第71話 五つの土地に、五つの停止札
三日で五か国を回るのは、竜王の背でも無理だった。
赤石橋の停戦は、両岸の隊長が毎朝一日ずつ署名し直している。次の朝までに道を作れる保証はない。
だから私は赤石橋に残り、運び手の飛竜便で各地の人へ未完成の図を渡した。完成図を配るより、ずっと怖い。誰かが違うものを作るからだ。
最初に帰ってきたのは、海王領からの板だった。マレナは潮塔の古い蝶番をそのまま使わず、手で押せる二つの戻し口を付けていた。
『海が引けば、左の港が止める。満ちれば右も止められる。両方の印を揃えないと再開しない』
字の下に、両港の職人の署名がある。セイルは王の欄へ、痛いときには自分でも止めると書いた。
精霊王領からは、四季の葉を縫った小さな布が届く。ノエと倉番が試し、葉が一枚閉じても穀物倉の冷えが増えない位置に、力の受け口を移した。アステルは、先日焼けた畑へ力を無理に戻さないと決めた。
獣王領のトルカは五十七本の返事を一本へまとめなかった。群れの三人の合図役が、別々に止められる輪を作る。『便利な一本は、壊れると全員を黙らせる』と短い手紙が添えてあった。ラシャの字は『我も止められる』の一行だけだ。
鉱王領ではミラと坑夫が、閉じた最奥の坑道を受けに使わないと決めた。傷んだ土地を新しい犠牲にしないためだ。ドルガは手前二本の旧支柱に荷重の上限を刻み、坑夫に閉山権限を渡した。
「全部、同じ寸法にはならんな」
父は五枚の図を重ね、ずれた縁を測った。
「同じにしたら、患者が違います」と私は答えた。
竜王領は最後だった。ヴァルドの火山で、夜の退避鐘を鳴らした家々が、火口の外へ受け石を並べた。各家の代表が、赤い札を持つ。ヴァルドは王命で札を取り上げず、火山の音を聞く人へ預けた。
全員が賛成したわけではない。東岸では『王なき工房の図を信用しない』という声が出た。西岸では『人間の娘に土地を預けるな』と書かれた紙が貼られた。どちらも、同意の欄へ勝手に丸を付ける理由にはならない。
父と私は、三段の戻り留めを削り直した。デルクは木箱の重りを変え、下から叩いて壊れる位置を探した。今度は先に断る。
「試していいか」
「この箱だけ」
止める布が上がる。重りは一度に王へ戻らず、三つの受けへ順に落ちた。木箱の脚は折れない。
成功、と書きかけて手を止める。木箱には、痛いと言う口がない。
「次は患者本人です」と私は言った。「一人でも嫌だと言ったら、その国では使わない」
父は顔をしかめたが、図の端へ停止札の欄を五つ描いた。小さな空白が並ぶ。そこを埋めるのは、私たちではない。




