第70話 止められる道具は、作りにくい
翌朝、白枝塔の保管室で母の未完成品を見た。伝説らしい見た目はしていなかった。
薄い板が二枚。片方に、指で回せる小さな逃げ穴。名前を書く場所さえない。十年前には器具と認められず、押収品の目録へ載らないまま白枝塔の保管箱に残っていた。
「組めば一つになります」とノエが言った。「十年前の調査では、ただの金属片でした」
母も完成させていないのだから、当然かもしれない。
箱に挟まった紙には、力を受ける線と、戻す線が描かれている。戻す線だけ、途中で切れていた。余白に母の字で『患者がやめたあと』とある。
私はしばらく、その言葉を見た。
「母は、止めたらどうなるかまで考えていた」
「考えたまま、作れなかった」と父が答えた。
父の継ぎ枠には、逆向きに働く切断刃がある。私は刃先を鈍らせ、切る代わりに線を一時だけ浮かせる形へ変えた。母の板の間へ入れ、患者が停止すれば元の線へ戻るはずだ。
小さな木箱を二つ作った。一つを王の歯、一つを畑に見立てる。重りを掛け、逃がし板を開く。三分の一だけ外へ荷重が移った。
「動いた」
ネッサがうなずいた。
「止めるよ」
赤い布が上がる。私が板を戻した瞬間、木箱の細い脚が折れた。
割れた木片が作業台を滑る。ネッサは触らず、私が数え終わるのを待った。
「王へ全部戻りますね」と私が言う。
「予想より速い」と父。
父は直し方を知っていた。重りを一度に戻さず、間へ受けを増やせばいい。ただし、今の形で使えば、停止したい患者が最も強い痛みを受ける。
「やめたくても、やめられない道具だ」
ヴァルドが折れた脚を拾った。最初の治療で、彼は痛みを言えず、私の器具を壊した。
「そうです。まだ使えません」
父が新しい図を差し出す。切断刃の代わりに、三段の小さな受けが描かれていた。私には作れない細さの溝がある。
「これは作れますか」
「作れる」と父は言った。「だが、受けを置く場所は、私だけでは決められん」
その言葉は、父にとって小さくなかったはずだ。私は試験片を捨てず、壊れた脚へ『停止一回目』と書いた。
母の線は完成していない。父の線は危険なほど速い。二つを重ねても、そのままでは足りない。
「現地の人に、止めた後の置き場を作ってもらいます」
ヴァルドが私の工具鞄を見た。
「全員の材料を持って飛べ、と言うか」
「乗り物ではないんでしょう」
「当然だ」
「じゃあ運び手にお願いしましょう。あなたは、頼まれた分だけ」
彼は少し不満そうだった。けれど、作業台の折れた木箱を自分で片づけ、次の試験の場所を空けた。




