第67話 停戦の間も、腹は減る
王が力を引いても、昨日焦げた麦は立ち上がらなかった。
畑の持ち主はセイルの船から届いた粉を受け取り、礼を言わずに家へ帰った。言われる資格は、こちらにない。
両岸の隊長は一日だけ武器を下げると決めた。明日の保証を誰もできないから、一日。書類の欄はそれでいっぱいになった。
朝までに、別の二通も届いた。海王領の古い放流口では潮が逆流し、鉱王領の旧坑道の外では封石が割れた。どちらも、私たちが治した王の歯の中ではない。橋の熱石と発生時刻を並べると、三か所とも昨日の夕方だった。誰が口を開けたかは、まだ書けなかった。
「一日で橋を直せるか」
「直せません」とミラが答えた。「調べて、人を近づけない線を引く時間にはなります」
現実の寸法を言う人は、こういうとき嫌われる。それでもミラは測り棒を持って、橋脚へ向かった。
私たちは道を二つに分けた。浅瀬は食料と薬の便。橋の南の旧作業道は、負傷者と王の歯を診る人の往復。荷札と治療札を一つの検問へ集めると、両方止まるからだ。
ネッサが赤い布を、二つの道に一本ずつ用意した。ヴァルドの停止用だけではない。運び手が重いと感じたら、王でも橋番でも止められる。
「わたしの布が世界を救うとはね」
「昨日は救いました」
「昨日の畑は救えなかった」
私は返事に詰まった。ネッサは布を畳み、私へ一枚渡す。
「だから今日は、通せる袋を数える」
白枝の倉番から紙が来た。今日の配給を減らせば十日。昨日までのままなら六日。小さい子の分だけは減らしていない。数字の下に、誰の判断かが書いてある。
セイルの船は河口へ一度戻り、積めるだけ積んで再び来るという。港の倉も無尽蔵ではない。アステルは春を早める力を持つが、麦の実が熟す日まで縮められない。
「竜王陛下なら、空から全部運べるんじゃないか」
西岸の男が言った。ヴァルドは口を開きかけ、飲み込んだ。
「余が運べるのは粉の箱と薬だ。八台分の麦は、道と運び手が要る」
その通りだ。彼ができないことを自分で数えたのを、私は初めて聞いた気がした。
昼には、両岸の隊長が同じ机で負傷者名簿へ署名した。昨日は互いの兵を矢の数で呼んでいた。今日は名前がある。停戦とは、それ以上の美しい言葉ではなかった。
夕方、ユーディトが白枝塔から戻ってきた。アステルの封を押した古い記録を持っている。
「原記録の閲覧を許可されました。写しを作る前に、当時の押収品と照合します」
ノエも同行していた。十年前の事故を、塔の要約だけで信じてきた人だ。
「あなたの母の名が、三通りに書かれています」とユーディトは言う。「どれも同じ人です」
私は記録より先に、倉番の紙をもう一度折った。今夜の食料が先だ。十年前の嘘を追う時間も、今夜を越えた人にしか渡せない。




