第62話 二通とも、同じ傷を書く
橋の向こうへ紙を届ける方法を考えている間にも、東岸の衛兵の腕は腫れていく。
人が通れない橋なら、紙だけ通せばいい。言葉にすると簡単で、実行するには、紙を運ぶ物へ弓を向けない約束が必要だった。
「空の台車を使わせてください」
東岸の隊長は首を振った。
「おまえを乗せる気だろう」
「私は紙より重いです。見れば分かるでしょう」
怪我をした頬で笑ったせいで痛んだ。余計なことを言ったと、自分で気づく。けれど隊長の弓先が、一寸だけ下がった。
ネッサが台車の底板を外した。麦袋は載せられない細い枠だけが残る。デルクと橋番がウインチを空回しし、途中で止め、戻す。白墨線は動かなかった。
「紙と包帯だけだ。人は渡さない」
東岸の隊長がようやく答える。西岸の衛兵も盾を置いた。互いが相手の兵を信用したのではない。空の台車を止められる爪を、双方で見たからだ。
私は同じ文面の紙を二通書いた。熱石が先、矢が後。東岸の小屋の焼損、衛兵の左腕、私の頬。継ぎ枠の箱は輸送所に封のまま。川底の熱源は不明。
一通目をネッサへ読んでもらう。
「『熱石が先』は見た。でも火の出どころまでは見ていないわね」
「そこに線を引いてください」
東岸の橋番にも対岸から文を読み上げた。彼は小屋へ飛んだ石の数を三ではなく四だと言う。四に直した。こちらから見えない場所の数は、そこにいた人へ確かめる。
包帯、冷水の小瓶、木片二枚を台車へ結ぶ。腕を添える副木だ。東岸の治療師が使うかどうかは、その人に任せる。
ウインチが動いた。橋の半ばで、また小さく石が鳴る。全員の手が止まった。
「戻しますか」
私は東岸の橋番へ尋ねた。彼は負傷者のいる小屋と、台車の位置を見比べる。
「あと三回転なら、こっちから取れる」
「三回転。その前に線がずれたら戻す」
ネッサが赤い布を掲げたまま、三回数えた。東岸の橋番が紙と包帯を取る。台車は空のまま西へ戻った。
しばらくして、向こうから返事が来た。副木を使ったこと。衛兵は指を動かせること。弓を放った兵の名を、隊長が報告へ書いたこと。
報告が同じになるわけではない。それでも、傷の数は揃えられる。
ヴァルドは私の頬を見て、工具鞄の中の薬を探した。指先が小瓶の蓋に苦戦している。
「それ、回すほうです」
「知っておる」
「底を回してます」
ネッサが噴き出しかけ、赤い布で口元を隠した。ヴァルドは威厳を保った顔で、小瓶を私へ渡す。
川下で、橋番たちが濡れた石を拾ってきた。割れた内側に赤い粉が入り、まだ温かい。私は採取位置と時刻を紙の余白へ加えた。
「竜王の火ですか」
東岸から声がした。
「まだ分かりません。明るくなってから、橋の下を見ます」
分からないまま朝を迎えるのが怖い。分かったふりをして兵を走らせるほうが、もっと怖かった。




