第63話 橋の下にも、古い治療痕がある
夜明けに橋を見ると、昨日の白墨線は半目盛りずれていた。
台車一つも通せない。東岸の麦袋は、見えるところに積まれたままだ。
「川へ入るなよ」
橋番に言われる前から、そのつもりだった。熱い石がまた飛べば、水の中では逃げ道がない。
デルクが長柄の可動鏡を伸ばした。私の七号鏡へ、測量師ミラの折り畳み棒を結び足したものだ。橋の下をのぞき込むと、二段目の石組みだけが不自然に新しい。表面には古い水苔があるのに、目地の奥の詰め物は黒ずんでいた。
「橋の補修記録に、あの石はありますか」
「十年前の測り直しなら」と西岸の橋番が言った。「荷重試験で、川底へ道具を入れた」
デルクの手が一瞬止まる。
「王なき工房の仕事?」
「その頃はまだ違う。王都の調査の仕事だ」
鏡を少し振ると、石の裏から鉄の細い口が出ていた。川上へ向かう。内側の赤い粉は昨夜の石と同じで、口の縁だけが最近磨かれている。
「誰かが開けた跡ですか」
「開けたか、開いたものを押し戻したか」とデルクは答えた。「跡だけで人の手とは決めない」
彼が言うと、少し意外だった。獣王の牙で、断りなく試験鋲を押した人だからだ。
ミラは橋の上のひびと川底の口を一本の線で結ばなかった。地図の上へ、確かめた二つの位置を別々に打つ。
「石は川上から来た。口がそこへつながるかは、まだ見えていません」
「それなら出口を探そう」
ヴァルドが翼を広げかける。東岸で弓が上がった。
「飛ばなくていいです」と私は言った。「川沿いの道を、同じ人数で歩きます」
東岸の隊長は負傷した衛兵の様子を対岸から伝えたところだった。彼の側からも橋番を一人出すと申し出る。信用ではなく、勝手に川上を調べたと言われないためだ。今はそれでいい。
私とデルク、西岸の橋番は西の川沿いを歩き、東岸の橋番が対岸を並走した。半刻ほど歩いた先の古い水車の跡で川が狭まり、石積みの下から湯気が出ている。西岸の石の間に蓋が引っ掛かっていた。デルクが鉤棒で引き寄せ、泥を洗うと、王都の調査印と年号が現れた。母が亡くなった年だ。
蓋の内側には、黒い薄膜が貼り付いている。歯から抜いた異物とは材質が違う。試験に使った熱よけのようで、焼けて脆くなっていた。
「橋の継ぎ枠とは別です」
私は言葉を選んだ。父の箱は、まだ輸送所で封をされている。これまで治した王の歯も、昨日急に元へ戻ったわけではない。
「でも、歯の外に残した古い道が、力をここへ捨てていた可能性はあります」
デルクが蓋を布で包んだ。
「あんたの父親は、この道を知っていたと思うか」
「聞きます。知っていたら、いつからかも」
西岸の橋番が蓋の刻印を写した。東岸分は、橋の紙台車で渡すことにした。
帰り道、川向こうに麦袋を数える人が見えた。熱の出どころが一歩近づいても、パンはまだ一つも増えない。橋を調べる手と、別の食料路を探す手を分ける必要があった。




