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竜王の歯医者ですが、虫歯一本がダンジョンになっています  作者: sakumaaa
第八章 王たちの戦争

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第62話 二通とも、同じ傷を書く

 橋の向こうへ紙を届ける方法を考えている間にも、東岸の衛兵の腕は腫れていく。


 人が通れない橋なら、紙だけ通せばいい。言葉にすると簡単で、実行するには、紙を運ぶ物へ弓を向けない約束が必要だった。


「空の台車を使わせてください」


 東岸の隊長は首を振った。


「おまえを乗せる気だろう」

「私は紙より重いです。見れば分かるでしょう」


 怪我をした頬で笑ったせいで痛んだ。余計なことを言ったと、自分で気づく。けれど隊長の弓先が、一寸だけ下がった。


 ネッサが台車の底板を外した。麦袋は載せられない細い枠だけが残る。デルクと橋番がウインチを空回しし、途中で止め、戻す。白墨線は動かなかった。


「紙と包帯だけだ。人は渡さない」


 東岸の隊長がようやく答える。西岸の衛兵も盾を置いた。互いが相手の兵を信用したのではない。空の台車を止められる爪を、双方で見たからだ。


 私は同じ文面の紙を二通書いた。熱石が先、矢が後。東岸の小屋の焼損、衛兵の左腕、私の頬。継ぎ枠の箱は輸送所に封のまま。川底の熱源は不明。


 一通目をネッサへ読んでもらう。


「『熱石が先』は見た。でも火の出どころまでは見ていないわね」

「そこに線を引いてください」


 東岸の橋番にも対岸から文を読み上げた。彼は小屋へ飛んだ石の数を三ではなく四だと言う。四に直した。こちらから見えない場所の数は、そこにいた人へ確かめる。


 包帯、冷水の小瓶、木片二枚を台車へ結ぶ。腕を添える副木だ。東岸の治療師が使うかどうかは、その人に任せる。


 ウインチが動いた。橋の半ばで、また小さく石が鳴る。全員の手が止まった。


「戻しますか」


 私は東岸の橋番へ尋ねた。彼は負傷者のいる小屋と、台車の位置を見比べる。


「あと三回転なら、こっちから取れる」

「三回転。その前に線がずれたら戻す」


 ネッサが赤い布を掲げたまま、三回数えた。東岸の橋番が紙と包帯を取る。台車は空のまま西へ戻った。


 しばらくして、向こうから返事が来た。副木を使ったこと。衛兵は指を動かせること。弓を放った兵の名を、隊長が報告へ書いたこと。


 報告が同じになるわけではない。それでも、傷の数は揃えられる。


 ヴァルドは私の頬を見て、工具鞄の中の薬を探した。指先が小瓶の蓋に苦戦している。


「それ、回すほうです」

「知っておる」

「底を回してます」


 ネッサが噴き出しかけ、赤い布で口元を隠した。ヴァルドは威厳を保った顔で、小瓶を私へ渡す。


 川下で、橋番たちが濡れた石を拾ってきた。割れた内側に赤い粉が入り、まだ温かい。私は採取位置と時刻を紙の余白へ加えた。


「竜王の火ですか」


 東岸から声がした。


「まだ分かりません。明るくなってから、橋の下を見ます」


 分からないまま朝を迎えるのが怖い。分かったふりをして兵を走らせるほうが、もっと怖かった。

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