吐いた。
「そうだな」
彼は母の名を呼ばなかった。私も、あの図を外へ知らせなかったことを許したとは言えなかった。ここでなかったことにすれば、母が残した言葉まで消えてしまう。
「留めは、戻る側だけ削った」と父が言った。「引く側はまだ重い。帰ったら、そこを直せ」
帰ったら。その言葉を父が言うのが、悔しかった。
私は取っ手を父の手へ戻し、空いたほうの手を握った。道具を渡すより、自分の手を渡すほうが難しかった。
「今は、そこにいてください」
父はうなずいた。治療師が水を持って入り、私は場所を譲る。父は飲もうとした。生きるための、最後まで普通の動きだった。
夜明け前に、息が止まった。
私は留め具を数えなかった。数えても、次に直す場所は出てこない。
窓の外では、渡し場の運び手が今日の便を並べていた。父が荷車から作った踏み板は割れたが、子どもたちを帰せた。父が作ろうとした継ぎ枠は、封をされたまま輸送所にある。
両方が、あの人の仕事だった。
「今日は図を見ません」と私はヴァルドへ言った。
「見なくてよい」
彼は椅子をもう一脚持ってきた。私は泣きながら、冷めたスープを少し飲んだ。道具を持てない私の隣にも、この人は座っていた。




