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竜王の歯医者ですが、虫歯一本がダンジョンになっています  作者: sakumaaa
第九章 帰るための治療

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第73話 直せなかったものの名前

 治療師は父を診療小屋の奥へ運び、私を戸の外へ出した。


 追い返されたわけではない。ここで私ができる仕事はない。分かっていても、工具鞄の留めを何度も開け閉めした。


 ヴァルドは隣で何も言わなかった。いつもの大きな国益の話も、帰れという命令もない。自分の外套を私の椅子の背に掛け、それから廊下に座る。


 夜半、治療師が戻った。


「出血は抑えた。本人と話せるうちに、話して」


 抑えた、という言葉の後ろに、助かったとは続かなかった。


 父は寝台で、私を見ていた。目が開いていることに、まず安心する。次に、その目がもう工具の摩耗を探していないことに気づいた。


「子どもは」

「二人とも無事。粉も半分は残った」

「そうか」


 父は手を伸ばし、何も持たないまま戻した。


「私は、お前に手伝ってほしかった」

「知っています」

「私の方法を、続けてほしかった」

「それはしません」


 返事を変えれば、父が楽になるのかもしれない。ならないのかもしれない。どちらでも、嘘を最後の贈り物にはしたくなかった。


「お前の図は、私の図より面倒だ」

「作る人が五倍です」

「失敗したら、責める人も五倍だ」

「止める人も五倍です」


 父が短く息を吐いた。


「そうだな」


 彼は母の名を呼ばなかった。私も、あの図を外へ知らせなかったことを許したとは言えなかった。ここでなかったことにすれば、母が残した言葉まで消えてしまう。


「留めは、戻る側だけ削った」と父が言った。「引く側はまだ重い。帰ったら、そこを直せ」


 帰ったら。その言葉を父が言うのが、悔しかった。


 私は取っ手を父の手へ戻し、空いたほうの手を握った。道具を渡すより、自分の手を渡すほうが難しかった。


「今は、そこにいてください」


 父はうなずいた。治療師が水を持って入り、私は場所を譲る。父は飲もうとした。生きるための、最後まで普通の動きだった。


 夜明け前に、息が止まった。


 私は留め具を数えなかった。数えても、次に直す場所は出てこない。


 窓の外では、渡し場の運び手が今日の便を並べていた。父が荷車から作った踏み板は割れたが、子どもたちを帰せた。父が作ろうとした継ぎ枠は、封をされたまま輸送所にある。


 両方が、あの人の仕事だった。


「今日は図を見ません」と私はヴァルドへ言った。


「見なくてよい」


 彼は椅子をもう一脚持ってきた。私は泣きながら、冷めたスープを少し飲んだ。道具を持てない私の隣にも、この人は座っていた。

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