↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
竜王の歯医者ですが、虫歯一本がダンジョンになっています  作者: sakumaaa
第八章 王たちの戦争

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

66/79

第65話 王の喧嘩は、畑を選ばない

 二日で浅瀬を通った麦は、荷車三台分にも満たなかった。


 渡し場で運び手が交替するたび、東岸の兵が荷札を調べる。兵は邪魔をしたいわけではない。熱石の報告を受けた王宮から、越境する者を調べろという命令が来ていた。


 白枝の子どもがその日の小麦粉を受け取った夕方、海から平底船が上ってきた。


 舳先に立つセイルは、いつものように歯を見せて笑わなかった。川の水位を少しだけ押し上げ、浅瀬に乗り上げそうな船腹を浮かせている。積んでいるのは小麦粉と塩。武器ではない。


「止まれ!」


 東岸の兵が声を上げる。船の後ろから、海王の旗を立てた護衛艇が現れた。


 白枝の集落を守るアステルには、昨夜、西岸が兵を集めているという報告が届いていた。西岸には、精霊王が川を凍らせるという報告が届いた。どちらも、まだ起こっていないことだ。


 アステルが岸へ来た。葉の冠には、春の芽と冬の霜が一緒についている。


「セイル。船だけ先に入れて。護衛は川で待って」

「粉が濡れる前に、そうしたい」


 話は、そこまで進んだ。


 西岸の見張り塔から早鐘が鳴る。川上の古い逃がし路で赤い蒸気が噴き、兵の足元へ石が跳ねた。誰かが「海王の船から火が出た」と叫んだ。


 飛んできた槍を、ヴァルドが翼で弾いた。槍は水へ落ちたが、翼の風で護衛艇が傾く。セイルが潮を逆へ押し、船を戻す。その波が東岸の畑へ乗り上げた。


「やめて!」


 私の声を、王の力が三つともかき消した。


 アステルの霜が波を止める。凍った水に護衛艇の櫂が捕まる。ヴァルドが艇を守ろうとして氷を焼いた。炎は人を避けた。畑は避けられなかった。


 若い麦が、端から黒くなる。


 セイルがヴァルドを押し戻そうと、川を壁にした。水と火がぶつかり、蒸気の奥で竜の爪と海王の腕が一度だけ組み合う。アステルが二人の間へ木を伸ばし、岸の兵を退かせた。


 誰も宣戦の文を読んでいない。それでも、王同士が力をぶつけた。東西の兵が互いへ矢を放つ。流れ矢が粉袋を破り、白い粉が泥へ流れた。


 私はネッサと一緒に岸の子どもを倉へ入れた。最後の子が戸をくぐる寸前、屋根瓦が落ちる。ヴァルドが身体を寄せ、瓦を翼で受けた。


 その翼へ、矢が三本刺さった。


 彼は子どもを見た。私を見た。矢を放った兵のいる土手を見た。


 金色の目の奥へ、赤い光が走る。


「皆、下がれ」


 声は落ち着いていた。だから、怖かった。


 兵が弓を捨てても、彼の喉に集まる熱は減らない。敵が撤退した後も、彼は土手の向こうを見つめていた。そこには兵舎と、まだ収穫できない畑がある。


 私はネッサへ赤い布を渡した。


「彼だけじゃなく、向こうの王たちへも。止まるまで振って」


 赤い布が高く上がった。その下で、白い粉は泥に溶けていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。