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『答え合わせ』


「そういえば、勝負の前に言っていた危険な未来を防いだ人は、変態とかなんとか言っていたのは何なんですの?」

整頓された生徒会室にて紗耶香と俺は二人でいた。

机は俺と紗耶香の二つに減らされ、棚は書類関連のものが時系列順にきちりと並べられていた。

掃除道具が欲しいという紗耶香の意向から白色のロッカーも入った。少し大きなロッカーにはホウキなどではなく、掃除機とロボット掃除機が入っている。

その少し変わった生徒会室で二人正面に座りながら、目の前の少女、触れることのできない(アンタッチャブル)・女王(・プリンセス)と呼ばれる我が紅葉学園の生徒会長は、疑問を呈してきていた。

「はぁ。まだ、お前はそんなこともわかっていなかったのか?ヒントをやるよ。もしも、『これから地震が来る未来がある。だけど、大丈夫。俺は、地震を止める踊りを発明したんだ』っていう奴がいたら紗耶香はどう思う?」

俺は、疑問に疑問を投げかけた。


「何を言っていますの?そんな人がいたら、ただの()()さんだと思いますよ」


「そう、変態だって思うよな。まぁ、今のは大袈裟な例えになっちまったけど、不確定な未来に起こる事象を防いだところで誰も何も褒めないんだよ」

俺は、続けてこんな疑問を呈した。

「防ぎえる未来を防いだ人と、防げない未来を予知し人々に注意喚起を促した人。どちらが英雄と崇められると思う?」

紗耶香は、そこに来てようやく真剣な顔で考え始めた。ライトグリーンの瞳を黄金にかえ、左手を右肘に沿えて右手の人差し指と親指を顎に触れさせて考える人のポーズを決める。

しばらくして、紗耶香は疑問への回答を口にした。


「それが、万人が予測できる未来だったら、前者。万人に予測できない未来だったら後者ですかね?」


こいつは、簡潔だけど、質面倒くさい回答をする奴だな。万人って、話し言葉で聞くこと滅多にないよな。

「100点。まぁ大体そういうことだよ。他の人が未来予知を信じて理解できるなら未来を防ぐという行為を英雄として崇められる。他の人が未来予知を信頼できないまたは理解できないならば未来を防ぐ行為は『別にその人が防ごうとしなくても、そんな悪い未来は起こらなかった』って言われるだろうな。もっとひどければ『偶然起こらなかったことを、さも自分の手柄のように振舞う新興宗教や詐欺師』っていうレッテルを貼られるのがおちだろうな」


「じゃあ、信仰されたいときには、どうするのが正解だと思う?」

俺は紗耶香に疑問を再び投げかける。

紗耶香は、簡単に分からないとは言わない。しばらく考える。


「しっかりと、周知して未来を()()()()ようにしますわ。防いでしまってはその予知の信憑性が失われますからね」

理知的な瞳が自信満々に俺を見つめる。

「おしい。今度は70点」

これに関しては、紗耶香のもともとの正義感からしたら完全解答を導くのは困難だろう。

俺がみる限り、天空島で最もこれの完答がしにくいのが紗耶香だといってもいいだろう。


「減点30点は何ですの?」

若干、納得がいっていないことと、単純な疑問により黄金の瞳をこちらに向ける。

知恵を吸収せんとする瞳を見つめながら俺は回答する。

「ただ、予知して教えないだけってのが減点分だ。完全な正解は、自分を信仰しようとした人にのみ予知を教えて対策を教えるだ」


つまりは、信仰すれば助かるようになるということだ。

更に言えば、『自分たちだけが、この予知を知っている』という優位性を持つことができる。

ある意味信仰していることで、他の島民への優越感を持つことができる。

『自分たちは、正しいものを信仰する選ばれし者』だと。

もちろん、本物の強者は自分の力で予知に対抗できるだろう。だが、信仰を必要とする心の弱いものにとっては、正解を導いてくれる女神の存在は大きいものとなるだろう。


「自分を信仰しようとしている人たちだけを助けるって、たちの悪い予言者ですわね」

紗耶香は、苦渋の表情を浮かべる。整った顔を見知らぬ島民のために歪める。


「ところが、あいつはそれよりも恐ろしいことをやりやがったんだ」

紗耶香は、それはなんですの?と、俺の言葉を待つ。


「あいつの能力を紗耶香はみたよな?」


「ええ。地面を動かす能力でしたわね」


「疑問に思わなかったか?あいつの能力は予知じゃないのかって?」


「戦うのに必死であまり考えませんでしたが確かに変ですわね。でも、雪野さんはあなたのいう天然の能力者としての気質も持っているのでしょう?天然の能力として予知もあるんではないですか?それで説明がつくんじゃないですか?」


「確かにそれでも説明はつく。けど、俺はそうじゃないって確信している」

「どうしてですの?」

「まず、きっかけは地震の予知が多かったことだ。あいつが発表した予知は体外的には地震しかなかった。他にも世界情勢とか何かしらの予測をしていてもおかしくないのにな。そのことで疑問に思った俺は、勝負の前に仕掛けた。」


「というと?」


「俺は、奴隷勝負前にしたことを覚えているか?」


「雪野さんへの勝負を募ったことですか?だから、なんだって言うんですの?」


「違う違う。それは、単なるブラフ。そんなことはどうでもいいんだよ。単にお前みたいに身構えてもらって本命の方を悟られないようにするためだよ」


「本命ってなんですの?」


「ところで、予知ってのがどういうときに発動するか覚えているか?」

紗耶香からの疑問を素通りして、新たな疑問を紗耶香に投げかける。


「誰に聞いているんですの。忘れましたの?私があなたに予知について説明してあげたんですわよ」

そうやって、怒りの声を挙げながらも紗耶香は俺の疑問に答えていく。

「まずは、自分への危険、命にかかわるようなもの。その次に、自分の名誉などにかかわるもの。具体的にはこの天空島だとセクハラなどですかね。そして、その次に身の回りの人、大切な人に関わるものですわ。自分自身への危険に関してはランクAまででもほぼ確実に予知できますが、身の回りの人に関しては、ランクS以上でないと難しいと言われていますわね」


「じゃあ、雪野がランクA未満ってことはあり得ると思うか?」


「そんなわけないじゃないですか?彼女が予知能力者だとしたら、少なくともランクS

はなければおかしいですわ。誰もが予知できない事柄まで予知できるんですもの」


「そういうことだ。だから、俺は、あの時彼女に危害を加えようとした」


「はぁ?ジーニが見張っている中でルール外の危害を加えようとしたら即刻罰がくだりますわよ」


「そうだな。ところが、その人が悪意のない中で偶然にも『危害』という形になったらどうなると思う?」


「意味が分からないトンチですわね。どういうことですの?」


「あの時のことを正確に覚えているか?」


その疑問に白磁の肌を少しだけ顔を赤くしつつも俺の疑問に寸分の狂いなく必要な情報を提示してくる。


「あなたが、破廉恥にも雪野さんへ10㎝も満たないほどに顔を近づけて『お前は今日から俺の奴隷だな』とか言っていましたわ。女の子にとってはいくら触れていなくても許容できる距離ではないと判断して、私が間に入って止めようとしましたの。そしたら、雪野さんの靴に引っ掛けられて転びそうになりました。まぁ私にかかれば能力で態勢を整えるくらい朝飯前でしたけど」


余計な見栄を付け加えながらも、答えた少女におれは拍手する。


パチパチパチパチ

「正解だよ。ところで、お前の靴の先端を見てみな」

俺は、紗耶香の黒色のローファーを指し示す。

すぐには気づかず、しゃがんでようやく見つけたのか紗耶香は驚いた声を出す。


「なんですの、このレンズのようなものは?いつの間につけましたの?」


「勝負の1か月前から。流石に気づかれると思ったが気付かない奴で本当に助かったわ」


紗耶香ならば気付かないことまでも計算通りだった俺だが素直に賛辞を贈るがそれを素直に受け取るやつではなかった。


「こんなのにも気づけない間抜けだってバカにしていますの?」

多少煽る気持ちはあったが今回の殊勲賞をとったやつをバカになどはしない。

「ちげーよ。お前みたいな真っすぐなやつは俺とちがってそのまま真っ直ぐでいて欲しいって思うだけだよ。それよりも、答え合わせだ」


俺の言葉に不満をもったままだが素直に恥ずかしがる、黒川紗耶香だったが俺は答え合わせを促した。


「これはカメラですの?」


「そうだよ」


「これで何を私にさせようとしたのかしら」

ジトっとした怒りの眼で綺麗な瞳をこちらに向ける。


「お前に雪野のスカートの中を撮影させた」


俺は、気負いもなくけろっとした顔で答える。


「私に罪の一端をなすりつけましたのね。私のような清廉潔白な美少女を。本当にわずかでもあなたを信頼した私がバカでしたわ。結局ただのエロ猿でしたわね。いまなら去勢したら許してあげますから。手術しましょう。私がいい医者をご案内差し上げますので」

一息に早口にバーッと言葉をつなげる黒川紗耶香だった。


「ばーか。あんなやつのスカートの中になんて興味ねーよ。早く捨てろ。そんなカメラは。単に危害を加えることを予知できるかを確認するために仕掛けたもんだよ」


しばし沈黙が場を埋める。俺の言葉を信頼するかどうかを決めかねているようだ。本当にこの画像を見ていないのかと。


「確かに、私の靴をいじって画像を保管する時間は今回の勝負の後にありませんでしたわね。一旦信用しましょう。ですが、そんな破廉恥な行為を仕掛けるのがどうして私だったんですの?」


「だって、お前なら邪な考えとかなくそれを捨ててくれるだろ?男なら一度は見てしまうかもしれないし女だとしても、その画像を美女、しかもスプリーム4で一番人気な女性の巫女服の中だとかいって売っちまうかもしれないだろ?その点俺は、お前が清廉潔白な女の子だって信頼しているからな。お前にしか任せられないことだったんだよ。対戦相手の幸せにすら気を遣うならな」


俺は、皆を幸せという空想に居させる詐欺師だからな。


「むぅ。そういうことなら、許しますわ。私のことをそこまで信頼なさっていた人を無碍には致しませんわ。」

彼女は、恥ずかしそうに、唇を少しだけ前にして目線を俺から逸らす。

そのあともチラチラと見ている。

どうやら、ちゃんと納得してくれたようだ。

嬉しそうで何よりだ。まだ、俺は詐欺師だ。


「まぁそういうわけで、あいつの能力が予知じゃないことが確定したわけだ」


「なるほどですね」


「それに加えて、そもそも自分のことはわかるはずの予知であいつしか分からない地震の正体は何だって話にもなってくるわけだ」


「そうですわね。だからこそ、彼女が称賛されたんですから」


「ああ。だが、そもそも偶像の英雄を作るための地震だと考えたらどうなる?」

俺は、紗耶香のマネをするように抽象的な表現をする。

紗耶香は再び翠玉のようなライトグリーンの瞳をアンバーナイトのような透き通る黄金の瞳に変える。


「つまり、あの地震が人為的なものだったということだということですか?」

清廉潔白な王道を突き進む少女は俺のように人を疑う職業でもないのにすぐに正解にたどり着く。紗耶香は、やはり俺よりも賢い。

「そういうことだ。予知ってのは自分の危険は絶対予知しうるといわれているんだってな。なのに、なぜ、雪野にしか予知ができなかったかってのが問題だがお前たちはどう考えていたんだっけか?」

俺は数か月前に聞いた話を記憶をたどるように確認する。


「それは、どんな能力でも能力は干渉してしまうからですわ。風の能力なら同じ空間を支配しようとすると、どちらか一方のみがわずかな減少を伴って発生します。予知も多少特殊ですが例外ではありませんわ。誰もが影響しうる地震や台風などは高位のレベルの予知能力者()()に集約されてしまいます。だから、スプリーム4であり生徒間の正確な能力ランクでもSSである雪野さんに集約されたといわれていました」


「そうだな。だが、そもそも地震自体が一つの能力だったとしたら?予知はどうなる?」


「わかりませんわ。ただ、恐らくは高位の能力の影響ですとと予知はできないのではないでしょうか?」


「半分正解。高位の能力が関わるほど予知は難しい。だが、そもそも、能力関係なく人が関わると予知は難しくなるらしいぞ」


人の意思が関われば色々な思惑が動くため、予知は難しくなるらしい。もちろん、ずっと前から計画してきたテロなどがあれば予知できるようだが思いつきに関しては中々難しいらしい。それでも高位の能力者になれば思いついた瞬間に脳内に予知が高速で流れるらしいが。

逆に言えばさっき言っていたようなずっと前から計画していた隠しカメラのことなどの予知は可能なはずってことも言える。


「それは、逆に当たり前すぎて言ってなかっただけです。中等教育で習うことですわよ」


ジトっとした目で見つめる奴隷を鮮やかにスルーして続ける。そんな、非常識な教育は知るわけがない。

「まぁ、重要なのはそこじゃない。つまり、地震という重大なものだから高位の予知能力者しか予知できなかったのではなく、高位の能力者による地震だから予知できなかったっていう構図があり得ることだ。そして、俺はそれをお前の靴に仕込んだ監視カメラで試したってことだ」


そこで、俺は一度言葉を切る。

そして、再び目の前の黄金の瞳を持った美女に向かって聞く。

「そこまできたら、簡単だろ?彼女が予知能力者じゃなかったとしたら雉野雪野は何の能力者でしょう」

「地震を起こす能力あるいはそれに付随する能力ですわね。じゃあ、私たちが信頼していた予知能力は全て偽物で。そもそもの元凶が雪野さんだったわけですか。そんなの許せませんわ。あの地震で何人の島民が傷ついたと思っているんですの」


怒りで我を忘れたかのようにまくしたてる。

そして、俺に突き付ける。選択を

「彼女を島外に追い返しましょう」


「それはできない。彼女は必要だ。それに、島外にそんな危険な女を野放しにするのは、お前のポリシーにも反するだろう」


「くっ。そうです。そうですわ。でも、彼女のせいで怪我をして痛い思いをした人が何人もいますの。怖くて眠れなくなったって人が何人もいますの。そんな中で、何も罰しないのは。信者にも島民に対しても失礼ですわ」


「それでも切ることはできない。俺は、全ての人を幸せにしたいんだ。島外の人たちはどうでもいいといって、野放しにすることはできない」

俺は心にもないことを真剣に言う。単純に彼女の能力は必要だ。天上才気と戦う上で。

世界を取る上で。

だが、理屈ではない感情というのは天才と言われてきた少女にもある。

「理屈は分かりますわ。けど、私はそれでもどうしても従えません」


そう言って、彼女は独り俺のそばを離れていった。

「ごめんなさい」

彼女はライトグリーンの瞳に涙を浮かべ、だがそれを流すことなく生徒会室から出ていった。


「えらい、悪趣味やね。ご主人様」

生徒会室のロッカーから会話を聞かせていた雪野が出てきた。


「何を言っているんだ?その方が話が早いだろう」

言葉で説明するよりも今の紗耶香の現状を把握してもらうにはこれが一番わかりやすい。

「ふふ。ええね。そのあくどい感じ。私のご主人様って感じやわ。」

狐のように妖しく、けれど綺麗な笑みを浮かべる新雪の巫女。


「だって、お前はそういう奴だろう。こういう奴に従いたいド変態だろ」

俺は苦笑する。偉い立場に立ち過ぎた彼女は、いつしか自分の上に立つに相応しい物を求めていたらしい。本当の意味でも雉野雪野は変態だった。俺は、それを感じ取っていた。戦う前から。

「ええ。これからもあんな正義感の大きい甘っちょろい耳年増ではできんほどの体験をご主人様としたいどす」

巫女服姿の美少女からご主人様といわれることに変な気分になりながらも大事なことは訂正する。

「わりぃけど、あいつの能力もお前と同じくらい必要だから仲良くしてな」


「はぁ。あんなん居んでもこなただけで余裕どすわ」


「まぁそういうなって。ただ、あいつには成長もしてもらわないといけないけどな」

俺は、できる限り人の好さそうな笑みを浮かべる。

「はぁ、こなたはご主人様には従いますわ」

溜息交じりに、雪野は俺のことを肯定してくれる。

「じゃあ、頼むわ。まずは仲直りからな」

俺は適当な言葉を吐く。

「言うとくけど、いくらご主人様でも、こなたはそれだけはできへんかもしれんからな」

「それでいいよ」

どちらでもよさそうに俺は爽やかな声を出す。

「いけずやな。全く、真意が読めんどすわ」

「まぁ、そうじゃなきゃお前みたいなやつのご主人様はやってられねーよ」

「のらりくらりとかわしてくるんやね」

巫女服の美女は、『まぁとりあえずの所は、これでお暇しますわ。こなたの奴隷のこともありますもんで』といって帰っていった。


(紗耶香には、頑張ってもらわないとな)

ぬくぬくとした優しさに心が温まりすぎないように注意しながら、俺はこれからの構想を練る。

世界を取るための構想を。詐欺師として。

これにて第2章は終了となります。

ここまで読んでいただいた方ありがとうございます。

読んでもらえるだけで嬉しさに小躍りしそうです。

わがままですがお時間あれば感想、ブクマ、評価などいただければ幸いです。


久しぶりの文で読みにくい所もあったかもしれません。

直せたらと思っておりますので感じたことあればどなたでもお書きいただければ幸いです。

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