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34.【東文太郎(弁護士・相続財産管理人)の証言】

こんにちは。本日は、私が相続財産管理人を担当した――有賀佳之さんの件について聞きたい、ということでしたね。


……いえ、問題ありませんよ。最近は中古物件市場が活発なので、こうしたお問い合わせは増えていますから。あなたのように、特定の物件の履歴を自力調査なさっている方も時々いらっしゃいますよ。不動産業者や売主側は、告知義務の無い限り、不利な情報は伏せておこうとするものですから。


それで本題ですが――お電話でもお話ししましたが、私がお答えできるのは守秘義務に反しない、個人情報に関わらない範囲になります。当時の記録は全て残っているわけではないのですが――それでよろしければ。

……そうですか。わかりました。


……ええ。有賀佳之さんはご自身が所有していたニュータウンの物件――あなたの言葉をお借りして、「丘の家」と呼びましょう――ではなく、外部で亡くなられています。事故で病院に運ばれたそうですが、詳細は個人情報にあたるため申し上げられません。親族の方と連絡がつかず、死亡の届出はされなかったようですが、医師の診断等に基づいて、市が職権で戸籍に死亡の記載を行ったと聞いています。


その後、ご遺体の引き取り手が見つからなかったため、必要な手続きは行政のほうで進められたようです。親族の方と連絡がつかなかったことから、家庭裁判所に相続財産管理人の選任申立てが行われ、私が選任されました。

相続人の調査を行いましたが、名乗り出る方はおらず……相続人不存在の手続きに移行しました。そして財産の中に不動産がありましたので、法令に従って換価処分を行うことになり、「丘の家」も公売に付された。

――私が説明できることは、以上になりますね。


……はあ、奥様、ですか。

申し訳ありませんが、配偶者や子、親族の有無といった戸籍情報は最も強い個人情報のひとつです。相続人として名乗り出る方はいなかった、という事実しかお伝えできません。

……はい。ご理解頂けてよかった。


……ええ、そうですね、相続財産管理人を引き受けることは多いです。

おっしゃる通り、手間ばかりかかって割に合わない、お世辞にも好まれない業務ではありますが。私は、この仕事を断らないようにしているんです。

亡くなった方の、最後の痕跡を辿る立場でもありますから。


……"無縁社会"、ですか。そういう言い方をする方もいらっしゃいますね。

実際、有賀さんのようなケースは増えています。孤独死だけでなく、事故や病気でも、誰にも連絡がつかないまま亡くなる方が珍しくなくなりました。寺院も無縁仏を受け入れきれない状況で、遺骨は市役所の倉庫に積まれていく。

司法浪人時代、市役所で働いていたことがありましてね。そういう光景をよく見たんです。番号だけ貼られた骨壺が棚に並んで……誰にも見送られないまま、誰からも忘れられたまま、ただそこに置かれている。


何年か前に納棺師を題材にした映画が話題になりましたが、相続財産管理人が選任される被相続人というのは大抵、誰からも"おくられなかった"方たちなんです。

社会の中で、消えてなくなってしまうように世を去り、でも確かに生きて、存在した方たちの、人生の痕跡を追う仕事。


以前担当した案件で知り合った不動産関係の方がね、『孤独死した方は"におい"で発見されることが多い。ある意味、"におい"は亡くなった方の最後のメッセージのようなものだ』とおっしゃっていたんです。

その例えを借りるなら、私は誰の目にも留められずに亡くなっていった方たちの、"人生の残り香"を辿る仕事をしているのだと思います。


……すみません。少し、饒舌になってしまいましたね。この話題になると、つい熱が入ってしまって。


……?

「丘の家」の"におい"、ですか?


物件については、私自身は現地に行っていません。

何せ事務処理が多いですから、現地調査は外部に依頼し、内部の写真と報告書を受け取るのが通例になっています。

特に異常はないという内容でしたが……確かに、壁や床材に香のような甘いにおいが少しついている、という報告はありましたね。ただ、物件価値を損なうような異常性のあるものではない、と。


…………以前にも、この物件の公売について問い合わせがあったか、というご質問ですね。


これも守秘義務があるので詳細はお伝えできませんが、回答できる範囲で言えば、いらっしゃいました。


数年前に、『購入を検討している物件について自力調査している』という方から問い合わせがありましてね。今回あなたからのお問い合わせにすぐ応じられたのも、その時に2017年当時の記録を取り出していて、資料を廃棄していなかったからなんですよ。




(筆者注)

・本作に登場する登記簿、官報や手続き等の記述・描写は、公開資料等を参考にしたフィクション表現です。筆者は不動産や法律には素人です。個別の法的解釈は専門家にご確認ください。また、2023年(令和5年)施行の民法改正により相続財産管理人と相続財産清算人の役割分離などが行われています。

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