表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/34

グランバール防衛戦──3

 ブレオンにおける大規模PvEコンテンツ“グランバール戦役”が日本DC(データセンター)にある複数のサーバーで同時に発生した。ソーマのプレイしているサーバー(通称“竜鯖”)でも起こり、所属しているギルドのメンバーと共に参加し、最終フェーズにおける「グランバール防衛戦」にて見事ロトワゥを守り切り、グランバール戦役は終了した……いや終了するはずであった。


しかし、何らかの不具合によるものか防衛戦に勝利し、一旦は終了したものの、間髪入れずに再びグランバール戦役が開始されてしまった。これには防衛戦を戦い抜いたプレイヤーも力が抜け、諦めてログアウトするプレイヤーが少なくなかった。

エリアサーチを行うと、先ほどまで800人近くいたプレイヤーのうち3割ほどがすでにロトワゥから他のエリアへ離脱するか、その場でログアウトしていた……。


「どうやら……何らかの不具合でまたグランバール戦役が開始されたようですね……」


「これは……仕様ですか?」


先ほどの平穏なロトワゥの風景とは打って変わって、防衛戦仕様の風景に変化してしまったロトワゥの様子を眺めながらソーマはクラウスに問いかける。


「いえ、今までこのような事はありませんでした。おそらく……」


バグであろう……と、クラウスは神妙な面持ちで考え込む。ソーマの他にもミクやレイジなどは動揺を隠せずにいた……。


「え?え?これって……」


「マジかよー……バグとか聞いてねぇぜ」


「何にせよ、防衛戦を成功させんとロトワゥが使えなくなるぞ……」


ジンベイが達観した様子で呟く。さすがは熟練者プレイヤーと言ったところである。


「まだ続けられるのは?無理しない程度でいいが」


「あ、自分まだいけます」


「わたしも……」


クラウスが皆へ確認を取る。ソーマとドワイトは手を上げ残る意思を示す、が……


「すまん、オレは落ちるわ……さすがにこれ以上は仕事に響く」


「わたしも……みんな頑張ってくださいね!」


「……同じくおちる……」


「ごめんねぇ、わたしも朝早いからここまでかもぉ」


「俺はまだいけるぜ……ついでだし、もう少し戦績を稼いでいく」


結局、離脱を表明したのはボルフント、ミク、メリアディ、アリス、レイジの5人、残ったのはそれ以外……ソーマを始め、ジンベイ、リーサ、クラウス、ドワイトの5人であった。


落ちる者はその場でログアウトする……それ以外では徒歩でロトワゥの門を潜りインスタンスから出るしかない。メリアディは挨拶の代わりにソーマたち全員にソウルウォール(全体防御魔法)を唱えログアウトしていった。


 残ったプレイヤーたちは前回の反省を踏まえ、最初のフェーズで十分に完遂率を上げ、帝国軍の脅威度を上げないようにプレイヤーが団結して帝国軍拠点を最初のフェーズでなるべく攻撃するように努めた。プレイヤーの中から有志を募り、侵攻の“始点”となる帝国軍の敵本拠地急襲を繰り返し、兵力を減らしていく。引き続きログインしているソーマたちもこの拠点攻撃に加わり、帝国軍の戦力をなるべく減らしていった。


これが功を奏し、2回目の侵攻による脅威度は1回目よりも低く抑えることが出来た。これで“カブトムシ”が出てくる心配は無くなり、2回目は比較的プレイヤー側に有利な戦況で防衛戦を終えた。


そうしているうちに、ソーマたちの世界の外側……現実世界では、この不具合によるグランバール連続戦の様子が次第にSNSや()()()()()()など、色々なところで話題になっていた──


《連続でグランバール戦役が来たんだが?》


《蛇、剣、竜、斧……全部のサーバーで連続で2回目来てるな》


《マジか?斧鯖まだ耐えてんの?》


《これ不具合として公式に上がってる?》


《ちな蛇鯖、こっちは2回目にカブトムシ来てダメだったわ……》


《竜鯖もカブトムシ来てたの?きっついな……》


《“Livetube”でストリーム配信してるの見てるけどカブトムシで死にすぎ》


《あと何鯖生きてんの?》


《剣と竜と……斧鯖?》


《がんばれー!グランバール戦してる人ら、いや、全グランバール戦参加者……オレは仕事でインできんけど》


《こちら剣鯖、とうとうクリスタル奪われちまった……あとは竜鯖だけだ。頑張ってくれ》



SNSなどで頻繁に情報交換が交わされる。ついにはSNSで“グランバール連続戦”がトレンド入りする事態になった。すでに現実時間では深夜を迎えていたが、それでもプレイヤーは休むことなく帝国軍の侵攻からロトワゥを守るため激戦を繰り広げていた。


「押し戻せぇぇえええ!」


「いける、いけるぞー。このまま西側を死守!」


「竜鯖の力思い知れぇえええ」


「運営ー!仕事しろぉおおお!」


「不具合なんかに負けるかー!」


「精霊障壁の前に集合!壁を作ろう!」


何度か精霊障壁塔の門が開きバリアクリスタルに帝国軍が迫るが、それでもプレイヤーたちは協力してギリギリのところで帝国兵を撃退し城壁の外へ押し戻していく。


 帝国軍の侵攻が3度目ともなると、プレイヤー達は連戦による疲労からか……非常に士気が高揚していた。また、深夜のテンションも加わり……冒険者の義勇兵は見る見るうちに帝国軍を城壁の外へ押し出していく。グランバール連続戦が行われている複数のサーバーは深夜にもかかわらず参加者が600人を下回ることは無く、驚くことにソーマの竜鯖ではどの時間帯でも平均800人以上の参加者をキープしてた。


── グランバール防衛戦《2日目》──


最初のグランバール戦役が開始されてから2日目の夕方、ソーマがログインするとすでにクラウスとドワイト、リーサがロトワゥにいた。ソーマもすぐにロトワゥに一番近い転送門へ飛び、引き続き防衛戦へ参加する。そうしているうちにアリスやミクなど……次々とギルドのメンバーがログインてきていつもの面子が揃う。ソーマたちは再び防衛戦を行うためロトワゥの市街地へ散っていく。


「落ちてからずっとネットで見てましたけど……凄いですね、ウチ含めて他のサーバーの人も…」


「クラウスさん……もしかしてずっといます?」


「はい」


目標地点へ向かいながら、ソーマは恐る恐るクラウスに尋ねてみる。クラウスは当然といった表情でニコリと答える。


(こういうのを“廃人”って言うのか……)


ソーマは改めてクラウスのガチっぷりに畏敬の念を覚えた──


すでに最初の侵攻から20時間程が経過しており、先ほど5度目の侵攻を撃退することに成功していた……しかし、今までと同様にすぐに帝国軍の侵攻が開始される。

とうとう“6回目”の侵攻を数える事となる。この時点で精霊障壁塔を今だ死守できているのは竜鯖だけであったが、さすがにこの頃になると参加しているプレイヤーの数も全盛期に比べ半分以下にまで減っており、人数が足りず度々精霊障壁塔へ攻め込まれる回数も多くなっていた。

いずれはバリアクリスタルを帝国軍に奪われ敗北してしまうのではないか……と、誰もが諦めかけていた……。


また、この6回目の侵攻を防いでも再び帝国軍が襲ってくるかもしれない……皆の精神的な疲労は限界にきていた、その時──


《22:00より24:00頃まで、不具合修正のため緊急メンテナンス作業を実施させて頂きます。メンテナンス作業開始時刻までにログアウトして下さいますようお願いいたします》


突然のメンテナンス報告がプレイヤー全員に告知される。それを聞いたプレイヤーたちは次々と歓喜の声を上げる。


「メンテきたぁあああああああ!」


「やっとか!おせーぞリチャ(リチャード)!」


「ほんとかー?ホントにメンテ来るんだな?」


「やっとログアウトできる……寝よう」


 その場にへたり込む者、近くの者と抱き合い喜びあう者、武器を掲げ勝鬨を上げる者……普段は歓迎されない緊急メンテナンスを、このときばかりは皆が歓迎した。これにより、竜鯖のプレイヤーは、最初の帝国軍の侵攻からほぼ24時間を掛けて1度たりともバリアクリスタルへ寄せつけず、見事ロトワゥを守り切り防衛戦に勝利し続けた。


同様にSNSでもメンテナンスの告知を受け、今回の騒動に関するものや、また唯一バリアクリスタルを守り切った竜鯖を称えるコメントが続々と書き込まれる。


《メンテきたぞ!》


《これで終わりか?まだ確変あったりして……》


《すげー!竜鯖耐えきった》


《剣鯖は惜しかったなぁ……》


《かくして竜鯖の一番長い日が終わった……》


《ほんと、リアル1日掛かるとかどんだけだよ……》


《運営メンテ判断遅すぎだろ……》


ソーマたちも緊急メンテナンスのアナウンスを聞き、すでに戦闘を停止していた。


「緊急メンテきたです!」


「お……やっとこの不具合が修正されるのか?」


「はぁー……疲れた!インしたらまだやってたんだもん」


「終わり?メンテ来て終わりなの?……やったぁああ!」


「はぁー、マジかよ……今頃遅い、って……おっさん重いぃいい」


ミクが背中を仰け反らせぐぅーっと伸びをする、それにつられる様にミルディ特有の尻尾も持ちあがる。レイジとジンベイは背中合わせになり地面にへたり込む。メリアディとリーサはお互い手を繋ぎ喜んでいた。


「皆お疲れ様、結果はともかく……いい経験にはなったと思う」


皆の様子を見てクラウスが苦笑する。その横でガラン──という音と共に、アリスが巨大な盾を手放しソーマへ背中を向け、そのままもたれ掛かった。

もたれ掛かるアリスの肩をソーマは腕で支え受け止める。


「おっと……」


「……つかれた」


アリスは全身をソーマへ任せ目を瞑り呟く。


 緊急メンテナンスのアナウンスが告げられ、ソーマたちはようやくこの連続戦の終止符が打たれるのだ……という安堵感で一杯だった。結局、竜鯖では合計6回目にのぼる帝国軍の侵攻が行われた。今回グランバール戦役が行われたサーバーの中で、それら全部を撃退することに成功したのは唯一“竜鯖”だけであった。

勝因として竜鯖はグランバール戦役中、どの時間帯でも最大に近いプレイヤーを揃えられたことが大きかった。ソーマも一旦はログアウトしたものの、再度ログインし延べ時間にすれば10時間以上はこのグランバール戦役に費やしている。ソーマはこれだけ集中してブレオンにログインしたのは今回が初めてだった。


中にはクラウスのように、初日の戦闘からずっとログインしっぱなしでロトワゥを防衛していた強者もいたが……。


ともあれ、参加時間はともかく……この防衛戦に参加した全員が()()となった。


ヴレインディア時間で10日(現実時間において24時間ほど……)もの間、ロトワゥを守り切ったのである。かくしてソーマたち、竜鯖プレイヤーが繰り広げた10日間の攻防戦は後に──


──竜鯖10日間戦争──


と呼ばれ、長く語り継がれる事になる──

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ