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グランバール防衛戦──2

── グランバール防衛戦《1日目》──


 ソーマがプレイしているサーバーで大規模PvEコンテンツである「グランバール戦役」が開始された。すでに3フェーズ目に入っており、前半のフェーズでの準備不足からか、最終フェーズである「グランバール防衛戦」は非常に不利な状況からのスタートとなっていた。


防衛戦からトキンシックのメンバーと共に参加しているソーマは、メンバーを2つのパーティに分け防衛戦に参加していくこととなった。アリスのチームはロトワゥの最後の防衛線である“第三城壁”を突破してきた帝国兵を排除するため、西側の商業区へ向かった。


「我々は衛生兵を護衛しましょう。パーティにも空きがあるので、拾いながら東側を巡回しますか……」


「了解!」


「低レベルの人を護衛するんですね。わたしもよくやってたなー……経験値美味しいし」


ソーマのチームは、クラウスの提案通りにソロで彷徨(うろつ)いている衛生兵をパーティへ誘いつつ、蘇生を待っているプレイヤーへ送り届けることにした。


 “衛生兵”とは、経験値目的で参加している低レベルのヒーラーの事で、グランバール戦役では防衛戦中の行動にポイントが設定されており、その内容に応じて報酬額が計算される。どのような行動で、どれだけのポイントが入るかはいまだプレイヤーによる検証結果がはっきりしていない。が、どうも自分や味方を回復すると、敵を撃破よりも得られるポイントが高くなる説が有力である。


このシステムのため、低レベルのプレイヤーでもヒーラーで参加すれば経験値や戦績を稼げる。それが……低レベルでのヒーラーによる味方プレイヤーへの回復や蘇生()()を行う「衛生兵」という概念を生んだ。


すでに第三城壁から内側に多数の帝国兵が侵入してきており、それを押し戻そうと東側でも激しい戦いが繰り広げられていた。デスペナルティを嫌い、リスポーンせずに蘇生を待つプレイヤーは自身が転がっている座標をアライアンスチャットで伝え、ヒーラーを待つ。


「リカバリたのむー!」


「蘇生お願いしますー。座標(45.6 55.7)です」


ソーマたちはソロで衛生兵をしているプレイヤーを拾い、迷路のような市街地の通路を縫って蘇生を待つプレイヤーの元へ駆けつけ蘇生する……それを繰り返していた。


「ありがとうございます!」


「いやいや、気を付けて」


「ちょうどよかった。ソロやってるのは手近なヤツとパーティを組もう」


「はーい、よろしくお願いします」


「おっけー」


ソーマたちは衛生兵を伴いながら東側で一番の激戦区であるロトワゥ商業区へ到着した。すでに至る所で帝国兵と冒険者……プレイヤーが交戦中であり、破壊された拒馬(きょば)(運搬可能な障害物)の残骸がそこらじゅうに散乱している。両軍の武器が鍔競り合う音が激しく不協和音となり嫌でも聞こえて来る。


「衛生兵を連れてきてくれて助かった。こっちはほぼタンクとDPSのパーティばっかだったからな」


そう言ってヒュースのシールドガードがソーマたちへ感謝を表すため近づいてきた。すると、それを見ていたソロで活動していたタンクやDPSも集まってきてその場でヒーラーを加えた臨時のパーティ編成が始まる。

そうやってソロプレイヤーの吸収を繰り返していくうちに、いつしかソーマたちは6パーティほどを数えるちょっとした救護部隊となっていた。編成にあぶれた数十人のソロ衛生兵を囲み、パーティを組んだ者たちがそれを護衛する。


 そして蘇生を待つプレイヤ―の所へ行き蘇生のついでに帝国兵を撃退していく。そうして5、6パーティほどの集まりは同様に帝国兵と交戦している複数のパーティと重なり合って冒険者の壁が出来上がった。冒険者の壁は徐々に第二城壁まで帝国軍を押し戻していく。そのお蔭か、東側では帝国軍の撃退に成功し粗方態勢を立て直すことが出来た。防衛線開始からちょうど1時間が過ぎた頃……


「そっちはどうだ?」


クラウスは救護活動が落ち着いたのを見計らい、アリスのチームへギルドチャットを飛ばす。


オレ(ボルフント)だ、こっちはなんとか帝国兵を押し戻せた。余裕できたんで転送門の防衛に回ってる。旦那の方はどうだ?」


「こちらも何とか押し戻せたよ。ボス級は西側に集中していたようだ」


「だなぁ……そろそろアイツが出て来るんじゃねぇか?」


「そろそろか……東側も落ち着いたので、とりあえず中央でアレを待つ。そちらも状況を見て動いてくれ」


「あいよ……まだまだ帝国兵が多いから気を付けてな」


クラウスとボルフントがお互いの状況を確認していると、()()()の出現を知らせる会話がアライアンスチャットに飛び込んでくる。


「出てきた……!注意しろ!“カブトムシ”だ!」


「カブトムシポップしました!座標(55.7 62.1)行政区あたりです!」


「空いてるプレヤーは集合!カブトムシ優先しろぉ!」


「数で押さないと勝てないぞー」


 手の空いたプレイヤーが続々と指示された座標へ集合する。するとその座標が示した場所で巨大な黒い物体が移動しているのがわかる。その周囲にはかなりの数の帝国兵もいた。プレイヤーからカブトムシとあだ名された()()は、今回のグランバール防衛戦において脅威度が最大だった場合に出現する、帝国軍のボス級モンスターの中でも()()と呼ばれているボスである。高い防御力に厄介な攻撃スキル、あまつさえ反射ダメージ持ちとくればプレイヤーに嫌われるのは無理もない。


 カブトムシの制式名称は「帝国軍自律式二足歩行兵器Gz-8」……しかし、全身を曲面で成形された黒光りする装甲で纏い、人間でいう頭部の辺りには雷撃発生装置となる巨大なツノが天を衝いて生えており、2本の歩行脚とは別に上半身に4本の武器腕を持つシルエットは……まさに、()()()()()()()()()()()そのものである。


“カブトムシ”は自身の周囲に帝国兵をぞろぞろと従え、ゆっくりとした速度で進軍してくる。時折立ち止まり、頭部にある放電ユニットが光を発し、無差別に周囲にいるプレイヤーへ攻撃する「スパークホーン」が放たれる。


バリッ……リリリリ──


紫色の稲妻がカブトムシの周囲に幾筋も発生し、ダメージ範囲から逃げ遅れた冒険者は稲妻によってあっと言う間に瀕死にされる。HPをゼロにされたプレイヤーが無残に地面へ倒れ込む。しかしすぐにヒーラーによって蘇生が行われる。


「痛ってぇ……」


「結構範囲が広いから注意!」


 プレイヤー側は人海戦術でカブトムシのHPを削っていくしかなく、何度か繰り出されるスパークホーンを回避しつつ総出で攻撃を与えていく。そうこうしているうちに、いつしかカブトムシの周りには300人ほどのプレイヤーが集まっていた。

帝国軍はプレイヤーよりも精霊障壁塔への到達を優先するため、タンクがカブトムシへのヘイトを取っている状態でもカブトムシが歩みを止めることは無い。

カブトムシの4本の腕が周辺を掻きまわすと冒険者数人が宙を舞い、ばたばたと倒れていく。群がる冒険者を蹴散らしながら、ゆっくりとではあるがカブトムシは精霊障壁塔へと近づいていく。


ヒールが間に合わず、カブトムシのヘイトを持っていたタンクが倒れるが、すかさず別のタンクがタウントスキルでヘイトを取る。その間にも次々とDPSがカブトムシへ攻撃スキルを撃ち込んでいく。もはやタコ殴りの様相を呈しているが、このようなコンテンツではどうしてもこうなってしまう。ソーマたちも衛生兵の蘇生活動が落ち着いたため、中央へ向かいカブトムシへの攻撃に加わっていた。


「相変わらずのタコ殴り戦法……」


「カブトムシのスパークホーンは攻撃範囲が広い。あと“腕”にも注意!」


「あーい!」


 ジンベイとミクがカブトムシに張り付き攻撃に加わる。ソーマもこのプレイヤーの数ではMTとして回ってくることは無いと思い完全にDPSとして動く。バリバリッ──激しい放電音を発しスパークホーンが発動するたび、アライアンスチャットで阿鼻叫喚の声が何度も聞こえて来る。4本の腕から繰り出される力任せの攻撃でも戦闘不能になるプレイヤーが相次ぐ。しかし、倒されるプレイヤーと入れ替わりに新たなプレイヤーが攻撃に加わり、カブトムシの精霊障壁塔への到達を阻止しようと奮戦していた。


何としても精霊障壁塔は守らねばならない、この場にいる全てのプレイヤーの想いは一致していた。


スパークホーンの攻撃でばたばたと戦闘不能者を量産しつつも、冒険者たちは何とか帝国軍の魔導兵器を食い止めようと、人海戦術で波状攻撃を掛ける。それが功を奏しカブトムシのHPは2割を切っていた。そして──


「よし、もうちょい!このまま押せ押せ!」


「倒せるぞー」


「リカバリお願いしますー」


「あともうちょっと……削りきれぇえええ!」


ギギギ…ゴンッ…ガコン──


HPがゼロになったカブトムシは大規模な爆発音と共に全身から紫色の放電が始まり、その場に崩れ落ちる。周囲にいた帝国兵も冒険者の数の暴力であっという間に倒された。


「やったー!」


「よっしゃー!山場は越えたぞー!」


「カブトムシ倒せましたー!みんなお疲れさまー」


「おつー」


カブトムシを倒すため集まった数百人の冒険者が一斉に勝利を喜ぶ。飛び跳ねたり、攻撃スキルを連打したり……さまざまな表現で喜びを現す。なんとかカブトムシを撃破し最大の脅威は去った。これに乗じて冒険者たちは反攻に転じる。すでにボス級のモンスターは粗方倒されており、残るは雑魚の帝国兵だけである。帝国兵の数はいまだに多いが、地道に潰していけば勝機はロトワゥ防衛軍にある。防衛線開始からすでに2時間が経過してた。


「よっしゃー!押せ押せー!」


「西側、帝国兵の排除ぼほ終わりました」


「帝国軍の後退を確認!」


「ボーナスタイムきたぁああ!」


ソーマたちも、後退する帝国兵に追い打ちをかけつつ時間切れが来るのを待つ。すでに散発的な殲滅戦に切り替わっており、誰もが勝利を確信していた。


「なんとか……守りきれそうですね」


「今回はやばかったなー」


「でもポイント結構稼げましたよ。戦績が楽しみ」


 先ほどまでとは嘘のようにロトワゥの市街地での戦闘は沈静化していた。そのため戦闘を止めその場で時間切れを待つプレイヤーが目立つようになった。

衛生兵として蘇生作業を行う者、ギリギリまで帝国兵を倒しポイントを稼ごうとする者……プレイヤーによってそれぞれであるが、すでに帝国軍は撤退を開始しており侵攻時とは逆に冒険者へ背を見せ第一城壁へ吸い込まれるように消えていく。


《──防衛成功!──》


すると、防衛成功を伝えるアナウンスが表示されファンファーレが鳴り響く。先ほどまで立ち上っていた煙や、破壊された城壁、市街地などは消え、それまでの防衛戦専用の風景から一瞬にして、インスタンスエリアが通常時の平和なロトワゥの景色に切り替わる。グランバール防衛戦が終了した合図だ。


そしてNPCによるアライアンスチャットが響く──


《帝国軍の後退を確認!……冒険者義勇兵らの活躍により帝国軍は撃退された!感謝する!……今回の防衛戦に参加した冒険者の諸君には特別な報酬を用意した。後ほどロトワゥ防衛軍本陣へ来られたし!》


これによりグランバール防衛戦は幕を閉じた。冒険者が侵攻してくる帝国軍を押戻し、見事ロトワゥを守り切ったのである。そのアナウンスが流れると、それまで必死に戦っていたプレイヤーたちから安堵の声がそこらじゅうで漏れ聞こえた。


「やったー!守り切ったぞ!」


「勝てたぁ、嘘みたい……」


「きつかったけど面白かったぁ……」


リカバリ(蘇生魔法)お願いしますー……」


「転送門は大丈夫ですかー?」


「転送門生きてますー」


転送門が帝国軍に破壊されると修復までに現実時間で1日を要する。その間はロトワゥへの転移は出来ないため、転送門の死守は絶対であった。防衛線が終了するとまず転送門の安否の確認は恒例になっていた。

ドワイトの指示でアリスたちのチームが転送門の護衛に回っていたこともあり、転送門は破壊される事なく無事であった。


「ソーマちゃんどうだった?」


「いやー、楽しかったです。これだけの人数でやるコンテンツは始めてでしたし」


「報酬も美味しいしなぁ。これでもうちょっと発生頻度が高けりゃ……」


「経験値美味しいですよねぇ」


「うふふふ、ヒーラーが一番活躍できるコンテンツですもの!」


「がんばりましたです!」


ソーマたちは別行動を取っていたアリスのチームと合流し、防衛戦成功を喜び合う。しかしそんな最中──


《帝国軍の侵攻を確認!防衛軍および冒険者義勇兵は侵攻中の帝国軍をロトワゥ到達前に迎撃、ロトワゥ到達を全力で阻止せよ!》


平和だったロトワゥの風景がすぐさまグランバール防衛戦仕様の風景へ変わる。空は赤く染まり、市街地のそこかしこに煙が立ち上りNPCは逃げ惑い、先ほどまでは無かった拒馬や巨大なバリケードが街の至る所に瞬時に現れた。


再びグランバール防衛戦が開始される──その様子に先ほどまで安堵の表情を見せていた多くのプレイヤーは事態を飲み込めず唖然とする──


「いや?え……?」


「さっき終わったばっかじゃん!なんでまた始まってんの?」


「わけわかんねー!」


「もしかしてバグ?」


「オイオイオイ……」


「運営ぇええええええ!仕事しろぉおおお!!」


防衛戦を終え、先ほどまでまったりムードだったプレイヤーは、突如として再び帝国軍との泥沼の攻防戦の地獄に叩き落された。そのためプレイヤーたちは口々に()()()を空に向かって叫ぶ。どうも最初のグランバール戦役前に行われていたメンテナンスで不具合が発生したようで、防衛戦に勝利しながらも帝国軍の侵攻ゲージがMAXになってしまい帝国軍の連続侵攻が開始されたのだ。


こうなっては再びロトワゥは帝国軍の脅威にさらされてしまうため、間髪入れずグランバール戦役が始まってしまった。


この“グランバール戦役連続発生”のバグは、ソーマたちのサーバー以外でも複数のサーバーで確認されていた──

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