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竜王の歯医者ですが、虫歯一本がダンジョンになっています  作者: sakumaaa
第九章 帰るための治療

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第70話 止められる道具は、作りにくい

 翌朝、白枝塔の保管室で母の未完成品を見た。伝説らしい見た目はしていなかった。


 薄い板が二枚。片方に、指で回せる小さな逃げ穴。名前を書く場所さえない。十年前には器具と認められず、押収品の目録へ載らないまま白枝塔の保管箱に残っていた。


「組めば一つになります」とノエが言った。「十年前の調査では、ただの金属片でした」


 母も完成させていないのだから、当然かもしれない。


 箱に挟まった紙には、力を受ける線と、戻す線が描かれている。戻す線だけ、途中で切れていた。余白に母の字で『患者がやめたあと』とある。


 私はしばらく、その言葉を見た。


「母は、止めたらどうなるかまで考えていた」

「考えたまま、作れなかった」と父が答えた。


 父の継ぎ枠には、逆向きに働く切断刃がある。私は刃先を鈍らせ、切る代わりに線を一時だけ浮かせる形へ変えた。母の板の間へ入れ、患者が停止すれば元の線へ戻るはずだ。


 小さな木箱を二つ作った。一つを王の歯、一つを畑に見立てる。重りを掛け、逃がし板を開く。三分の一だけ外へ荷重が移った。


「動いた」


 ネッサがうなずいた。


「止めるよ」


 赤い布が上がる。私が板を戻した瞬間、木箱の細い脚が折れた。


 割れた木片が作業台を滑る。ネッサは触らず、私が数え終わるのを待った。


「王へ全部戻りますね」と私が言う。

「予想より速い」と父。


 父は直し方を知っていた。重りを一度に戻さず、間へ受けを増やせばいい。ただし、今の形で使えば、停止したい患者が最も強い痛みを受ける。


「やめたくても、やめられない道具だ」


 ヴァルドが折れた脚を拾った。最初の治療で、彼は痛みを言えず、私の器具を壊した。


「そうです。まだ使えません」


 父が新しい図を差し出す。切断刃の代わりに、三段の小さな受けが描かれていた。私には作れない細さの溝がある。


「これは作れますか」

「作れる」と父は言った。「だが、受けを置く場所は、私だけでは決められん」


 その言葉は、父にとって小さくなかったはずだ。私は試験片を捨てず、壊れた脚へ『停止一回目』と書いた。


 母の線は完成していない。父の線は危険なほど速い。二つを重ねても、そのままでは足りない。


「現地の人に、止めた後の置き場を作ってもらいます」


 ヴァルドが私の工具鞄を見た。


「全員の材料を持って飛べ、と言うか」

「乗り物ではないんでしょう」

「当然だ」

「じゃあ運び手にお願いしましょう。あなたは、頼まれた分だけ」


 彼は少し不満そうだった。けれど、作業台の折れた木箱を自分で片づけ、次の試験の場所を空けた。

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